49.強盗との戦闘
とりあえず、今すぐに扉を破られることは無いな。
一旦ルーンと話して、どうするか決めるか。
俺は腕の中のルーンに、ボソボソと話し掛けた。
「ルーン、とりあえず今は大丈夫だ」
「うん。でも...」
ルーンはベッドが立てかけてある扉の方を見て、少し不安げな顔をしている。
ルーンも同じことを考えてたか。
うーむ、賢い娘だ。
「ああ、やっぱり強行して来そうだな」
「うん...」
「ルーン、短剣を貸して」
「お兄ちゃん...戦うの?」
そう言ってルーンは短剣を俺に渡す。
「まあ念の為の武装だ」
「でも...」
「大丈夫だ、あいつらは俺たちの能力を知らない。相手の武装とか魔法の力にもよるが...いざとなったら窓からお前を抱えて飛び出すよ」
「抱えてもらうだけなんて嫌...。お兄ちゃんに遅れないように、自分で走れるよ...!」
「ああ、それなら二人で一緒に逃げよう。宿代は払ってるし、設備に損害が出たら...まあ強盗のせいだな」
俺はベッドを立てかけた扉の正面に立ち、短剣を鞘から抜いて剣身を見る。
相変わらず綺麗な刃だな...。
ぼんやりと短剣を見ていると、再度廊下から声が聞こえて来た。
「お客様、扉を開けて頂けますか?」
先ほどの声よりも低く、敵意を感じる。
俺は努めて冷静に返事をした。
「知り合いはいないので人違いです。すいませんが、体調が悪いのでもう休ませてください」
そう言った俺に対して、廊下からはしばらく沈黙が続いた。
しかし、突然ドアノブが回される
ガチャガチャッ!
ガッ!!
当然施錠はしているが、相手は扉を壊す勢いで開けようとしていた。
廊下から、本性を現したかのような声が聞こえる。
「さっさと開けろよ。大人しくここを開ければ、命までは取らねえからよ」
殺気を孕んだ声が聞こえ、後ろのルーンが俺の腕にしがみつく。
やはり賊か。
命までは取らないって脅してきたが...殺してでも石を奪う気かな?
俺は右手に握った短剣を構え、臨戦態勢を取る。
するとすぐに、扉を破るつもりなのか、正面から大きな衝撃音がした。
ドンッ!ドンッ!!
これはいよいよ強硬手段に来たか。
破って侵入し、俺達を殺してから荷物を奪う気かな?
俺は情報を引き出そうと、廊下の男に聞いた。
「無理矢理扉を破って入る気か?残念だが、狙いの物はもう今日の昼に売ってしまったんだがな...」
男はすぐに答える。
「生意気なガキだな。悪あがきはやめろ。売ったかどうかは、お前達を殺してから確かめてもいいんだぞ」
なるほど、お前達か...。
ルーンは声を出していないが、ルーンの存在を知っているってことは、やはりガシュレットのじじいの差し金だな。
まあ宿帳を見て確認したかもしれないが...会話の内容から石を奪いに来たと見て、間違いないだろう。
そんなことを考えていたら...。
ドガッ!ドガッ!!
ドンッ!!
ひときわ大きな衝撃音が聞こえ、扉が破壊された。
ベッドが立てかけてあるが、これが破壊されるのも時間の問題だろう。
廊下の男は再度脅してきた。
「おいガキども、今の内に石を渡すなら命は助けてやる」
石とはっきり言ったな。
そしてこの脅しは...渡してから殺されることもあり得るな。
俺はとぼけて返事する。
「なんの石ですか?」
「もういい、今殺してやる!」
男はそう言ってベッドを破壊し始める。
どうやらハンマーのような物を持ってるようだ。
さて、これは殺し合いになることは必至だな。
この殺し合いに至ってはシンプルだ。ルーンが巻き添えに遭わなければいい。
しかし相手の力量や武装がわからない以上、油断は出来ない。
場合によっては、ルーンに加勢してもらわないと、勝てないかもしれない。
俺は正面から目をそらさず、少し後ろに下がってルーンに小声で作戦を伝えた。
「ルーン、危ないから後ろに下がってて」
「だめ!私も戦う!!」
「ルーン、よく聞け。お前は『危ないから後ろに下がっている』と油断させるんだ。あいつと俺が戦ってる間に、お前は力を使って変身し、不意をついて相手を襲え。出来るか?」
「でもそれだとお兄ちゃんが...」
「大丈夫だ、俺だって変身して戦う。俺だけで片が付くと思うが、念の為にルーンも戦えるように備えておいてくれ」
「うん...」
「ルーン、あいつがお前を人質に取ることも考えられる。いいか。俺じゃなく、常にあいつの動きを見ておけ。出来るな?」
「うん!お兄ちゃんの為だったら出来るよ!」
