29.テント
俺は満面の笑みで喜んでいるルーンを、ぎゅっと抱きしめた。
「ルーン、よくやったな。偉いぞルーン!」
抱きしめながら、右手でルーンの頭を撫でる。
「うん!お兄ちゃんが傍に居てくれたからだよ。お兄ちゃんがいると安心して...集中できたよ!」
「そうか、ならよかった」
「お兄ちゃん...」
ルーンは頬を赤くして、目を閉じて俺に体重を預けている。
ルーンの笑顔を見て嬉しさが抑えきれず、強く抱きしめる。
うーむ、ルーンが可愛くてしょうがない。
このまま異世界でルーンと二人で、ずっと一緒に生きていくか。
俺はルーンをぎゅっと抱きしめたまま、この異世界での目的を、ルーンと生きていくことにしようかと考えていた。
20分程経過しただろうか、ルーンとこれからについてゆっくり話そうと思い、声を掛けた。
「ルーン、今夜はどこで寝ようか」
「お兄ちゃんと一緒ならどこでもいいよ!」
「うーん、そうだな...」
洞穴内で寝るとなると、さすがにまた崩れることを想定しておかないといけない。
例えば、定期的にある処理をしないと崩れるようになっているとか。
そうなると...森か海岸だな。
ならばテントか、ポールと布が必要だな。
まあ倉庫内を探ったら、それっぽい物があるだろう。
「ルーン、一旦倉庫に行って必要な物を取って来よう」
「わかった、お兄ちゃん。どこで寝るの?」
「森か海岸にテントを張って寝ようかな」
「はーい」
ルーンは可愛く返事をして、俺の手をぎゅっと握った。
手を繋いだまま歩き出し、森を抜けて洞穴に入り、倉庫に戻る。
さて、必要な物は...毛布か寝袋、テント、食料、衣類、生活用品、後は念のために医療品もか。
「ルーン、今夜使う毛布か寝袋、それと食料と衣類、好きなやつを扉の外に出しておいて」
「お兄ちゃんが先に選んで!」
「あー、まあ俺はなんでもいいよ。じゃあ一緒に選ぶか」
「うん!」
俺とルーンは倉庫内を物色し、まずはそれぞれ使う毛布を見つけてドアの外に置く。
続いて食料、衣類、トイレットペーパーや歯ブラシなどの生活用品。そして止血剤や包帯などの医療品もドアの外に置いた。
さて、問題はテントだが...。
おお!あるじゃん!
運よくテントが倉庫に眠っていたので、それもドアの外に置く。
こんなもんかな?
「ルーン、必要なものはだいたい揃えたが、欲しい物があったらなんでも外に出しておけよ」
「うん。大丈夫だよ、お兄ちゃん」
「よし、じゃあ運ぶか」
倉庫から出て荷物を見る。
この大きさと重量を考えたら、往復しないと無理かな。
まてよ...。
「ルーン。この荷物だが...『狂戦士』の力を使って運んでみる」
「え?でも衝動が...」
「ああ、それはわかってる。衝動を考慮に入れた上で、出来るだけ力に慣れておきたい」
「うん...」
「ルーンは俺の背中にしがみついてて」
「お兄ちゃん、私も『狂戦士』になる」
「大丈夫か?まあいざとなったら俺が止めるが...」
「大丈夫だよ!衝動が強くても、お兄ちゃんに付いて行くことだけを考えるから!」
「ああ、並んで一緒に走ろう。出来るな?」
「もちろん!」
俺は倉庫から大きめの布を出し、荷物をくるんだ。
そして、大きい荷物に腕を回し、『狂戦士』の力を使う。
大きく太い両腕で、大きな荷物を抱える。
「ルーン...とりあえず...さっきの海岸まで...行くぞ」
「わかった!」
ルーンはそう返事して、『狂戦士』の力を使う。
それを確認し、ルーンに声を掛けて走り出す。
「ルーン!」
「はい!」
両腕に荷物を抱えたまま、大きく地面を蹴り出す。
普段では信じられない速度で走ってる。
ルーンは...ついて来てるな。
横を見て、ルーンが遅れずについて来ていることがわかった。
走りながら大きな声でルーンに告げる。
「ルーン、とりあえず海岸に着いたら『狂戦士』を解除しよう!」
「はい!」
俺とルーンは尋常じゃない速度で走り、ものの数十秒で海岸に着いた。
海岸で『狂戦士』を解除した俺たちは、すぐに砂浜に倒れ込んだ。
「はぁ...はぁ...。だめだ、疲れて動けん」
「うん...」
波の音がザザーンと聞こえる。
俺とルーンは疲れた体を砂浜に寝かせ、満天の星をぼんやりと見ていた。
