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15.救出成功

 牢屋の前に戻ると、泣いていたルーンがはっと顔を上げる。

 すぐに開錠し、中に入ってルーンに話しかける。


「ごめんなルーン、遅くなった」

「ナオ様が戻って来てくれてよかった...」


 もう戻って来ないと思って泣いていたのだろう、ルーンの表情から容易に読み取ることが出来た。


「ルーン、ちょっと待って」


 俺は急いで扉を閉め、施錠する。

 そして、カギとつるはしをベッドの下に隠した。

 銅板は外さない、ルーンを連れて行かれてから装備していては、間に合わない。

 俺はルーンと向き合って、真剣な顔で告げた。


「ルーン、もうすぐあいつらがルーンを連れ去りに来る。俺は胸に銅板を仕込んでいるから、あいつらと接触するわけにはいかない」

「...」

「俺はルーンから少し離れて、言葉で抵抗する。ルーン、あいつらがルーンを連れ去り、部屋に連れ込んだらすぐに飛び込んでルーンを助ける。必ずルーンを助ける、俺を信じてくれるか?」

「...」


 ルーンは何も言わない。


 当然だ、これから何が起こるか、未来のことを言っても信じられないだろう。

 それに連れ去られるのがわかっていて見ているだけ、なんて不安に思うだろうな。

 だが時間が無い、ルーンの協力無くしてルーンを助け出すことはできない。


「ルーン、詳しく説明してる時間は無いんだ。お願いだから俺を信じて。もうルーンを失いたくない」

「...」


 まあ前回はルーンを失ったわけじゃないんだけどな。

 だが俺だって死にたくない。もう一度ルーンの笑顔を見たい。


 俺は真剣な目でルーンをじっと見つめている。

 ルーンの綺麗な茶色の瞳も、じっと俺を見ている。


「...わかった。ナオ様の言うとおりにする」


 ルーンは何かを感じ取ったのか、俺を信じてくれたようだ。


「ありがとう、ルーン。俺が助けに来ることは、絶対にあいつらに悟られないようにするんだ。いいな」

「...うん、わかった」


 と、ルーンがそう返事すると、通路の奥から足音が聞こえてきた。

 牢の前で止まる3人、所長は前回と同じ笑みを浮かべる。


「これは可愛いお嬢さんだ。今日は二人もいい娘を仕入れたからなぁ」


 そういや前も二人と言ってたな、牢をよく見てなかったからわからなかったが。


「今からたっぷりとお前を可愛がってやるからなぁ」


 それを聞いて、俺は反射的に壁際に後ずさる。力いっぱい所長を睨みつけながら。

 ルーンは俺の前で顔を青くして怯えている。

 すると、それを見た所長が楽しそうに語りだす。


「怖いか?ぐへへ」


 そう言って所長は、後ろの男二人に合図する。

 前回と同じように、看守がルーンの腕を掴んで引っ張る。

 俺はそれを見て、怖気づいて声を絞り出す。


「や、やめろ! ル、ルーンに手を出すな!」


 壁に背を預け、足をガクガクさせながら、精一杯虚勢を張る。

 看守はちらりを俺を見たが、相手にする価値が無いと思ったのか、無視してルーンを引っ張って牢屋を出る。

 見張りが施錠し、3人はルーンを連れて去って行く。

 俺は格子にすがりつき、少しだけ声を上げて3人に向かって言った。


「ルーン!ルーン!!」


 3人の姿が見えなくなった。


 ...演技はこんなもんでいいか。

 よし、やるか。


 前回と同じように、いや、前回と違って体に痛みが無い。

 素早くつるはしとカギを取り、開錠して牢屋から出る。

 左手にカギを握りしめ、右手につるはしを持って歩き出す。

 すぐに奴隷達がいる部屋に着く、ここも前回と同じく素通りする。

 前方から話し声が聞こえる。足音を殺しながら、なるべく早く進む。


 施錠の音が聞こえる。あの長方形の部屋に入ったな。

 ここまでは前回と同じだ。問題無い。

 俺は同じく開錠し、少し開いてる扉を開けて倉庫に入り、ナイフを回収する。

 カギを銅板と胸の間のヒモに挟み、左手にナイフ、右手につるはしを持って後を追う。


 部屋の前に着き、扉に耳を澄ます。

 中の声も前回と同じだった。

 ぐっと右手に力を入れる。

 そのままタイミングを見計らう。

 ルーンがひときわ大きな声で叫んだ。男たちが下品な笑い声をあげる。


 ルーン、今行く。

 必ず助けるからな。


 俺は部屋に突入する。

 前回と違い、見張りの男がどこにいるかわかっていた。

 だから踏み込んだ瞬間に、つるはしを振りかぶって、そのまま振り下ろす。


 グチュッ!!


 つるはしの先端が見張りの男の首に突き刺さる。


「ガハッ...!」


 俺はすぐに手を放し、左手のナイフを右手に持ち替えながら、振り向く。

 視界には、看守の男と所長が驚愕の表情を浮かべていた。


 いける...!


 まっすぐ看守の男に向かって駆け出す。

 背後では見張りの男が倒れる音が聞こえる。

 看守は慌てて槍を取り、構える。

 そして襲って来る俺に向かって突きを放つ。

 時間が無かったせいか、前回よりもだいぶ勢いが弱い。


 その突きはもう知っている。


 俺はまっすぐ槍に向かっていたが、上半身だけをぐっと捻る。

 槍を正面から受けるのではなく、受け流す為に。

 槍は、その先端が俺の胸を捉え、例え上体を逸らしていても、突き刺さる...はずだった。

 しかし胸に仕込んだ銅板に当たり、カァン!と大きな音を響かせ、槍の先端が逸れて俺の後方に流れる。


「なっ...!」


 残念だったな。

 この距離ではお前の突きはもう使えないぞ。


 若干の衝撃に勢いが僅かに殺されるが、さらに加速するように地面を強く蹴って看守に飛びこむ。

 看守は奇妙な感触に困惑し、対応がワンテンポ遅れる。

 俺は勢いをつけて...看守の首を、力を込めて横に斬る。


 ズシュッ!!


