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孤高の再現魔法使い  作者: 潮騒
第一章
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最強の剣士



 翌日、望たちは王都の西の山の中にいた。もちろん、最強の剣士と呼ばれるアゼロに剣術を教えてもらうお願いをするためだ。


「ねえ、アゼロさんの家はまだなの?」

「王都で聞き込みをした時は山の中腹ぐらいに家があるって言ってたから、もうすぐだと思うけどな」


 かろうじて道と呼べるような場所を通り、アゼロの家を目指す。そうして少し経つと、古民家が見えてきた。


「あ、あれじゃない?」

「そうかもな。行ってみるぞ」


 望たちは古民家の前まで行く。すると、庭で洗濯物を干している望と同じくらいの歳の少女がいた。少女は望たちに気づくと、笑顔で会釈をした。


「何か御用ですか?」

「ここはアゼロ=ヒューゼルさんのご自宅ですか?」

「そうですよ。少々お待ちください」


 少女は微笑むと、家の中に入っていった。おそらくアゼロを呼びに行ったのだろう。少し経つと、少女と大柄な老人が家から出てきた。


「儂に何か用か?」


 大柄な老人――アゼロは望たちに尋ねる。望はアゼロから放たれるプレッシャーに押されながらも用件を伝えた。


「俺に剣術を教えてください」


 望の言葉にアゼロはピクリと眉を動かす。そして、ため息を吐くと、くるりと後ろを振り返った。


「帰れ。儂が教えることは何もない」


 そう言って、アゼロは家の中に戻ろうとする。望はそれを全力で引き留めた。


「待ってください。なぜ教えてくれないのか、理由を聞いてもいいですか?」

「簡単な話じゃ。お前には見込みがない。儂が教えたところで、ロクな使い手にならん。これで満足か?」


 アゼロは望に辛辣な言葉を並べる。それでも望は食い下がらず、一つの提案をアゼロにした。


「なら、俺と勝負して、それを見てから判断してください」


 そう言って、再現魔法で木刀を二本作る。それを見たアゼロは少し笑い、望に手を伸ばした。


「面白い。お前の実力を見定めてやろう」


 望から木刀を受け取ったアゼロは少し距離を空けて振り返る。望は体育の授業でやった剣道を思い出して、その時に習った構えを取る。いわゆる正眼の構えというやつだ。


「ほう、構えはそこそこじゃな」


 そう言うアゼロも望と同じく正眼の構えを取る。その二人の間に少女が立っていた。


「カエデ、審判を頼む」

「分かったよ、おじいちゃん」


 栗色の髪の少女――カエデは右手を前に出し、望とアゼロの準備が整っているか確認する。


「では行きます。よーい、始め!」


 始まりの合図とともに望が駆け出す。そして、全力の振り下ろしをアゼロに放った。


「はぁぁぁぁ!!」

「……甘いッ!」


 アゼロは望の振り下ろしに完璧にタイミングを合わせて木刀を振り上げた。


「ぐっ……」

「ほれ、どうした!」


 アゼロはガラ空きとなった望の横腹に強烈な一撃を叩き込む。先ほどの攻撃で体勢を崩したままその攻撃を受けたため、望は吹き飛ばされてしまう。


「ふん、やはり所詮はその程度か」


 望はゆっくりと立ち上がる。その目はまだ死んでいない。闘争心を無くしてはいないようだ。アゼロもそれに気づき、正眼の構えを取る。


(分かっていたけど正攻法じゃ当てられないか……。仕方ない、一か八かやってみるか)


 アゼロに攻撃を当てるために策を練った望は早速行動に移す。勢いよく駆け出し、先ほどと同じように木刀を振り上げ斬りかかる。


「同じ攻撃しか出来んとは……やはりお前に見込みはないようじゃな!」


 アゼロの少し手前で振り下ろされた木刀はそのまま空を切る。その攻撃を見たアゼロはトドメとして、望の肩めがけて木刀を振り下ろした。


 その時、望が顔を上げた。髪の間から見えるその目は先ほどと何ら変わらない、闘志を燃やした目だった。


(なんじゃ、此奴のこの目は……。まだ何かあるというのか?)


 そう考えていたアゼロはハッと気づく。木刀を振ることにより下がった望の体の更に下。地面スレスレのところからこちらに向かって上がってくる木刀の存在に。


(まさか、今の攻撃はブラフ……!?本命はこっちじゃったか……)


 それは日本の剣豪佐々木小次郎の技。名を「燕返し」と言うその技は、一度刀を空振りすることで相手を油断させ、すぐに刀を上に向けて斬りあげることで股から顎まで斬り裂くというものだ。今回は木刀のため、望はアゼロの顎を狙っている。


「はぁぁぁぁぁぁ!!」


 望の渾身の一撃に、アゼロは仕方なく本気で対応することに決めた。


「天斬流三の型 破流天下(はりゅうてんか)


 アゼロはくるりと回転し、剣の軌道を無理やり変えて望の攻撃を弾く。そして今度は逆に回って、体勢を崩した望の顎に一撃入れた。


「が……ッ!」


 望はアゼロの攻撃を食らって意識を失う。アゼロは木刀をそっと床に置くと、ティアナの方を向いた。


「赤い髪の少女」

「は、はい!」

「此奴は今まで剣術を誰かに習ったことがあるか?」

「い、いえ、無いって言ってましたけど……」


 アゼロはティアナにそれだけ聞くと、気絶している望を担ぎ上げて家の中に入っていく。それを見たティアナがあたふたしていると、カエデが笑顔で手招きをするのでシェーネと一緒に家の中へ行くのだった。




 

もし面白いと思っていただけたら、評価、ブクマなどなどよろしくお願いします。作者が犬の鳴き真似をします。

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