「よし!行くぞ!」
俺はいつでも変身できるように、『開花』の白い花を意識する。
そして、扉に続いてベッドも破壊され、男が姿を見せる。
フードが付いたローブを着ており、背の高さは170cmぐらいに見える。
猫背の体勢で、ギョロっとした目で俺達を見ており、ゆっくりした動作でハンマーを腰に仕舞い、大型のナイフを取り出した。
先ほどの脅しの通り、男はもう会話をする気が無いようで、俺を注視したままゆっくりと近づいてくる。
さて、やるか...。
ルーンの『狂戦士』の力なら、勝てると思うが...。
殺意の衝動に振り回されなければ、たぶん大丈夫だろう。
もし相手が祝福の力を有していれば...まあどんな能力なのか、持っているのかどうかわからない以上は、考えてもしょうがない。
俺は男を見たまま、白い花の下に刻まれた力を意識した。
しかし、変身しようとしたその瞬間、隣の部屋から扉を開く音が聞こえ、男が足を止める。
俺も変身を止めて、隣の宿泊客が出て来たのか、様子を見る。
目の前にいる強盗の背後には、脱衣所で裸だった女の子が立っていた。
女の子は、男がその手に持っている大型のナイフに匹敵する程のナイフで武装しており、キッとした目つきで俺達を見ていた。
あの女の子は...猫の獣人の子か?
あの衣装と装備を見ると、RPGでよくある『盗賊』って職業を思わせるな。
などと呑気に観察していると、女の子が口を開いた。
「さっきからうるさいわね。もう!寝れないじゃないの!」
女の子はそう言って、俺と賊を見て状況を把握しようとしている。
俺は女の子の目を見て、すぐに声を上げた。
「悪い!この強盗が俺達を殺す気で襲ってきてるんだ!今退治するから!」
意図が伝わるか...?
強盗に狙いがバレないように伝わるかどうかは...賭けだな。
俺は後ろに手の平を見せ、ルーンに待てのサインを出す。
「...」
「...」
女の子も強盗の男も、どちらも言葉を発しない。
男は一瞬後ろを見る素振りを見せたが、俺の言葉に反応して、俺を睨みつけている。
俺は今にも襲ってきそうな男に視線を戻し、再び祝福の力に意識を集中する。
この状況を見れば一目瞭然だ、壊れた扉にベッド、そして子供二人に襲い掛かろうとしている男。
背後の女の子が加勢してくれれば、楽に片が付きそうだが...。
まあそこの女の子も危険に晒すのは、ちょっと気が引けるな。
目の前の男が僅かに動いた瞬間に、祝福の力を使い、体の筋肉が肥大化し始める。
しかし、男が床を蹴った瞬間、背後の女の子も同じ動作をしていた。
ダッ!!
勢いをつける為に床を蹴る音が響き、女の子がナイフを構えて強盗の背後に襲い掛かる。
男は俺に向かって動いていたが、すぐに勢いを殺し、後ろを振り向く。
そして振り向きざま、女の子のナイフを自分の大型ナイフで受け止める。
カァァン!!
刃と刃がぶつかる音が響く。
男は刃を引いて女の子に向かってナイフを突き刺す...ことは出来なかった。
「ガッ!!ア...アガッ!!!」
男の悲鳴のような、うめき声のような断末魔が響く。
男の後頭部の下、うなじ辺りには、王家の短剣が突き刺さっていた。
バカが...挟まれた状態で戦おうとするから。
某ゲームでも、通路に逃げ込んでから、1対1で戦うのが原則なのにな。
まあ挟み撃ちに遭っても、打開できるだけの体術とか能力とか、持って無くてよかったが...。
子供が相手だから油断してたんだろうな。
俺は男が刃を引いた瞬間に、『狂戦士』の力で強化された腕を振るって、男の背後から短剣を突き刺していた。
男はしばらく呻いていたが、すぐに絶命した。
それを見届けてから変身を解除し、ルーンに声を掛けて、窓の外を警戒させる。
「ルーン、こっちは大丈夫だ。窓の外を警戒してくれ。くれぐれも慎重にな」
「うん...」
ルーンはそそくさと窓の傍に寄る。
俺は所々破れた服のまま、女の子の顔を見てお礼を言った。
「助けてくれてありがとう。警戒されるから言葉には出さなかったけど、『助けてくれ』って意図が伝わってよかった」
「...」
「脱衣所ではごめんね。俺はナオフリート。君は...?」
脱衣所の話を出すと女の子は赤面し、キッとした目で俺をジトっと睨んでいた。
素人が趣味で書いているものですので、何分ご容赦頂きますよう何卒宜しくお願い申し上げます。
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