 嫌な音が響く。俺はそのまま所長に向かおうとしたが、看守が反撃しようとする。

 槍の胴体部分で俺を殴りつける。が、腕を引いていないので勢いは弱い。

 槍をしゃがんでかわし、看守と所長をにらみつける。

 看守は首を手で押さえていたが、動脈を深く損傷したのか、血が噴き出している。

 どう見ても致命傷で、すぐに失血で死亡するのが明らかであった。


 借りは...返したぞ。


 俺は心でそう言って、所長に向かおうとすると、


「そこまでだぁ!動くとこのガキを殺すぞ!」


 所長が、派手な装飾が施されたナイフをルーンに突きつける。


 くっ、無理をしてでも突っ込んでおくべきだったか。


 看守の男に致命傷を与えたことで、若干油断していた。

 後悔しながら、この状況をどうやって打開しようかと必死に考える。

 と、所長がいら立ったように続けて叫ぶ。


「部下二人も殺しやがってぇ!お前もこのガキも殺す!」


 そうか、俺も殺すか。

 どうせ死ぬならまたルーンの手がいいな。


 と、冗談交じりに思うが、思いついたこの手しかないことはわかっていた。

 俺はルーンの目を見て、声を荒げて話しかける。


「ルーン、力を解放しろ。このままだと俺もルーンも死ぬ。俺は大丈夫だ、力を使え!」


 ルーンが意味を察したのか、その茶色の綺麗な目が大きく開かれる。


「あぁん?なんだあ?」


 所長が、意味がわからない、とばかりに声をあげる。


「ルーン、力を使ってくれ。こんなやつに殺されることはない!」

「でも!自分では...」

「ルーン、言ったろ。俺はルーンのことが怖くない。ルーンも自分の力を怖がるな」

「...」


 ルーンは不安な顔で俺を見ている。


「ルーン。暴走しても、俺が必ずルーンを止めてやる。約束する」

「ナオ様...」


 ルーンがはっとした表情になり、覚悟を決めた顔をする。

 所長が我慢できない、という感じでナイフを振り上げる。


「もういい!死ねぇ!」

「ルーン!」


 俺は駆け出そうとしたが、ルーンの様子を見て足を止める。

 所長がナイフを振り下ろすことは無かった。

 所長の腕が回転しながら宙を舞う。

 ルーンの逞しくなった腕が一瞬にして所長の腕を吹き飛ばしていた。


「......は?」


 所長は理解できないようだが、すぐに言葉も出せなくなる。

 前回と同じように、所長の首から上が吹き飛んだ。

 ルーンが低く唸る。真っ赤な目が光るように煌めく。


「グ...ウウ...ゥ...」


 そして失血による影響か、今にも倒れそうな、顔を真っ青にした看守に向かって飛びかかる。


 ガシュッ!!ガッ!!


 ルーンの腕が血を吹き出していた看守の首を飛ばし、首が無くなった胴体をルーンが蹴り上げる。


 前回と同じだ。やはり理性が無いのか...?


 おそらくルーンの目に映る生き物全てを殺そうとしているのだろう。

