64.海岸2
ルーンに抱きつかれている状態で、俺は今の現状を確認する。
またここからか...。
つい先ほどの、テネマリス島での出来事に、ふつふつと怒りが込み上げて来た。
「クソッ!あのクソ狼どもが!!」
苛立った俺は、つい言葉に出してしまう。
それを聞いたルーンが、俺の目を見つめて呟いた。
「お兄ちゃん...もうあの島へは...」
俺はルーンの悲しげな瞳を見て、悟った。
慢心していたな。
あんな敵は想定していなかった。
死んだ後で漸く気が付くのが、情けない。
ティルと過ごした時間、王都で手に入れた大金、多くの事柄が無かったことになった。
しかし、ルーンが覚えていることが救いだった。
ルーンは全部覚えている。それだけで充分だな。
俺はルーンの両肩を掴んで、はっきりを目を見て言った。
「わかった。もうあの島へは行かない。狼どもに仕返しをしてやろうなんて考えないから安心しろ」
「うん...」
ルーンを落ち着かせ、その後は例のごとく、あいつらを始末し、牢屋を開錠して四人を解放した。
さてと、結局死んでしまって言えなかったな。
次は戻れないかもしれない。
つまりこういうことは...今言わないといけないんだな。
決意した俺は、ルーンを連れて海岸まで来た。
この場面は何年か前と同じように見えたが、二人が生きた時間だけ異なっている。
ザザーンと夜の海岸に波の音だけが響く中、俺はルーンと向き合い、ルーンの目を見てはっきりと言った。
「ルーン、お前が好きだ。俺の妻になってくれ」
「...」
波の音に負けないくらい大きな声で言った。
それを聞いたルーンは、呆然として俺の顔を見ている。
俺は返事を待たずに、続けて言った。
「ルーン、ずっと俺の傍に居てくれ。...ずっとだ」
ルーンは微動だにせず、しかしその瞳は徐々に涙で潤んでいった。
「お兄ちゃん...お兄ちゃん!」
飛びつくように俺に抱きついたルーンに対して、俺もルーンの背中に腕を回して抱きしめる。
よし、言ったぞ。
白オオカミ相手には油断したが、ここは最初から全力を出して言った。
累計ではおよそ50年程生きている俺だが、女の子に好きだと伝えたのは初めてだった。
しばらくしてルーンは落ち着いて来たのか、力いっぱいに俺を抱きしめていた腕が緩んだ。
俺はルーンがどう思ってるか、それが知りたくてしょうがなかった。
我慢できずに聞いていた。
「ルーン、返事は?」
ルーンは腕を解き、俺と向き合い、数秒間目を閉じてじっとしている。
そして...息を吸い込んだ後、目を大きく開き、自分の気持ちを声に込めて、力いっぱい返事をした。
「...はいっ!お兄ちゃんの傍に居させてください!この先ずっとずっと!お兄ちゃんと一緒にいたい!!」
ルーンも全力で、心の底から自分の気持ちを叫んでいた。
その返事を聞いて安堵した俺は、ルーンの顔をじっと見つめる
涙交じりの笑顔が、そこにあった。
...ここで行かないと男じゃないよな。
俺はストレートに気持ちを伝え
「ルーン、ありがとな。大好きだよ」
そのままルーンに口づけをした。
...
...
ほんの数秒だったが、唇を離すとルーンが呟く。
「...お兄ちゃん」
すぐに顔を真っ赤に染めて、また目をひと際大きく見開いて、叫んだ。
「お兄ちゃん!私もお兄ちゃんが好き!大好き!!」
再び飛びついて来たルーンを抱き止め、しばらく海岸で抱き合って過ごした。
...シャランッと鈴のような音が鳴った。
『開花』の力。意識すると脳内にイメージとして、木製の枠が現れる。
その枠の中、左上にあるルーンの白い花が、6分咲きになった。
ザザーンと、夜の海岸に波の音が響く。
どこまでも同じ音を繰り返し、響かせる。
「ルーン、安全な街で二人で暮らそう」
綺麗な星空の下で、腕の中にいるルーンに対して、優しく語りかけた。
「二人でずっと。寿命が来るまでずっとだ」
俺は今回死んだことで決めていた。
...もう冒険も、大きな力も要らない。
ただルーンと一緒に過ごすことが出来れば、それでいい。
俺の気持ちを読み取ったのか、ルーンも嬉しそうに返事をする。
「うん...。毎日お兄ちゃんと一緒!」
ルーンは夢見るように、瞳をキラキラさせて続ける。
「お兄ちゃんと一緒に起きて、一緒に朝ご飯を食べて、お買い物に行って...。一緒にお勉強したり、お仕事したり...お昼ごはんも一緒。夜は一緒にお風呂に入って、一緒に晩御飯を食べて、一緒に寝るの...」
「ああ...。まあだいたいバーンズフォレストの家でやっていたことだけどな」
「お兄ちゃん、これからはお兄ちゃんの妻として暮らすの!私はお兄ちゃんと一緒だったら街じゃなくてもいいよ」
「まあ引っ越しなんていつでも出来るし、とにかく危険なことはせずに、安全に暮らそう」
「うんっ!」
元気いっぱいのルーンの返事を聞いて、これまでの人生で一番幸せだという実感があった。
調子に乗った俺は、ルーンにリクエストを出していた。
「ルーン、これからもお兄ちゃんって呼んでくれるか?」
「うん。それはいいけど...どうして?」
「俺は可愛い妹が欲しかったんだ。そして、可愛い妻も欲しかった」
「...うん」
「つまり、両方手に入れた今が一番幸せなんだよ」
「もう...」
俺はこれから先、ルーンと一緒に、のんびりと暮らしていこうと決めていた。
さすがにずっとゼストじいちゃんの家ってのは、気が引けるな。
やっぱり街に引っ越すか。
今回もキースライトの原石を手に入れておけば、カネの心配は無いだろう。
どんな街に行くか、どんな家に住むか、ルーンと一緒の未来を考えると、幸せな気持ちは消えなかった。
素人が趣味で書いているものですので、何分ご容赦頂きますよう何卒宜しくお願い申し上げます。




