師匠と弟子
それからまた一月が経った。すでに望は天斬流の全ての型を使えるようになり、現在はそれぞれの技に磨きをかけていた。
「うむ、どの技も仕上がってきておるのぅ」
「もう少し早く習得できると良かったんですけどね」
「何を言っておる。二月で剣術の型を習得できる者なんておらんぞ。お主の再現魔法とやらに感謝するんじゃな」
望は再現魔法を使うことで、アゼロのお手本をを再現して特訓してきた。それが功を奏し、こんなにも早く天斬流を習得することができたのだ。
「まあ、たしかにこの力のおかげではありますけどね」
「そうじゃ、望。今日の夜、儂の部屋に来てくれんか?」
「ええ、いいですけど……」
望は少し驚く。アゼロの元に弟子入りしてから今まで、アゼロの部屋に入ったことがないからだ。それが今日、急に来てくれと言われるなんて……何かあるとしか思えない。
「なに、少し話をするだけじゃ。そう構えんでいい」
アゼロは望の心を読んだかのような発言をする。何はともあれ、アゼロに呼ばれたのだ。望に行かないという選択肢はない。
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その日の夜、望はアゼロの部屋に向かった。扉の前でアゼロを呼ぶと、「入れ」という声だけ聞こえた。
「失礼します」
「来たか、望。そこに座ってくれ」
アゼロは自分の目の前の座布団を指す。望はそこに座り、アゼロの方に向き直った。
「それで話というのは……」
「少し儂の話を聞いてもらおうと思ってな。聞いてくれるか?」
「は、はい」
アゼロは傍らに置いてあった木剣を自分の前に置く。それは普段アゼロが使っているものとは別のものだった。
「これは儂の弟子……ディゼオの木刀じゃ」
アゼロは視線を木剣へと落とす。望もつられて木剣を見た。
「弟子ってことは、ディゼオさんは俺の兄弟子ってことですか?」
「そうじゃ。ディゼオは五年前に儂の弟子だった男じゃ。この木剣はその頃にディゼオが使っていたものでのぅ、ディゼオが独り立ちするときに持っていったものでもある」
「持っていった?」
望にある疑問が浮かぶ。ディゼオが持っていったはずの木剣が何故今ここにあるのか。その答えはすぐにアゼロの口から出された。
「ディゼオは独り立ちをしてすぐに亡くなったんじゃ。クエストの最中に、ある魔物に襲われての」
「ある魔物って……」
「その魔物の名は天空竜クラウディス。魔物の中でも最強格である竜種の内の一体じゃ」
竜と聞いて、望は目を見開く。今までクエストボードの中のクエストに竜の名は一つも見たことがなかったからだ。もしかしてダンジョンなどの特殊な場所でないと存在しないのかもと思っていたが、やはり竜は普通に存在するらしい。
「そして三年前、冒険者をしておったカエデの父と母はあるクエストに向かった。それが天空竜クラウディスの討伐じゃった。儂は止めたのじゃが、あやつらは討伐に向かった。そして、あやつらは……亡くなった」
アゼロは両手の拳をぐっと握りしめる。
「儂は前々から天空竜クラウディスの討伐に向かおうと思っておった。じゃが、もし儂に万が一のことがあれば、カエデは一人になってしまう。ただでさえ早くに両親を失ったあの子を一人にすることなんて……儂には出来んかった」
そして、強い眼差しで望のことを見た。
「そこに現れたのが望、お主じゃった。そもそも、儂はもう弟子を取る気はなかった。あの時勝負を受けたのも、力の差が分かれば引いてくれるじゃろうと思ってたからじゃ。でも、お主があの時に見せた技や顔が……ディゼオにそっくりじゃった。まるで生き写しかと思えるほどにの」
(まさか燕返しを使う異世界人がいるとは……驚きだな)
日本の剣豪、佐々木小次郎の技を知らずに使える人が異世界に存在したようだ。まさに天才と言っても過言ではないだろう。
「しかも、ティアナによると、お主は剣を習ったことが無いと言うではないか。その時、儂は思ったんじゃ。神様がお主を育てろと言ってるのではないかとな。じゃから、儂はお主に剣術を教えた。そして、お主はみるみるうちに成長して、もはや免許皆伝と言っていいほどにまでなった。儂としては独り立ちを許可しようとも思っておる。そこでお主に頼みがある」
アゼロはそう言って望に土下座をした。
「どうか、お主の旅にカエデを同行させてはくれんか?お主らにならカエデを安心して預けることができるんじゃ」
アゼロの言葉に望は少し考える。旅に同行させることがどうこうという問題では無い。そもそも、同行のことに関して、カエデの意思が尊重されているのかということだ。
「カエデには言ったんですか?」
「いや、まだ言っておらん。先に望に聞いてもらおうと思ってな」
「なら、俺はまだ答えは出せません」
「何故じゃ?ダメならともかく、答えが出せないとはどういう……」
「カエデの意思が分からないからです。彼女がどうしたいのか、それをまず先に聞いてから俺は判断したいです」
望は真っ直ぐな想いをアゼロに伝える。アゼロは少し笑うと、うんうんと頷いた。
「そうじゃな。まずはカエデの気持ちを聞かんといけない。儂は自分のことでいっぱいで忘れておったわ。すまんかった」
アゼロはもう一度望に頭を下げる。望はなんとかすぐに頭を上げさせて、アゼロに言った。
「明日みんなで話しましょう。そして、決めましょう。これからのことを」
「ああ、分かった。今日は呼び出してすまんかったな」
「もう謝らないでください。それじゃあ失礼します」
そうして、望はアゼロの部屋を後にしたのだった。
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