異世界は光とともに
書き溜めていた作品です。他作品との同時進行なので毎日は難しいかもしれませんが、なるべく毎日投稿するつもりです。よろしくお願いします。
それはある日の昼休み。天道望はいつも通り購買で買ったパンを食べながら勉強をしていた。
望は高校3年生で進路には進学を選んでおり、目当ての大学に受かるために絶賛受験勉強中なのだ。望の成績なら目当ての大学には余裕で受かるのだが、どんな時でも慎重かつ確実に行くのが望のモットーである。念には念を入れるタイプなのだ。
「望君、昼休みまで勉強してるの?少し休憩したら?」
望に話しかけるのは一年生の時に同じクラスだった杉山奈緒。最初の席が隣だったため話すようになり、このクラスでは望が気兼ねなく話すことができる唯一の人物だ。
「受験まで半年を切ったんだ。周りに差をつけるためにはこのくらい必要だろ?」
「それはそうだけど……望君の成績なら志望校は楽勝なんでしょ?時には休憩も必要だよ」
「……はあ、まあそうするか」
望がそう言うと、奈緒は「ふふっ」と笑った。その含み笑いに望は首を傾げるも、特に気にしないことにした。曰く、女子の考えてることはよく分からない、らしい。
「そういえば、奈緒はもう昼は済ませたのか?」
「うん、もう食べたよ」
「……早いな」
「早弁は得意なんだよね〜」
「それは意味が違うだろ」
そんな他愛もない話をしていると、何の前触れもなくそれは突然起こった。
「お、おい!な、何だこれ!!」
誰かの叫びで望は気付く。教室の床にバカでかい魔法陣が浮かび上がっていた。誰かの悪戯とも言えなくはないが、つい先ほどまでは確認できなかった。ということは、これは一瞬でここに書かれたということだ。
(これは小説でよくある魔法陣……か?いや、あれはあくまで小説の中の話だ。現実に起こる訳が……ッ!?)
望は頭の中で思考を巡らせていた。すると、床の魔法陣が急に光り出した。
「きゃあ!」
「うわぁ!な、光った!?」
教室中からそんな声が聞こえる中、望は思考を止めなかった。この非現実的な状況に対しても、いろいろな可能性を考慮する。だが、光は望の思考を邪魔するかのようにその輝きを増す。それに比例して望の意識は遠くなっていった。
(くっ、頭が……回らない……。意識が……遠の、いて……)
目の前が光で埋め尽くされる頃には、望の意識は完全に無くなっていた。
一方、教室ではさらに不可思議な現象が起きていた。教室の中が急に光ったと思えば、次の瞬間には中の人間が一人として消えているのだ。だが、廊下を通る者はまるでそれが当たり前かのように教室の前を素通りしていった。
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「……ッ!」
望は勢いよく飛び起きる。何故か急に目が覚めたのだ。周りを見ると、クラスメイトたちが大理石の床で寝ている。さっきまでは自分も同じ状態だったのだろうと察した。
そして、そんな望たちの周りを神父のような服装の男たちが囲んでいた。彼らは皆、一様に歓喜に打ち震えているといった表情を浮かべている。望はそれを見て、顔をしかめた。理由は至極単純。男たちの表情が信じられないくらい気持ち悪かったからだ。
望がそうしている間に、クラスメイトたちも起き始めたようで、所々から様々な声が聞こえた。
「え、こ、ここはどこ?」
「教室じゃないよな?」
「な、なんですか!あなたたち!」
男たちはクラスメイトの声を聞いて慌て始めた。その男たちの間を割って、他とは違う衣装を身につけた老爺が望たちへと歩み寄る。
「驚かせてすみません。また、突然あなた方を召喚したことも重ねて非礼を詫びさせていただきます。ですが、まず私どもの話を聞いていただきたいのです。どうかよろしくお願いします」
その老爺はとても丁寧な口調で望たちに対応する。ここにいたところで埒が明かないこともあったのでクラスメイトたちはその老爺の話を聞くことに決めた。
「分かりました。話ぐらいなら聞きます」
クラスメイトを代表して、学級委員の新山宗史が答える。すると、老爺はニヤッと笑いを浮かべた。周りの男たちとはまた別の気持ち悪さに望は嫌悪感を覚える。
(この世界には気持ちの悪い奴らしかいないのか……?いや、そんな訳ないよな)
そんな感想を言いそうになった望は頭を振って考えを正す。さすがに全員こんなのばっかだったら本気で頭がおかしくなる、そう思うのも仕方がないことだろう。