 前回は俺に対しても攻撃をした...、というか俺を殺したルーンがフラッシュバックする。


 いや、あれは槍の攻撃で致命傷だった、どの道死ぬしかなかった。

 実質槍の攻撃で殺されたわけであって、俺はルーンに殺されたわけじゃない。

 そういうことにしよう。


 ルーンはゆっくりと俺を見る、どうも息があがっているようだ。

 体力の限界は近いのかもしれない。


 なんとかルーンに怪我をさせずに抑え込めればいいが...。


 ルーンは荒い呼吸のまま俺に飛びかかる。

 ここは前回と同じだ、だったら。


 ガァン!!


 ルーンの腕が俺の胸を抉ろうとし、銅板に阻まれる。

 1枚目は貫通し、2枚目を凹ませる。俺の胸に衝撃が走る。


 ぐっ、痛い...。

 だがルーンを止めないと。

 俺の力ではルーンを組み伏せることは出来ない、ならば...。


 俺は怯んでいるルーンの両脇に手を伸ばし、脇の下から持ち上げるようにしっかり掴む。

 そして思い切り、ルーンをベッドにぶん投げる。


「はぁっ!!」


 大きく声をあげて、勢いをつけて投げる。

 ルーンはベッドに打ち付けられるが、すぐに体制を整え、両手をベッドに付け、駆け出す姿勢を取る。

 しかし、その呼吸はかなり苦しそうで、体力の限界が近いのがわかった。


「ルーン!目を覚ませ!!」

「アアァ......」


 ルーンは息も絶え絶えの様子だが、最後の攻撃をしようと駆け出す。

 先ほどの勢いと比べると、明らかに遅く弱い。

 胸への攻撃は有効ではないと学習したのか、俺の顔めがけて右腕を振るう。

 先ほどよりも遥かに遅くなってはいるが、それでも俺からすれば充分に速い攻撃だった。


 ぐっ、防げるか!?


 ガァン!!


 なんとかナイフを顔のすぐ横に立て、あたかも盾としてルーンの爪を防ぎ、腕の勢いを落とす。


「はぁっはぁっ...、ルーン...。目を覚ませ。もう大丈夫だ。お前を襲うやつはもういない」


 俺の息もあがっている。しかし言葉をかけ続ける。

 ルーンは体力の限界が来たようで、腕をだらりと下げる。


「はぁっ...ルーン。俺が分かるか?」


 ルーンの体が前のめりに倒れる、俺はぎゅっとルーンを抱き止める。

 ルーンの目を見ると、真っ赤だった目が徐々に茶色に変わっていく。


「ルーン、よくやったな。もう大丈夫だ」


 ルーンは正気に戻ったのか、悲しそうな顔をする。

 頭の上に突き出ていた耳や、お尻から伸びていた尻尾は無くなり、腕や爪も元に戻っていた。

 意識を保っているのがやっとのルーンは、最後に返事をしてくれた。


「ナオ様...わたし...」

「約束しただろ、お前を止めるって。今はゆっくり休め」


 俺がそう言うとルーンは...眠るように意識を失った。




素人が趣味で書いているものですので、何分ご容赦頂きますよう何卒宜しくお願い申し上げます。


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