第三話:『オレは挑戦者』
初ダンジョンの夜
オレは親父と記念という事で酒を飲み交わしていた
親父は笑顔でオレを迎えて喜んでくれたし
今日は相当気分が良かった。
「所で、素材はどうするんだ?」
「一部は残して売っちまうかなー」
「なら防具は新調しとけ、お前の防具だと
ちょっと不安が残るからな」
「そうだな、しっかりした鎧凹まされてる奴いたし」
「あと…」
親父は顎に手を当てて悩む
どうやら何か思い出しているようだが…?
「パーティ作った方がいいな
後衛メインだろ?」
「剣術も出来ないことないけど」
「メインは銃なら後衛だ、11年間俺みてぇなオッサンとか
他の猟師のジジイ共とばっかり話してた以上慣れないかもしれんが
仲間も無しにダンジョンは無茶だぞ」
「…押忍」
「あとアレだ、いい子見つけたりとか」
「無茶いうなって!!」
「ったく、母ちゃん泣くぞ」
「母ちゃん引き合いに出すのはズルいっての
…とりあえず、仲間先に探すよ」
とは言ったものの、戦闘向きじゃない職の27歳のおっさんなんて
仲間になりたい奴はまずいないのが世の常、相当無茶な話である。
「ほら、肉煮えてんぞ、喰え喰え」
今は今日の成果を喜ぶのがいいや。
■
今日も『新宿魔境』に出向く
昨日の成果で作った新しいアイテムもあるし
今回はもっとうまくやれるかなと思っていたら
昨日のヤジの連中がもう一人増えてるのに気づく
しっかりした鎧にでっかい楯を持ってる辺り前衛か。
「おい、早くいくぞ!」
「俺らだってしっかり連携すれば40匹なんて簡単だろ」
「は、はい…」
馬鹿な事いうもんだ、すぐに痛い目見るぞ
ああいう相手は数とかじゃなくて慣れが大事なのに。
「まぁ…やばいときは逃げてくるだろ」
若い間は失敗するもんだし、気に掛けるものでもない
オレは今日の実験のが大事だからな。
「すいません職員さん、今日もお願いします」
「あ!はい、わかりました、今日も頑張ってください」
「押忍!」
昨日の成果で見る目が変わったのか
職員の目は期待と応援を感じさせて良い物だった。
「さてさて、どれだけやれるかねぇ
『狼牙弾』は…」
普段の弾丸と違う特殊なモノを用意していた
『狼牙弾』は所謂フレシェット弾のような細かい針をばら撒く玉のように
鋭く加工し直したビッグウルフの牙をばら撒く弾丸である。
「ドゥリンダナ用に12発、散弾銃用に30発
試しには充分だな」
込めた弾丸を確認しつつ、ダンジョンに歩を進めた
今日も狩りの時間だ。
昨日のように呻き声が聞こえるが
少々違うものもある、もっと高くて
狼ではないかもしれん。
「さてさて、鬼が出るか蛇が出るか…」
警戒を強めると気配の中から石つぶてが飛んでくる
余り早くないため躱せたが、どうやらただの狼ではないらしい。
「ギャギャ…」
「ほほ~う、ゴブリンか
しかも狼に乗ってやがる」
『ゴブリンライダー』と言うべき姿のモンスターが現れる
ボロ布の袋には石が詰められており
先程の攻撃もこいつの物だろう。
「だがな、そんぐらいの攻撃じゃ怖くないぜ」
昨日は余り使わなかった散弾銃を構える
するとゴブリンライダーも躱してやると言わんばかりに手綱を握り返したが。
ドンッ!!
銃声と共にゴブリンライダーは狼ごと吹き飛ぶ
その姿は無惨に穴だらけになっていた。
「普通の散弾じゃ毛皮に弾かれたりするが
狼の牙は普通にぶち抜くか、こりゃあいい」
実験の正解にほくそ笑む、猟においてはモンスターに既製品の弾丸が
弾かれた経験もあり、想像以上の成果だと言えた。
「さてさて、ゴブリンも狙えるしもう少し深く行っても大丈夫だろうな」
しっかり銃の調子を整えつつプランを頭で組み上げる
良い猟師は無茶はしないが出し惜しみもしないのだ。
「今度は大量に用意しておきたいし、ガッツリ行くぞ!」
散弾銃をコッキングして装填し、さらに進んでいく
『錬金術師』なりの強くなる方法は良く見えてきたからだ!