「では、皆様。こんな所では何ですので、どうぞついてきてくだされ」
老爺の言葉に従い、クラスメイトたちはその後をついていく。望も仕方ないのでついていくことにした。
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案内されて着いた部屋はいくつものシャンデリアが吊るされた、それはもうキラキラした部屋だった。部屋の中央には長机にたくさんの椅子が並べられており、老爺は望たちにそこに座るように言った。
望たち全員が席に座ると、老爺は話を始めた。
「まずは自己紹介から……。私はルヴェリア=イグワールと申します。ここ、アーストライト大神殿の神官長を務めております故、以後お見知りおきください」
ルヴェリアは深々と頭を下げた。それに合わせて彼の周りの男たちも頭を下げる。どうやら老爺はここで一番偉い人のようだ。
「次にこの世界についてお話しいたしましょう。この世界は『ノーヴェル』と言い、東西南北の4つの大陸から成ります。皆様が現在おられる大神殿は東の大陸に位置しております。東の大陸の特徴は四季がはっきりしていることです。春があり、夏、秋、冬と過ぎていきます」
望は話を聞きながらも思考を続ける。東の大陸は地球、それも日本と同じ自然環境のようだ。
「そしてここからが我々の本題となります。近年、この世界に生息する魔物が活性化してきて我々の手に負えなくなってきています。その理由は魔王の復活にございます」
「ま、魔王……」
「それってゲームとか小説の?」
聞き慣れた言葉に皆反応を隠せない。それはその敵が確実に強大な力の持ち主だと分かっているからだ。
「げーむ……とやらが何かは分かりませぬが、あなた方も知っておられるのなら話は早い。奴は我ら人間の宿敵であり、かつてのこの世界に君臨した神によって封印されたと伝えられていました。ですが、その言い伝えでは千年後に封印が弱まり、魔王は復活するだろうとも言われておりました。そしてつい先日、千年後を迎えました。言い伝え通り、魔王は復活し、それからというもの各地で魔族や魔物による被害が起きております」
ルヴェリアはわずかに顔を俯かせる。まるで思い出したくないことを思い出したかのように。それだけ魔物による被害が酷いのだろう。クラスメイトの大半は顔を曇らせている。それに対して、望は一環として冷たい顔をしていた。
「誠に勝手なのは承知しております。ですが!もはや我々だけでは手に負えなくなっておるのです……!すでに西の大陸では魔王軍幹部に占拠された国もあるらしいのです。時間はない。今すぐ行動に移さねば……手遅れになるのです!そこでお願いです。あなた方、異世界人はこの世界の人とは比べ物にならないくらい強大な力を持っております。その力でどうか我々を……この世界を救ってくれませぬか?どうか、どうかお願いします……!!」
ルヴェリアはまるで政治家のように熱い演説を行う。その演説に心を打たれた一人である宗治はおもむろに立ち上がり、クラスメイトたちに向かって叫んだ。
「みんな、やろう!魔王を討伐し、この世界を救えるのは俺たちしかいないんだ!なら、俺たちはやらなければいけないんだ!みんなもそう思うだろ?」
その言葉にクラスメイトのほとんどは力強くうなずく。だが、当然反対の意見も出る。
「で、でも、戦わないといけないんでしょ?私、怖いよ……!死にたくないもん!」
「そ、そうだ!別に俺たちが戦わなくっても、この世界には冒険者とかいるんだろ?その人たちに任せればいいだろ!わざわざ俺たちがやる必要はねえんだ!」
「帰ろうよ……元の世界に……」
それは至極当然な反論。いきなり他人のために身命を賭して戦うなど普通はできないだろう。だが、宗治はニッと笑い、反論するクラスメイトに語りかけた。
「みんな、大丈夫だ。俺たちには強い絆がある。二年という短い時間だけど、クラスという団体で色んなことをしてきたじゃないか!だから今回もみんなで力を合わせて団結すれば必ずやり遂げれる!一緒に頑張ろう!!」
普通に考えたら無茶苦茶な理論だ。「は?だから?」と言われて終わりだろう。だが、状況も状況。心理的に不安定な状態で、絆やら団結などという綺麗な言葉をリーダー的存在に言われれば、何故か出来る気がするのだ。現に、反論していたクラスメイトも目に覚悟が宿っているようだった。
