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67.自由な時間

 

 図書館では、受付の女性が気になることを言ってた。


 その女性は、腰まで届きそうなストレートのスーパーロングで、濃藍色というのか、藍色を暗くしたような髪が綺麗だった。

 眼鏡を掛けた顔立ちから、美人で聡明なお姉さんといったイメージだが、何より目を引いたのが、その女性が結構な巨乳だったことであった。


 こ、これは...でかい。


 思わず巨乳に見とれていると、ルーンが俺の右腕を掴み、自分の胸に押し付けるように、その胸に抱いた。

 受付の女性は立ち上がり、俺達二人に話し掛けた。


「ご利用ありがとうございます。あら、あなた...」


 18歳で182cm程の身長である俺に対して、目の前の女性は170cm近くあるようだった。

 ちなみにルーンはおよそ160cmに満たないぐらいなので、腕の中に収めるには丁度良い感じだった。

 女性は何か不審に思ったのか、眼鏡の奥の綺麗な黒い瞳を凝らして、じっと俺を見た。


「あなた...何か違う?」


 俺は表面上では平静を装っていたが、内心ドキドキしながら、考えを巡らせた。


 違うって何のことだ?

 祝福の力が知られたってことか?

 いや、この世界では、祝福の力についてはある程度知れ渡っているはず。

 ということは、ループの方か...?


 俺があれこれ考えていると、その女性はルーンにも目を向けて、何やら唸っている。


「あなたも...。うーん...何か違うんだけど...うーん」


 ルーンも警戒をしていたが、巨乳のお姉さんはひとしきり考えた後、あっさりと考えるの辞めたようだった。


「ま、どうでもいいことね...ごめんなさい。どのようなご用でしょうか?」


 明らかに俺達二人に対して、何か違和感を感じ取ったようだったが、受付の女性はそれ以来二度と、意味深なことを言うことは無かった。



 その日の夜にルーンを抱いた後、腕の中にルーンを収めている状態で、ウトウトと微睡んでいると、ルーンがジトっとした目で俺を見て言った。


「お兄ちゃん、ああいう人が好みなの?」

「...え」


 ぼんやりとした意識の中、何のことか考えていると、腕の中のルーンが何やら考え込んでいた。


「むー...」


 俺の体液を取り込んだ直後のルーンである。

 常人とはかけ離れた、尋常じゃない洞察力や推理力、判断力が働いているので、隠し事が出来ないどころか、自分でも知らない自分のことを、見通されていた。


「ああ、図書館の。まあ好きだけど...ルーンよりも好きになることは無いぞ」

「...うん」


 俺の言葉が本心だと納得したようで、甘えるようにギュッと俺にしがみつき、ルーンは眠りについた。





 リターニュ公国に来て、10年が過ぎた。

 俺は23歳に、ルーンは21歳になったが、5年前と同じ生活を続けていた。

 毎日ルーンと、食事・排泄・入浴・就寝の時間を共に過ごし、外出した際も、いつも二人でべったり過ごしていた。

 特に、入浴と就寝、そして起床の時間に関しては、ほとんどいつもルーンと愛し合っていた。

 この10年間、ルーンを抱いていない日は無かった。

 ちなみに月経の周期が来る度に、ルーンは恥ずかしがって、変身をして強制的に血を止めて身体の状態を通常時に戻していた。





 ある日の早朝、まだ陽が登っていない時刻に、尋常じゃない事態に目が覚めた。

 ルーンが俺の胸、正確に言うと右脇辺りに、顔を埋めて大泣きしていた。

 何事かと聞こうと思ったが、とりあえず落ち着くまで抱きしめて、頭を撫でて待っていた。

 しばらくするとルーンが泣き止み、落ち着いたのを見て、事情を聞いてみたのだが、どうも嫌な夢を見たようだった。

 その日は一日中、俺を求めていたルーンだったが、夜になって漸く夢の全容を教えてくれた。

 その内容は、俺がルーンに別れを告げて、他の女の子を連れて、去って行ったらしい。

 絶望の中、放心状態でいると、目が覚めて夢だったことに気が付き、すぐに顔を上げて俺が居ることを確認すると、感情が溢れて涙が止まらなくなったらしい。

 その話を聞いて、俺はすぐにルーンに説明した。


「ルーン。現に目が覚めたら俺が傍に居ただろ。次も、その次も必ず傍にいる。どんな夢を見ても、目が覚めると必ず俺が傍にいるんだ。だからもう杞憂はやめとけ。俺がルーンに別れを告げるなんて、あり得ないことは考えなくていい」

