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48.不審者

 ルーンと部屋に戻り、またベッドに腰を下ろして寛ぐ。


 やっぱり泊まりはいいな、わくわくする。

 時刻は21時ぐらいか、やることも無いし寝るかな。


 俺は寝る支度をしながら、ルーンに声をかける。


「ルーン、そろそろ寝るか。今日は疲れたし、明日も大変そうだしな」

「うん。じゃあお兄ちゃん、寝る前におトイレ...」

「ああ、一緒に行こう」


 部屋の扉にカギを掛けて、ルーンと一緒にトイレに行く。

 旅行の気分を味わいながら、まったりと用を足していると、いつものように俺にしがみついているルーンから、石鹸のいい匂いがした。


 そういや他の宿泊客の姿をあまり見ないな。

 見たのは脱衣所の少女だけだが...。

 安くて良い宿なのに、今の時期は利用する人が少ないのかな。


 そんなことをぼーっと考えながら、手を洗って部屋に戻る。

 扉にカギをかけ、荷物をベッドの傍に置いてから、ルーンに声を掛ける。


「ルーン、念のために荷物をすぐに取れるように、傍に置いておこう」

「うん。わかった、お兄ちゃん」


 ルーンも同じように、荷物をまとめてからベッドの傍に置いた。


「さて寝るか。おいで、ルーン」

「うん!」


 部屋の灯りを消し、ルーンと一緒にベッドに入る。

 俺の右半身にぎゅっと抱きついて、顔を脇の下辺りに摺り寄せているルーン。

 俺は右腕で抱えるようにルーンを抱いて、囁いた。


「おやすみ、ルーン」

「おやすみなさい、お兄ちゃん」


 ルーンの体温を感じて、いつもの状態で眠りについた。




 ...。


 コンコンコンと扉をノックする音が聞こえる。


 ん?

 誰か来たのか?

 もう朝...ではないな。


 起き上がろうとモソモソと動くと、ルーンも動き出した。


「お兄ちゃん...さっきの音...」

「ごめん、起こしちゃったな」

「...」


 どうやらノックの音で、ルーンも起きていたようだ。

 俺達は小声で会話する。


「誰か来たの...?」

「みたいだな、とりあえず確認するか」


 そう言ってベッドから抜け出そうとすると、突然ルーンが俺の右腕を強く抱き止めた。


「お兄ちゃんっ...」

「大丈夫だ。いきなり扉を開ける程不用心じゃない」

「うん...」

「まずは何の用件か確認するだけだ」


 ルーンにそう言って安心させ、俺はベッドから抜け出して時間を確認する。


 日付が変わったぐらいか。

 こんな時間に来るってことは、よほど大事な用か、もしくは...。

 とりあえず聞いてみるか。


 再度ノックが聞こえ、俺は扉の前に立って声を掛けた。

 扉は施錠されている。


「はい、どうしました?」

「お客様すいません、すぐに見て頂きたい物がありまして」


 廊下から聞こえる男の声は、例のホテルマンのものではなかった。


 ...なんだ?


 俺は言いようのない、奇妙な違和感を感じていた。


 すぐに見て頂きたいね...。

 まあマジで緊急の用件かもしれないから、もうちょっと情報が必要だな。


 後ろを見るとルーンが不安そうな顔をしている。

 俺は念の為、ルーンに向かって人差し指を唇に当ててサインを出し、手招きして俺の傍に来させる。


 ルーンなら声のトーンとかで見破ることができるんじゃないか。

 まあこの時間に来て、扉を開けさせようとしてる時点で怪しいが。


 ルーンは俺の左腕を抱きかかえ、不安そうな顔で傍に立つ。

 俺は続けて廊下に声を掛けた。


「ええと、見て頂きたい物って...何かあったんですか?」


 廊下からはすぐに返事があった。


「はい。先ほど宿の傍で殺された人がおりまして...。息絶える寸前に『これを子供二人に渡してくれ』と言っておりました。お客様のことではないでしょうか」


 殺された...?

 随分物騒な話だな。


 奇妙な違和感は強くなる。

 もちろん心当たりなど無かった。


 一応ギルコードのおっさんの可能性もあるが...どこの宿に泊まるかは言ってない。

 仮に、どうにかして俺達が泊まる宿を突き止めたとして、俺達に何かを渡すために来た所を殺された?

 若しくは別の場所で襲われて、死ぬ間際に俺達に何かを渡す為に、ここまで来た?

