70.帝都の近くで
六人は一旦休憩し、食事を取る。
おおよその時間は午前10時くらいだろうか。
食後に大人組を見ると、排泄の為か各々茂みに消えていった。
まったりした時間を過ごしていると、ルーンが背中に抱きついて囁く。
「お兄ちゃんは、おトイレ行かなくていいのー?」
「1時間ぐらい前にお前の目の前で出しただろ...それも向かい合って見せ合いながら」
ルーンは頬を赤く染め、悪戯な笑顔になって、上機嫌で俺の肩に小さな顎を乗せている。
「お兄ちゃんの、ちっちゃくてとっても可愛いんだから~。また私が綺麗にしてあげるから、したくなったらいつでも言ってね」
時が戻っても、ルーンは相変わらず俺の排泄をまじまじと見て
「お兄ちゃんの可愛いー!リターニュ公国で暮らしていた時のとぜんぜん違う!」
「すごーい!お兄ちゃんってこんなに可愛いの持ってたんだ!」
と、俺のを優しく握りながら、大はしゃぎしていた...。
「可愛さでいうなら俺のより、お前の股のものの方が可愛い...じゃなくて。ミラのことも考えてくれ。なんともいえない表情のミラに対して、どう声を掛けていいのやら困ったんだが」
「ミラちゃんも一緒に誘ってあげたら?」
「...もうちょっと仲良くなったらな」
「もう充分だと思うけど」
ちょうどその時、話題のミラが恥ずかしげに声を掛けてきた。
「あ、あの...お兄様とルーンは大丈夫ですか?その...おトイレ...」
およそ100年ほど前なら、察することが出来なかっただろう。
だが今の俺ならわかっていた。
「ああ、出発前に念の為に行こうと思ってたんだ。ミラも一緒に行くか?その...背中向けてな」
「は、はい!お供します!」
その可愛い顔を、髪の色と同じ色に染めたミラリオは、元気よく返事した。
三人で茂みに行き、俺は背中を向けてしゃがみこんだ。
背後から、ルーンとミラの楽しげな声が聞こえて来た。
ルーンはミラとうまくやってるな。
やっぱりルーンがいると有難いな、こういった時でも頼りになる。
うちの妻に欠点が無いことが誇らしい。
その後六人は再び出発し、適宜休憩を取りながら、夜まで歩き続けた。
...ルーンは俺が排泄する時に同行し、ミラが排泄する時にも同行している。
ミラのルーンに対する信頼はかなり上昇しており、女の子同士で仲良くなったことに、俺も嬉しかった。
焚火の周りで眠る際に、ミラがまた恥ずかしそうに聞いてきた。
「あの、お兄様...。手を握って眠っていいですか?」
「もちろんいいよ。おいで」
「はい!」
ミラの顔がぱあっと明るくなり、嬉しそうな顔で俺の手を両手で握る。
もう片方の腕には、当然ルーンが抱きついていた。
「おやすみなさい、お兄ちゃん」
「おやすみなさい...お兄様」
二人の声を聞いて、俺も眠りについた。
翌日、朝から歩き続け、昼頃にレイドーム帝国の領内を示す関所にたどり着いた。
関所で話を聞くと、ここから南へ歩けば2時間程で領内の町があるらしい。
このまま東へ歩けば、夜頃に帝都に着くとのことだった。
どうするか話し合っていると、帝都方面から3騎の人影が見えた。
制服を着た男が三人、先頭の男は若干身分が上のようだった。
三人は馬から降り、関所の兵士に近づくと、兵士は畏まって挨拶をした。
「これはアルフ殿、どうされましたか。本日は軍事演習のはずでは?」
「俺の部隊だけ別で指令が出たんだよ。ところでその人達は?」
「奴隷として売り飛ばされる所を、なんとか逃げて来たそうです。この身なりから間違いないかと」
「ほう...」
アルフと呼ばれた中年の男は、訝しげに俺達を見る。
しばらく見回した後、俺達六人に提案してきた。
「どうやら子供が三人いるようだな。俺達が馬に乗せて帝都まで運んでやるがどうだ?」
その申し出に、関所の兵士が口を挟む。
「アルフ殿、指令が出ているのではないですか?」
「指令はこの関所までの見回りだよ。何も問題は無い」
「そうでしたが、失礼しました」
俺とルーンは怪しんでいたが、大人組三人はアルフの提案に乗り気だった。
なんだこいつ、見るからに怪しいぞ。
本当に軍の関係者か?