「...はい。お兄ちゃん」


 今朝と違い、笑顔で涙を流すルーンを抱きしめた。

 その日以降、ルーンが嫌な夢を見ることは無かった。




 月日が流れ、俺は45歳になっていた。

 中年になっていた俺は、メタボ体型になって腹が出ていた。

 毎日ルーンを抱いて運動しているのだが、ルーンが作る料理がうますぎて、毎回食えるだけ食ってしまっていた。

 ルーンは「お兄ちゃんのおなか可愛い~」と言って、毎日俺の腹をムニムニと揉んでいる。

 俺も負けじとルーンの胸を、ムニムニと揉んで対抗しているが、どうも俺の感覚だと、ルーンは20代前半ぐらいのようだった。

 何年か前に明らかになったが、ルーンはやはり獣人らしく、この世界の獣人の寿命は、人間の倍以上あった。

 しかも、老人の期間が長い人間と違って、獣人は寿命の中で活発に動ける割合が多いらしい。

 ただ、ルーンの見た目は人間そのものなので、獣人の中でも特殊なタイプだと思われた。





 さらに月日が流れ、俺は70歳になっていた。

 ずっとリターニュ公国に定住しているので、いつのまにか副首都の長老扱いになっていた。

 ここまで特に大きな災害も事件も聞かず、オクタル諸島全体で平和だった。

 相変わらずルーンが若々しく、どう見ても30代に見えた。

 さすがにこの年になると性欲が衰えて、毎日ルーンを抱くという記録が途絶えていた。

 見た目はまだ若々しいルーンだが、かつてこの国に来た時と比べて、日々の言動にだいぶ落ち着きが見えるようになった。

 俺は、50年以上もルーンが傍に居ることが、嬉しかった。

 俺は、活発に動くルーンを見ているだけで、嬉しかった。




 さらにさらに月日が流れ、俺は110歳を迎えようとしていた。

 どう見てもヨボヨボのじいさんで、年相応の外見になっている。

 さすがに自力で立ち上がり、歩行することが出来ない状態なので、ルーンの介助が必要になっていた。

 横になった状態でぼんやりと、目の前で洗濯物を干すルーンを見ている。

 ルーンは40代ぐらいに見えた。


 こういうのは、なんと言うのだろうか...。

 完成された美しさ、と言えばいいのか。


 100年程生きているルーンは、蓄積された知識や知恵、経験や技術が有り、貞淑さと妖艶さが在り、落ち着きと好奇心を持っていた。


 まさに、完成された美だな...。

 いつ寿命が来るかわからないが、死ぬ前にこれが見れて良かった...。


 ルーンを見つめながら意識が薄れていく。

 この年になると、突然眠りに入ることが、当たり前になっていた。


「お兄ちゃん。干したらご飯作るから、寝てていいよ」


 いつものルーンの声が聞こえた気がした。




 ---




 燈色の光が視界に入る。

 木箱の上に置かれたランタンが淡く光を放っている。


 ...

 ...?


 俺は呆然とランタンの光を見ていた。


 ここは...確か...。


 およそ100年も前の光景だが、何度かループしていたのでかすかに覚えていた。


 おい、嘘だろ...。


 若い年齢に戻った俺の頭は、はっきり物事を考えられるようになっていた。


 100年以上だぞ。

 寿命だぞ...寿命を迎えたんだぞ。

 天寿を全うしたんだぞ。

 こんなことあるか...?


 隣を見ると、幼いルーンが呆然としていた。

 とにかく俺は、ルーンに言葉を掛けずにはいられなかった。


「おい、ルーン。...俺達100年以上生きたよな?」

「うん...。さっきまで洗濯物干してて、お兄ちゃんがうたた寝してて...」


 リターニュ公国で、約100年過ごした記憶を持ち越して、また戻って来た。

 しばらくあれこれ考えたが、何を考えても目の前の現実は変えようがなかった。


「ルーン。どうやら寿命でも解放されないらしい...。何をやっても戻るんじゃないか、これ...」

「...」


 ルーンはしばらく沈黙したままだったが、覚悟を決めたような笑顔で俺に告げた。


「お兄ちゃん、私は大丈夫だよ。...この先10万年でも100万年でも、お兄ちゃんと一緒に生きるから」


 ドヤッという感じで、俺を見る幼いルーン。

 不安と混乱でいっぱいだった俺は、ルーンの決意と覚悟を受けて、勇気と元気をもらった。


 さすがは俺の妻だ...。

 夫の俺がこんな体たらくでは、ルーンに悪いよな。


 俺もニヤリと笑みを浮かべ、ルーンの目を見つめて、はっきりと告げた。


「...ルーン、今回も自由に生きるぞ。付いて来てくれ!」

「...はいっ!もちろんです!お兄ちゃん!!」


 ルーンの声は洞穴内に響き渡る程、元気いっぱいの大きな返事だった。


「それにしても...、お兄ちゃん可愛い~!!」


 幼いルーンが、その瞳にハートを宿して、幼い俺に抱きついていた。



 100年近く前に聞いた鈴の音が聞こえ、ルーンの白い花が開花し、9分咲きになった。




素人が趣味で書いているものですので、何分ご容赦頂きますよう何卒宜しくお願い申し上げます。

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