46.宿屋
俺とルーンは昼食を食べ終えて、しばらくゆっくりした後で、会計を済ませて食堂を出た。
会計時、思っていた通り95枚もの銀貨が返って来た。
念の為おばさんに聞いたところ、どうも硬貨を入れる専用の袋、という物があることがわかった。
なんでも魔力が込められた袋で、どういう仕組みかわからないが、硬貨が限度枚数まで入るらしい。
袋に入った硬貨はその実体が消えてしまう為、持ち運び時は音が鳴らず、出すときは袋の中に手を突っ込んで、出したい硬貨を意識すればいいとのこと。
そして硬貨以外の物も入るには入るが、実体は消えずにその体積分、袋の中が占有されるらしい。
まあ要するにコインを入れたら消え、取り出す時に現れる袋とのことだ。
どういう仕組みなんだろう、たぶん硬貨かどうかを識別して、その上でどっかの空間に転送してるのか?
うーん、魔法はよくわからん。
袋はいくつか種類があり、それぞれ限度枚数が異なるとのことだった。
ただいずれも高価な物で、この街では販売していないらしい。
まあやはりというか、そういう物があるか。
いくら白金貨があるといっても、例えば白金貨1枚、金貨870枚、銀貨92枚、銅貨20枚、というような状況だってあるはずだ。
そんな時に、おおよそ1000枚もの硬貨をジャラジャラと持ち運ぶのは不便過ぎる。
この街には無いってことだし、王都に行ってから考えるか。
時刻は午後2時過ぎで、俺はさっき見つけた宿にでも行こうかと、ルーンに声を掛けた。
「ルーン、さっき途中で見つけた宿に行ってみるか。安かったらそこにしよう」
「うん。いいよ、お兄ちゃん」
「よし行こう」
俺はまたルーンの手を引いて歩き出す。
若干ジャラジャラと銀貨の音が鳴る。
鬱陶しいなこれ...。
すぐに宿屋の前に着き、二人で中に入る。
受付カウンターの内側にはヒゲを生やした中年の男性がいる、どうも獣人のようだった。
入って来た俺達を見て、声を掛けて来た。
「いらっしゃいませ。子供だけのお客さんとは珍しいですね、お二人でお泊りですか?」
「はい、一晩二人でいくらですか?」
「一部屋でよろしいでしょうか?」
「はい」
「でしたら、銀貨20枚でございます。が、子供二人なので15枚でお泊り頂けますが、いかがでしょうか」
どうもこの街は子供にはサービスする街らしい。
まあ、ありがたいな。ギルコードのおっさんも近くにいるし、ここでいいかな。
念のためにルーンに聞いて...と。
俺は急かさないように、ルーンに聞いた。
「ルーン、どうする?」
ルーンは俺の耳元に口を寄せ、ヒソヒソと呟く。
「お兄ちゃん。ここはギルコードさんのお店に近くていいんだけど、念のためにお部屋を見てから決めたらどうかな?あとできれば2階...」
なるほど、もっともだ。
俺はすぐに確認させてもらうよう頼んだ。
「すいません、一旦部屋を見せて頂いてもいいでしょうか。2階の部屋は空いてますか?」
「もちろんです。どうぞこちらへ」
ホテルマンの紳士的な口調と対応で、俺達は2階の部屋に案内された。
部屋の中はシンプルで、8畳程の部屋にベッド、窓際にテーブルと椅子が2つ、木製の簡素な壁掛け棚の上に、水差しとコップが4つ程あった。
水差しに水は入っていない。
おお、これなら申し分ないな。
というか2階までは気が回らなかった、1階なら容易に窓から侵入されるってことか。
まあこっちも逃げにくくはなるが、外から侵入されるリスクを考えたら2階のほうがいいだろう。
俺はそこまで意識していなかった。さすがルーンだな。
俺はルーンの頭に手を置いて、撫でながら聞いた。
「2階までは気が回らなかったよ、ありがとな。ここでいいよな?」
「うん!」
ルーンは嬉しそうに、大きな声で返事をした。
俺はその場で銀貨15枚を渡そうとしたが、ふと食事について気になった。
そういえば、ビジネスホテルはオプションとか、フロントに電話したら別料金で食事があるよな。
銀貨を渡す前に、ホテルマンに聞いてみた。
「すいません、夕食と朝食については...?」
「はい、別途銀貨10枚をお支払い頂ければ、夕食と簡単な朝食をご用意させて頂いております。お客様でしたら、宿泊代と合わせて銀貨22枚でどうでしょうか」
俺はすぐにルーンの顔を見て聞いた。
「ルーン、今日の夕飯と明日の朝食だが、ここでいいか?」
「うん!大丈夫だよ、お兄ちゃん」
「わかった」
返事を聞いた俺は、ホテルマンに銀貨22枚を差し出して言った。
「この部屋で一晩。夕食と朝食もお願い致します」
「ありがとうございます。19時と8時にお部屋までお持ち致します。では、ごゆっくりお過ごしください」
ホテルマンはそう言ってルームキーを俺に渡し、廊下を歩いて行った。