 うーん...今日会って話をしただけの関係なのに、どちらも現実的では無いな。


 俺の左腕を抱くルーンの両腕に、力が籠る。

 とりあえずもう少し聞いてみるか。


「いえ、心当たりはありませんが。どんな人でしたか?」

「さあ...私も部下から聞いた話ですので。とりあえず物を見て頂けますでしょうか。見て頂ければ人違いかどうかはっきりしますので」

「どういう物ですか?知り合いはいないので、人違いだと思いますが」

「はい。鞄なんですが、どうも中の音から察するに、いくつか物が入っているようでして。私が勝手に開けるわけにもいきませんので、実際に見て頂ければ早いかと...」


 そこまで聞いて、ルーンが目一杯力強く俺の腕を引いて、耳元で小さく囁いた。


「お兄ちゃん...」


 ルーンの顔を見ると、不安で怯えているように見える。

 力強く抱いているルーンの両腕は、俺の体を引っ張り、まるで扉から遠ざけようとしている様だった。


 なるほどな。

 ガシュレットの差し金と見ていいだろう。

 あのじじい、やりやがったな...。

 狙いはキースライトの原石か。


 俺はすぐに思考を切り替えて、ルーンと道具を死守するにはどうすればいいかと考えた。


 よし、とりあえず扉を突破されなければいい。

 窓から逃げるかどうかはその後考えよう。

 となると、何か使える物は...。


 俺は部屋を見渡す。

 元々シンプルな部屋なので、使える物は限られていた。


 やっぱりベッドしかないか...。

 仕方ない、こいつを使うか。

 とりあえずルーンに石と短剣を持たせて、いざとなったらルーンを抱えて窓から飛び出せばいいか。

 よし、それでいこう。


 俺はルーンに小声で指示を出して、すぐに服を脱いだ。


「ルーン、俺は扉を破られない様にベッドを立てかける。ルーンはキースライトの原石と短剣を持って、窓の外の様子を見てくれ。くれぐれも静かに、慎重にな」

「う、うん...」


 ルーンは言われた通り、ゴソゴソと荷物を漁って石と短剣を取り出している。

 裸になった俺は、まず廊下に声を掛ける。


「わかりました、寝てたのでちょっと待ってください。今扉を開けますから」


 よし、これで多少モタついても時間は稼げるな。

 俺達が怪しんでいることはバレているだろうが、扉を封鎖しようとしてることまでは読めまい。


『狂戦士』の力で獣っぽい外見に変身し、ベッドを持ち上げる。

 狭い部屋の中で、ベッドを斜めにしてなんとか扉まで運ぶ。

 途中何度か壁にぶつけたが、扉に立てかけることが出来た。


「あの、何をされているんですか?」


 さすがに部屋の中から何度か大きな物音があれば、相手も怪しんでいたようだった。

 しかし、もう扉を封鎖した後だったので、俺は服を着ながらどう答えようかとゆっくり考えていた。


 毎度毎度、服を脱いで着て...めんどくさいな。

 まあ筋肉が肥大化するから、服が破れることを考えればしょうがないか。

 それよりもこの状況だ。どうしたもんか...。


 振り返ってルーンを見ると、ちょうど窓からこちらに向かって来ていた。

 俺の耳元に口を寄せて、ルーンが囁く。


「お兄ちゃん、窓の下に男の人が1人いるよ。多分廊下の人の仲間...」

「わかった。ありがとな、ルーン」

「うん...。梯子とかは無いみたいだけど...」

「大丈夫だ、心配するな」


 俺はルーンの頭を撫でてやり、両腕で抱きしめて安心させる。

 ルーンは若干不安そうな顔をしていたが、焦りやパニックになっている様子は微塵も感じられなかった。


 あの短時間で、窓の外の状況を把握したのか。

 さすが俺のルーンだな。


 俺はルーンの優秀さに喜んでいたが、すぐに思考を切り替える。


 さて...外にも敵がいるのか。

 窓から侵入することは無さそうだが、どうしたもんか...。

 とりあえず廊下のやつをどうにかしないとな。

 このまま何も答えずに待つか?

 いや、待ったところで救援が来るとは限らない。あの紳士なホテルマンが、既に殺されているってこともありえる。

 ギルコードのおっさんも、状況を知れば味方してくれるだろうが、それを伝える手段が無い。


 俺はルーンを抱きしめたまま、考え続ける。


 だが基本的には、時間が経てば経つほど強盗側は不利になるはずだ。

 目的は石を盗みに来たと見ていいだろう。

 そして深夜の人目に付かない内に、短時間で強盗しないといけないのであれば、強行してくるだろう。

 時間が経てば、今は寝ている他の宿泊客も起きて来るしな。

 よし、相手が強行することに備えたほうがいいか。


 俺は、相手が力づくで扉を破って来ると読んで、それに備えようとルーンと話しをした。




素人が趣味で書いているものですので、何分ご容赦頂きますよう何卒宜しくお願い申し上げます。


評価や感想がありましたら嬉しいです。

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