関所の兵士がグルになって、芝居をしているようには見えないが...。
その時、ミラリオがアルフに話し掛けた。
「あの...ユリメア様を護衛されていた兵士様ですよね?」
「キミは...ユリメア様のお付きのメイドかな」
「はい!」
そのやりとりを見て、俺は安心する。
なんだ、本物の軍人か。
ミラが言うなら間違いないな。
俺達は申し出を受け、俺とルーンとミラリオの三人だけ、先に馬で帝都へ行くことになった。
大人組は南の町に行くらしく、ここでお別れとなった。
馬に乗る前に荷物を大人組に渡し、キースライトを含む鉱石2~3個だけ貰い、馬は帝都へ向けて出発した。
途中2回休憩を挟み、関所を出発してから3時間程経過した頃、アルフが馬を止めて大きな声で言った。
「もうすぐ帝都だ。馬が痛まないよう、念の為ここでもう1回休憩しておこうか」
「はっ!」
「承知しましたっ!」
部下二人が返事をする。
俺は違和感を感じていた。
え...。もうすぐ着くのになんで休憩を入れるんだ。
馬が痛むのが心配なら、ここから歩かせればいいじゃん。
まあいいか。わざわざ帝都の近くに戻ってまで、何かやる理由は無さそうだし。
俺達三人は地面に腰を下ろし、乗馬の疲れを落としていた。
道を外れると辺りは森だったが、帝都近くの為か、かなり人の手が入り管理されている森のようだった。
俺とルーンは、油断はしていなかった。
だが、想定外のことがあった。
「...お兄様!後ろっ!!」
ミラリオが突然叫んだ。
叫んだことによって、俺とルーンの背後に来ていたやつらとは別の奴が動き、ミラリオにも被害が出た。
俺とルーンは背後の気配に警戒していた為、不意打ちをかわすことが出来たが、ミラリオは兵士によって口に布を押し当てられ、眠らされた。
しまった、ミラのことを想定しておくべきだった...。
ミラリオが知っている軍人が、まさか帝都の近くで強引に悪事を働くとは思っていなかった。
また、仮に襲ってきても、俺達二人には『狂戦士』の能力がある為、それまで第一に考えていたことを果たすには、充分だと思っていた。
第一に考えていたこととは、当然妻の身の安全である。
これまで100年程、常にルーンの身を第一に考えて行動していた為、無意識でその行動を取るようになっていた。
俺はルーンに対して、ルーンは俺に対して、身の危険に対して敏感になっていたが、ミラリオのことについては、ワンテンポ遅れていた。
敵の不意打ちをかわした瞬時、俺とルーンはアイコンタクトを交わす。
...わかってるなルーン、やられたフリだ。
過去にリターニュ公国で検証した際に、能力を使っている間は、薬品や毒などが著しく効きにくいことは実証されていた。
8分咲きの時点であの感じだった為、9分咲きの今ならほぼ効かない状態になっていた。
ルーンの目を見て、意図が伝わっていると確信した俺は、弱弱しいガキを演じる。
「ここは帝都のすぐ傍だぞ!こんなことしたらすぐにバレるぞ!!」
だが、アルフは簡単にあしらい、部下に激を飛ばした。
「わかったわかった。おいお前ら!大事な商品に傷を付けるなよ。さっさと眠らせろ」
「はい!」
「はい!」
俺もルーンも、必死に抵抗するフリをしながら能力を発動し、眠らされたフリをして地面に倒れた。
それを見たアルフはニヤリとして、背を向けて満足そうに言った。
「ずっと耐えて来たクソガキのお守りも今日で終わりだ。ガキ三人とキースライトを売り飛ばせばかなりのカネになる。良い手土産が増えたな」
なるほど...。
ユリメアって人の護衛をやっていたが、クビになったか自分から放棄したんだな。
部下二人はアルフの方を見ており、眠っているはずの俺達に対して、全く警戒していなかった。
「お前らさっさとガキどもを馬に乗せろ」
アルフがそう言った直後、起き上がっていた俺とルーンは、ほんの一瞬で部下二人の首に爪を突き立てる。
ザッ!!