「……勘違いしないでいただきたいのが、我々はあなた方に任せて何もしない訳ではありません。あなた方が力を使いこなせるようになるまで我々が使い方をお教えしましょう。あなた方が戦う時は我々も一緒に戦わせていただきます。命をかけるのはあなた方だけではない。我々は一蓮托生!共に魔王討伐を致しましょう!!」
「ルヴェリアさん……。みんな、もう一度言う。やろう!俺たちでこの世界を救おう!!」
「「「「「「「おぉーー!!!」」」」」」」
場の空気がまとまり始めた時、その空気を一瞬でぶち壊す言葉が放たれた。
「いや、俺はやらないぞ?」
「「「……え?」」」
その言葉を言い放ったのは、今までのやり取りを終始冷たい表情で聞いていた望だ。
「な、なんで?今のは全員で協力するって流れだろ!?」
宗治は望の一言に驚きを隠せずにいた。完全にまとまった流れを真正面から潰されることなぞ、そうそう無いことだ。そのため、つい大声でツッコミを入れてしまう。
「なんでお前らに合わせなきゃいけないんだ。俺は俺の自由にさせてもらう。俺は特に関わりのない世界の行く末になんぞ興味ない。ということで、ここでお別れだ」
望はそのまま立ち上がる。本気で話を聞くつもりはないようだ。
「おい、勝手なことをするなよ!ここはまとまって団体で行動するべきだ!」
「なんでだ?お前らはお前らの好きでやればいい。だが、それに俺を巻き込む必要はないだろ?」
「あるだろ!俺たちは仲間だ!仲間なら団結して……」
「勝手に仲間にすんなよ。俺にとってはお前らの絆とかどうでもいい。関係ないし、興味もない」
「な!?」
望がこう言うのには理由がある。望が今いるクラスは進学クラスというクラスで二年の頃から他のクラスと分けられているのだ。しかし、望は二年の頃は普通のクラスにいて、三年になってから進学クラスへとやってきた。よって望にとってクラスメイトはまだまだ知らない人であり、どうでもいい人なのだ。ただ一人、奈緒を除いて。
「なあ、ルヴェリアさんだったか?俺ら全員に強大な力があるってことで間違い無いよな?」
「え、ええ。異世界人は等しく強大な力を持っていると古い文献に記されております」
「なら、お前らだけでも充分足りるだろ。じゃ、俺は帰らせてもらうぞ」
「おい!待てよ!!」
望はルヴェリアの元に行き、元の世界に帰る旨を告げる。だが、ルヴェリアは浮かない顔をしていた。その理由はすぐ分かることとなる。
「すみませんが、それは出来かねます……」
「は?なんでだ?」
「我々はあなた方を召喚しましたが、元の世界に送還する方法を知らないのです。ですので、あなた方を元の世界に戻すことは……我々には出来ないのです」
「まじか……」
望は小さく頭を抱えた。まさか元の世界に帰れないとは思っていなかったようだ。クラスメイトたちもその事実に驚愕し、開いた口が塞がらないみたいだ。
「はぁ……仕方がない」
望は一言そう言うと、入ってきた扉の方へと歩き出した。
「おい、どこ行くんだよ」
「どこって……外か?」
「ふざけるな!」
「もういいよ、放っておこうよ」
「そうだぜ、宗治。こんな協調性のかけらもないような奴は好きにさせておけばいいんだ。俺たちは俺たちで頑張ろうぜ」
今にも望に殴りかかっていきそうな宗治をクラスメイトたちが宥める。望は宗治をチラッと一瞥した後、何も言わずに扉から出ていった。
(さて……これからどうしたものか……)
元の世界に帰れないと知り、割と勢いだけで神殿から出てきた望は、これからのことについて考えた。よくよく考えれば、この世界のことは自然環境しか知らない。お金の集め方やら、戦闘の仕方など、一切分からないのだ。
(俺は元の世界に帰らなきゃいけない。だから、まずは情報が欲しい)
元の世界に帰るためには、一定期間はこの世界で過ごさなければいけない。だからこそ、望はこの世界の情報がなんでもいいから欲しいのだ。
(とりあえず町を探すか)
望はひとまず人がいる場所に行くことを決めた。小規模でもいいので町のような場所があれば十分だろうと。
神殿を出て数分後、道なりに歩いていた望の前にこれまた都合よく町が現れた。しかも大きめの町だ。
(よし!ラッキー!)
まあ、神殿というものがあるなら近くに町があっても良さそうなのだが、そんな事は露ほども考えていない望は自分自身の運の良さだと勘違いして、思わず指をパチンッと鳴らす。
(じゃあ情報収集から始めるかな……)
望は町に入り、この世界についての情報収集を始めた。
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