■
大体地下5階位まで進んで流石に弾薬を考えつつ
オレは地形とかを書き記して覚えていた
いつもは撃ち合ってばかりだが、罠なんかも使えると
モンスターを見て思ったわけだ。
「広いところだと撃ち漏らすかもだし
罠置いてしっかり待ち構えて退治した方が…」ブツブツ
そう思って見回していると
走ってくる人影二人分が見えた。
「…ん?」
「どけどけ!邪魔だ!!」
よく見れば、全身ズタボロの血塗れだ
鎧も滅茶苦茶で穴も空いてる。
「いったい何があった!」
「モンスターキャラバンだよ!
相手してらんねぇぜ!」
「おい!…いっちまった」
モンスターキャラバン、ダンジョンで時折現れるモンスターの群れだが
一般的な群れと違って別種のモンスターでも一つのグループに纏まり
共通してその階層より強力なモンスターがリーダーになっているのだ
流石に相手したくない、さっさと帰ろう…そう思ったが。
「二人だけ?」
足りていない、大楯を持ったヤツが居たはずだ
死んだのか…?しかし、もしも、もしもだが…。
「囮にされたって線もあるな…」
弾薬を確認して走り出す、確認するだけだ
下手な事すればオレだって死ぬ、だとしても
嫌な可能性は払拭したいのだ。
弾薬を温存するためにドゥリンダナをデュランダルにチェンジして
邪魔する奴は切り捨てる。
嫌な血の匂いが濃くなっている、確実に殺し合っている。
見つけた、コレがモンスターキャラバンなのか
目の前にはゴブリンやゴブリンライダーだけでなく
一際体格の大きい狼や大きい豚面の怪物もいる
そして、その中に…。
「はぁっ…はぁっ…!」
自分より大きい楯で攻撃を受け止めて戦うヤツがいた
鎧もひしゃげて血が流れている、痛々しい姿だ。
「…仕方ない、やるしかねぇ!」
弾薬を用意し直して狙いを定める
先ずは強そうな奴だ、それ以外はまだ何とかなる
豚面が恐らくリーダーだ、攻撃こそしているが
周りのモンスターが何となく前に挟まっているように見える。
「ぶっ放す!!」
この散弾銃は『錬金術師』の技能を扱って小細工がされており
所謂スラムファイヤを可能なように改造してある
それを活かして『狼牙弾』を5連射叩き込む。
「プギィャアアアアアアアッ!!??」
頭を中心にズタボロ滅茶苦茶になり血をばら撒く豚面
しかし脳が小さいのか急所を抜いてないらしい
だが、まだ行ける。
「ドゥリンダナ!眉間の間だ!」
連続で早撃ちを叩き込む、豚面はひときわ大きく
断末魔を上げて倒れ込んだ。
「周りはどうなった!」
銃口を向けつつ見回す
連続した射撃音に恐れをなして殆どが逃げ出す
楯のヤツにどさくさに紛れて襲おうとしていた連中は
早撃ちを再度かましてやった。
「…はぁ、疲れた」
「えっと、あの…」
「大丈夫かお前、怪我は?」
「鎧のおかげでなんとか…」
流石に動きずらいようだったので肩を貸す
結構重たいが、獲物よりはマシだ。
「お前どうしてそんな目に?」
「その…他のメンバーに見捨てられちゃって…
モンスターキャラバンは相手しきれないって」
「…………ったく、滅茶苦茶しやがって」
「すいません、この恩はどうお返ししたものか」
「そんなことは今は関係無いっての
とりあえず先に帰るぞ」
一旦置いてからさっき打ち倒した豚面を解体する。
「凄いですね…オークを倒しちゃうなんて」
「銃当てりゃ死ぬもんだ」
肉と骨を分けると、中に綺麗な宝石が埋め込まれていた。
「…んだコレ」
「モンスターキャラバンのボスから出る石があるそうなんで
それじゃないでしょうか…?」
「ふ~ん、じゃあ持ち帰るか…さて」
解体を終えてダンジョンから帰る為
楯のヤツにもう一度肩を貸して歩き出すのだった。
もう一話書く予定
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