派手に血が噴き出し、二人同時に倒れて動かなくなった。
「...ただのガキだと思ってたが、能力者か?」
振り向いたアルフは意外と冷静に、だが顔色に焦りを出して、状況を判断していた。
さすが軍に居ただけのことはあるな。
だが、この状況にどう対処するのか。
「ルーン、俺が行く。ミラを頼む」
「お兄ちゃん!危ないから二人で!」
「お前は周りを警戒しててくれ。他に敵が潜んでいないとも限らないからな。危なくなったら逃げるぞ!」
「はい...」
ルーンは心配そうに返事をして、ミラリオの傍まで移動する。
サーベルを抜いたアルフに対して、俺は軽く地面を蹴って正面から飛び込んだ。
9分咲きの力はかなり強化されており、軽く力を入れただけでも、結構な速度が出ていた。
太く大きく、そして硬くなった鋭い爪を突き刺すように振るう。
カンッ!と金属音が響いた。
「ぐっ...!なんて速さだ...」
辛うじてサーベルで防いだアルフだが、手持ちの武器は無残に折れて、大きな破片が地面に落ちる。
歩幅4歩分ぐらい後ろに飛び、俺はアルフに向かって言い放った。
「終わりだ」
敵が別の武器や道具を持っていないか、何か能力を使って来ないか、と警戒して、爪攻撃の勢いを殺された際に、あえて続けて攻撃せずに、余裕を見せて探りを入れていた。
アルフは焦りとイラつきで、冷静でいられないようだった。
「ガキが、舐めるなっ!」
足元に落ちたサーベルの破片を取り、後ろに飛びのく。
そして、破片と折れた刀身を合わせ、アルフは能力を発動させた。
こいつ...やはり能力者だったのか。
折れた刀身と破片が、つなぎ目を残さず綺麗に癒着し、元のサーベルの姿に戻った。
...どんな能力か分かった以上、たいした脅威ではないな。
他に何も持って無さそうだし、俺の体力もあんまり無いし...終わらせるか。
俺はもう一度アルフに飛びかかり、続けざまに攻撃して、アルフの息の根を止めた。
すぐに変身を解除し、フラつく足でルーンの元まで戻り、ルーンと会話する。
「ルーン、ミラは大丈夫か?」
「眠ってるだけだから大丈夫」
「...ミラに悪いことしたな」
「私も...お兄ちゃんを守ることだけで頭が一杯だった」
「まあこの反省点を活かして、次はミラに被害が及ばないようにしよう」
「はいっ!次はミラちゃんがお兄ちゃんの妻になれば、自然と守れるようになるかも!!」
「...おい。とにかく疲れたから一旦休もう」
疲れた体をルーンに預け、俺は目を閉じた。
時刻は午後4時頃。辺りはまだ明るい。
「やっぱりお兄ちゃん以外の男の人にくっつくのは嫌だなー」
乗馬の嫌な経験を消すように、ルーンは両腕で俺を抱いて、俺の唇にキスをする。
「お兄ちゃんが無事で良かった」
そう呟いて、ルーンはまた俺にキスをした。
素人が趣味で書いているものですので、何分ご容赦頂きますよう何卒宜しくお願い申し上げます。