よし、銀貨が95枚から73枚に減ったぞ。
お金が減って喜ぶのは複雑だが、まあジャラジャラとうるさいからしょうがない。
俺達は部屋に入り、扉にカギを掛けて荷物を下ろす。
窓を開けると小鳥の鳴き声や、街の音が聞こえて来た。
欲求を抑えきれず、ベッドにダイブする。そのまま、まったりと寛いだ。
ルーンを見ると、荷物をチェックしたり、服装を気にしているようだ。
俺はルーンに向かって手招きをしながら言った。
「あー疲れたな。ルーンも疲れただろ。休め休め」
「はーい」
可愛く返事したルーンが俺の傍に来る。
すかさず両腕でガバッと捕まえて、寝転んだまま胸の中に抱き寄せる。
「お、お兄ちゃん...その...」
ルーンが顔を赤くして、言い淀んでいる。
俺は、可愛い反応をするルーンを胸に抱いたまま、笑顔で言った。
「お疲れ様。ルーン」
ルーンも顔を赤くしたまま笑顔になり、俺を見て言った。
「うん...。お兄ちゃんも」
そのまましばらく、見つめあったまま沈黙が続く。
ルーンのいい匂いと柔らかい感触、疲れているのも相まって、このまま眠ってしまいそうになっていた。
いかん、猛烈に眠い...。
下はベッドの感触と、上に抱いたルーンの感触で、なんとも言えない心地良さがあるな...。
俺は起きていようと努めて、ルーンに話し掛けた。
「夕飯までどうする?このままイチャイチャして過ごそうか」
「も、もう...お兄ちゃんたら...」
「勿論ルーンが嫌じゃなければだが...。どっか街中を見て回りたい所は無いか?」
「嫌なわけないよ...。このままお夕飯まで、お兄ちゃんと過ごしたいな」
「そうか...」
再び沈黙が続いていた。
俺はぼんやりと天井を見つめている。
10分程経過した頃だろうか、ルーンがぽつりと呟いた。
「お兄ちゃん...あの...」
「ん?どうしたルーン」
「あの...おトイレの場所...。おトイレ行きたい...」
「あー、そういや俺も行きたかった。一緒に行こうか」
「うん!」
廊下に出て、念のために部屋にカギを掛ける。
短時間だから大丈夫だとは思うが、短剣に石に、高価な物があるからな。
それにどんなやつが泊っているかわからないしな。
カギを掛けたあと廊下を見渡すと、突き当りにトイレらしき部屋の扉がある。
部屋を出て右手の突き当りにトイレらしき扉、左手の突き当りに1階への階段があった。
「ルーン、あれかな?」
「うん...たぶん」
ルーンの手を引いて歩き、扉の前で一応ノックして反応が無いことを確かめてから、扉を開けた。
特別綺麗という程ではないが、お客様に使って頂く、という想いが感じ取れる程の綺麗なトイレだった。
ルーンと一緒に入り、カギを掛けて用を足す。
俺は、ぼーっとしたまま無意識にルーンに話し掛けてしまっていた。
「なあ、明日のことだが」
「お、お兄ちゃん...お話はお部屋に戻ってから!」
「あ、ああ...」
ルーンがこれ以上ないくらい顔を真っ赤にして、俺にしがみついていた。
ううむ、なんという可愛いさ。
いつか我慢できなくなりそうで怖い。
二人で手を洗い、トイレを出て部屋に戻り、またカギを掛ける。
俺はベッドに腰掛けてルーンに話し掛けた。
「なあ、明日のことだが」
「王都に行くの?」
ルーンが俺の右隣に腰掛けて、俺を見上げて聞いた。
「ああ、でもルーンが帰りたかったら...」
「お兄ちゃんのしたい様にしていいよ。でも危ないことはダメだからね」
「わかりました」
そう言って、俺はボテッと後ろに倒れ込んだ。
右腕を伸ばしてルーンの右肩を掴み、支えながらゆっくりと後ろに倒す。
腕枕のような体勢で、二人とも寝転がる。
俺はルーンの目を見つめたまま、お礼を言った。
「ルーン。ウィラルの街まで付き合ってくれてありがとな」
「お礼なんて言わないでよ、お兄ちゃん。私の方こそ、お兄ちゃんの傍に居させてくれてありがとう」
「俺の傍でいいなら、いつまでも傍に居てくれ」
「わーい!」
ルーンがとびきりの笑顔になり、いつもの就寝時の様に、俺に抱きつく。
窓の外には昼下がりの陽が差している。
ルーンを胸の中に抱いたまま、ぼんやりと言った。
「明日は王都だ、お前が傍に居てくれたら安心する。俺の傍に居てくれ、ルーン」
「はい...お兄ちゃん」
ルーンはより力強く俺にしがみつき、はっきりと返事した。
俺も答えるように、ルーンを抱く腕に力を込めた。
窓の外を見ながらルーンの声を聞き...俺はすぐにうたた寝をしてしまっていた。
素人が趣味で書いているものですので、何分ご容赦頂きますよう何卒宜しくお願い申し上げます。
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