20分程そうしていただろうか、砂浜に寝転んだままウトウトしてたら、ふいに手を握る感触があった。
「お兄ちゃん...」
「ああ、寝そうだった。まずはテントを張らないとな」
俺はそう言って立ち上がると、大きな荷物を解く。
「しかし『狂戦士』の強化は凄いな、たった数十秒で海岸に着いた」
「うん。強くなるのもそうだけど...自分の意志で行動して、お兄ちゃんに着いていくことが出来て嬉しいな!」
「ああ、俺もルーンが着いて来てるのはわかったよ。ルーンが疲れて動けなくなったら、背負って行こうかと思ったが、その心配は無かったな」
「えへへ...お兄ちゃんが疲れたら背負ってあげるね!」
「あー、それもいいな」
ルーンと会話をしながらテントを設営していく。
砂浜手前の、海岸が見渡せる森の出口にテントを設置することにした。
テントの中に毛布や衣類などを入れ、いつでも寝る準備が出来たところで、食料が入ったバスケットを持って、ルーンと一緒に砂浜に腰を降ろす。
「とりあえず寝床は出来たな。メシでも食うか」
「祝福の力を使ったからお腹すいたね、お兄ちゃん」
「ああ、ルーンも好きな物を食えよ」
「はーい」
俺とルーンは肩を寄せて海に向かって座っている。
水のごくごくと飲み。大きく息を吐く。
波の音を聞きながら、無言でもしゃもしゃと干し肉や果物を食った。
お互い好きな物を食った後、しばらく沈黙が続く。
ふと、ルーンが甘えるように呟く。
「お兄ちゃん、もたれていい?」
「ああ、いいぞ」
「わーい」
ルーンが俺にもたれかかる。
「お兄ちゃん、重くない?」
「軽いよ。ちゃんと体重預けてるか?遠慮するなよ」
「はーい」
ルーンは目を閉じて、じっとしている。
ザザーンと、何度も波の音が聞こえる。
俺はその時思ったことを、そのまま口に出していた。
「あー。お腹いっぱいだし、星は綺麗だし、可愛いルーンは俺の傍にいるし、最高の時間だな」
「...わたしも。お兄ちゃんと二人っきりで、夜の海岸で過ごせるなんて、幸せだよ」
「幸せだなぁ...」
そのまましばらく無言で、波の音を聞きながら、まったりと過ごしていた。
...何度波の音を聞いたかわからない。
食料を入れたバスケットに手を伸ばしながら、俺はルーンに対して今後のことを聞いた。
「なあルーン。この島を出たら、何かやらないといけないことはあるのか?」
「...無いよ、お兄ちゃん」
「そっか。じゃあやりたいことはあるか?」
「うーん...お兄ちゃんと一緒に暮らしたい」
「ああ、それは俺も同じだ。それ以外で...例えば大きな都市を見てみたとか、ルナウルフについて調べてみたいとか...」
「...どっちも興味無いよ。私はお兄ちゃんがしたいことを手伝いたい」
「俺がしたいことか...俺も特に無いな。まあとりあえずは、ここに来る前に住んでいた家に戻りたいかな」
「私も一緒に行っていい?」
「ああ、もちろん」
「よかった!」
「でも、森の中にある家だぞ。買い物をするには何日かかけて、レイドーム帝国かメイヴェリア王国に行かないといけない」
「その時は一緒にお買い物に行こうよ、お兄ちゃんっ!」
「ああ、もちろんだ」
「お兄ちゃんが住んでた家を見てみたい!」
ルーンは少し興奮して、笑顔で嬉しそうにしている。
ルーンには目的は無かったし、とりあえずじいちゃんが住んでいたあの家に戻るか。
庭も山羊もそのままだし、家の中もそのままだ。
隠しておいた高価な短剣も、盗まれてないか心配だ。
俺とルーンはその後しばらく雑談し、それから二人でテントに入った。
衣類などを枕にし、テント内でそれぞれ横になる。
隣で寝転んでいるルーンが、俺に話しかける。
「...お兄ちゃん」
「なんだ?」
「一緒に寝ていい?」
「もちろん」
俺がそう答えると同時に、ルーンがぎゅっと抱きついてきた。
俺はルーンの抱き枕のようになりながら、左手でルーンの頭を撫でてやる。
ルーンは目を閉じて、俺の胸に顔を埋めていた。
しばらくするとルーンの寝息が聞こえ、それを聞いた俺も眠りについた。
素人が趣味で書いているものですので、何分ご容赦頂きますよう何卒宜しくお願い申し上げます。
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