夢幻の少女は立ち上がる
週末の戦いが終わり、また新たな一週間が始まる。少し、いつもより少しだけ輝いてみえる。秋晴れのせいかな。
「おっはよ! あんたに賭けて大損したじゃん! お昼奢ってよね!」
「おはよう。いいよ。一緒に食べよ。」
本当に私に賭けたんだ。バカな子。
「あれ? カーサったらどうしちゃったの? あんだけ酷い負け方したのに、すっきりといい顔しちゃってさ。てか、よく生きてたよね。」
「そう? 勝ち負けなんてどうでもいいよ。私はあんな強敵を相手に生き残れた。それだけで満足だから。」
それに……父上の本心も知れたし……
「ふーん。あんたに勝ったアレクサンドルって女、決勝であんたより酷い目に遭ってたよ。石が溶けるほどの高温で焼かれてさ。」
あれほどの女が……
そうか……父上が私に戦いは向いてないって言うわけだ。じゃあ結局あの凡庸な顔した男がゼマティスの孫だったってわけか。カース・ド・マーティンって言ったね。そんなことも見抜けないんだから、やっぱり私は愚か者だったんだな……
あれで一歳下か……
「あっれー? ちょっとカーサぁ。なぁーに女の顔してんのよ? あれだけ兄上ラブだったくせにぃ?」
「ち、違うよ! ちょ、ちょっと私と名前が似てるって思っただけだから!」
セリカったら変なこと言うんだから……
「まっ、あの男は売り切れだしね。決勝戦の相手、アレクサンドルと将来を誓い合った仲だってさ。」
「そ、そう……別に私には関係ないし……」
そんな相手でも戦いとなれば丸焼きにする……それがクタナツの男なのね……
やっぱり私には向いてない世界……か……
「ふふ、無理しちゃってー。あっ、ほらほら誰か来たよ?」
別に無理してないし……
「あの、カッサンドラさん! 感動しました! 僕ら平民から見れば高い魔力でも、貴族の中では低い魔力なのに……あんなに戦えるなんて!」
「ダリル……魔力が低いは余計だよ……感動した、だけでいいのに。」
同級生の男の子が話しかけてくるとは珍しいな……
「ダリル? あんたも一緒にお昼食べようよ。カーサが奢ってくれるってさ?」
なっ、セリカ?
「えっ!? いいの!? ぜひご一緒するよ! でも代金は僕が出すよ。どうかな、カッサンドラさん……」
まっ、それならいいか。
結局セリカのやつ昼になっても食堂に来なかった。まったく、私が奢るわけじゃないからどうでもいいけど。
しかもダリルと兄上から貰ったケイダスコットンの話をしていたら、なぜか今週末一緒に仕立て屋に行くことになってた。
しかもなぜか仕立て屋の帰りはカフェ・コフィーヌに寄ることになってる。別にいいけど……
さあ、昼からの授業もしっかり受けよう。卒業までずっと首席でいるために。
だって私はベクトリーキナー家の末娘だから。
最後までお読みいただきましてありがとうございます。
この国や王国一武闘会、はたまた辺境の街クタナツ。そしてアレクサンドリーネやカースが気になった方は『異世界金融』の本編をお読みいただけると幸いです。