31.二人の時間 ■
ルーンの視点です。
物語そのものは進展しません。
私とお兄ちゃんは、4人が乗った船を見送っていた。
船を見送ると、お兄ちゃんが振り返って私に話し掛ける。
「ルーン、疲れただろ。ちょっと休もうか」
「うん。でもお兄ちゃん、さっきやってほしいことがあるって...」
「あ、そうだった」
「なぁに?お兄ちゃん」
「うーん...。ルーン、ちょっとついて来て」
「わかった」
私はお兄ちゃんの手を握り、倉庫まで戻る。
「ルーン、お腹すいてないか?」
「さっき食べたから大丈夫だよ、お兄ちゃん」
「そっか、わかった」
「あ、でも...」
「うん?どうした、ルーン」
お兄ちゃんに言うの恥ずかしいなぁ...。
でもずっと我慢してるわけにもいかないし、黙ってたらお兄ちゃんが変に思うし...。
私は顔が熱くなっていくのを感じながら、お兄ちゃんに言った。
「お兄ちゃん...おトイレ行きたい」
私がそう言うと、お兄ちゃんは少し困った顔をして、返事をする。
「あー...、この部屋がそうじゃないか?」
お兄ちゃんは傍の扉を指差す。
傍に居て欲しいなぁ...。
でも...おトイレに一緒に入って欲しいなんて、お兄ちゃんに嫌われないかな...。
でも、お兄ちゃんがどこかに行っちゃったらどうしよう...。
私はひとりで考え込んで黙っていた。
「どうした?ルーン」
お兄ちゃんが心配して私に声を掛けてくれた。
私は思っていたことを、お兄ちゃんにお願いした。
「お兄ちゃん...一緒にいて。ひとりは怖い...」
「そ、そうだな。いろいろあったからな」
お兄ちゃんは優しいから、気を遣ってくれる。私が怖くならないようにしてくれる。
「あー、ルーン。その...扉の前にいるからな」
恥ずかしい思いをさせないようにと、お兄ちゃんはそう言ってくれた。
私は何も言えず、黙っていた。
やっぱりこんなわがままはだめだよね...?
おトイレに一緒に入って欲しいなんて、こんな女の子は嫌だよね...。
悲しそうな顔をしていたんだろうか、お兄ちゃんは優しく言ってくれた。
「わかった。目を閉じて耳を塞いでおくから一緒に入ろうな、ルーン」
私は嬉しくて、反射的に返事をした。
「うん!ありがとう、お兄ちゃん」
お兄ちゃんと一緒におトイレに入る。お兄ちゃんは目を閉じて、両耳を強く塞いでいた。
私はお兄ちゃんが傍にいることが嬉しくて、ぎゅっと抱きついていた。
用を足した後、下着を履いてから、お兄ちゃんに声を掛ける。
「...お兄ちゃん、終わったよ」
「ああ、わかった」
「わがまま言ってごめんね、お兄ちゃん」
「何言ってんだルーン、俺もルーンが傍にいると嬉しいんだよ。いつも一緒にいような、ルーン」
お兄ちゃん、いつも一緒にいようって言ってくれた...!
やっぱりお兄ちゃんは優しいなぁ...。
「うん!ありがとう、お兄ちゃん」
「あー、ルーン。俺もトイレを使いたいんだが...」
「あっ...お、お兄ちゃん...」
そうだよね...お兄ちゃんだってずっと私と一緒にいたんだし、いっぱい動いたし、いっぱい食べたり飲んだりしたんだから、おトイレ行きたいよね。
私はまた顔が熱くなり、じっと黙っていた。
お兄ちゃんは私の両脇に手を入れると、ひょいと私を持ち上げる。
そして位置を入れ替えた。
私は恥ずかしくて、じっと目を閉じてお兄ちゃんにしがみついていた。
お兄ちゃんとおトイレを済ませ、二人で手を繋ぎ、海岸まで歩いた。
海岸に着くと、お兄ちゃんは私に向かって話しだす。
「ルーン。頼みがある」
「なぁに、お兄ちゃん」
「ルーンの祝福、『狂戦士』の力を今ここで使ってくれ」
お兄ちゃんは祝福の力について、何か試したいことがあるようだった。
私は不安になって躊躇していた。
「え...でも...」
「ルーンが心配してることはわかってる、大丈夫だ」
「...」
「まず自分の意志で使えるかどうかだが、これはルーン自身が自分の祝福の力を意識してもらうしかない。仮に自分の意志で使えなくても大丈夫だからな」
「うん...」
「そして、理性を失って俺を襲うことについてだが、これも大丈夫だ」
「どうして?」
「俺がルーンより強いからだ」
お兄ちゃんは私に対して、はっきりとそう言い切った。
「ルーン、知ってるだろ?俺は生身の状態でルーンを止めた。生身でもルーンを止めることが出来るんだ」
そのままお兄ちゃんは『狂戦士』の力を使い、オオカミのような外見になる。
「そして今回は生身じゃなく...『狂戦士』の力を使って、いつでも...ルーンを止められるようにしておく...。強化された...俺が、ただの可愛い...女の子であるルーンに負けるわけが...ないだろ?」
確かにお兄ちゃんは私を止めてくれた、それも私のように強化されていない状態で。
だから『狂戦士』になったお兄ちゃんなら、私を止めることは簡単だろう。
でも私は怖かった。
止めてくれるとわかっていても、お兄ちゃんに襲い掛かるかもしれない自分が怖かった。
「それでも、私がお兄ちゃんを襲うなんてことになったら...」
「たぶん...大丈夫だ、そうは...ならない。それに今後...2人で生きていく...ためには、これは必要な...ことなんだ。ルーン...やってくれるか?」
牢屋に入った時から、お兄ちゃんに迷惑を掛けていた。
助けてもらってからも、わがままを言ってる。
だからお兄ちゃんの頼みなら、なんでも聞いてあげなくちゃ。
私は顔を上げ、はっきりと声を出してお兄ちゃんに返事する。
「わかった。お兄ちゃんの言うとおりにする」
「ああ、大丈夫...だ。ルーンも俺も...怪我することは...無い」
『狂戦士』の力を意識する...。
集中して、お兄ちゃんを助けなくちゃいけない、とイメージする。
徐々に体が変化し、衝動が湧き上がるのを感じる。
「ルーン、俺が...わかるか?」
遠くでぼんやりとお兄ちゃんの声が聞こえた。
「ルーン、大丈夫だ。ここに...俺たちの敵はいない」
お兄ちゃんはずっと話掛けてくれた。
「ルーン、俺はいつでも...お前の傍にいる。だから...自分自身を...恐れるな」
「お...にい...ちゃん...」
お兄ちゃんが傍にいるのがわかり、強い衝動を抑えながら返事をする。
「ルーン!俺がわかるか?」
「うん...お兄ちゃんは...私が...守る...よ...」
「ああ...ありがとな、ルーン。俺も...ルーンを守るからな」
「うん...」
理性があった。
お兄ちゃんと会話が出来た。
何より嬉しかったのは、お兄ちゃんに対して衝動が沸かないことだった。
よかった...。お兄ちゃんは私の敵じゃない。
お兄ちゃんは私の大切な人、もう大切なお兄ちゃんを傷つけることはないんだ...。
「ルーン、もう大丈夫だ...。意識して『狂戦士』の力を...解除出来るか?」
「やってみる...」
私はまた集中して意識をする。
しばらくすると衝動が収まり、腕や足が元に戻った。
「ルーン、解除できたみたいだな」
「うん...凄いね。これもお兄ちゃんの祝福の力が影響してるの?」
「どうやらそうみたいだ」
やっぱりお兄ちゃんは凄い。
お兄ちゃんの祝福の力も凄いけど、それだけじゃなくて、お兄ちゃんは色々考えて、試して、新しい力の使い方を把握している。
それによって私も、自分の意志で祝福の力を使えようになった。
お兄ちゃんに殺意と破壊の衝動が沸かなくなった。
やっぱりお兄ちゃんは凄いな...。
お兄ちゃんは私が安心することを、言葉に出して私に告げてくれた。
「ルーン、俺たちはもう自分の意志で『狂戦士』の力を使うことが出来るぞ。理性があって、衝動は強いが抗えない程じゃない。それに何より、俺は可愛いルーンを襲う心配が無いのが安心だな」
お兄ちゃんの優しい言葉に、私も興奮してお兄ちゃんに返事する。
嬉しくて興奮したせいか、自然と笑顔になっていたようだった。
「私も!目の前のお兄ちゃんに対しては、何も思わなかった。お兄ちゃんは大事な人だから...襲う心配がなくなったのが嬉しい!」
お兄ちゃんはとてもやさしい笑顔で、私を見つめていた。
素人が趣味で書いているものですので、何分ご容赦頂きますよう何卒宜しくお願い申し上げます。
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