戦い終わって
熱い……
私が焼ける……
熱い……
私は燃やされた……
負けたのか……
髪も……服も……そして意地も……
全て燃やされたのか……
でも……生きてる……
ここは……どこ……
喉が渇いた……
水……
あ……何かが……
私の中に……入ってくる……
暖かい……
あに……うえ……
「兄うえ……」
「やっと起きたか。無様に負けおって。」
え……なぜここに……?
兄上はどこに……なぜいないの……?
「ちち……うえ……」
「見てたぞ。やりようによっては勝てる相手だったものを。戦術を誤ったな。」
くっ……あの金髪女の魔力は……強大だった……みっともなくても……もっと弱者の戦術を使うべきだった……
もっと狡猾に……生き汚くとも……
「もうしわけ……ありません……」
「自分がなぜ魔法学校に行かなかったのか、忘れたわけではあるまい。この愚か者が。」
くっ……そのぐらい……私だって分かってる……
私は……魔力が低いから……だから工夫して戦うしかない……
「だがカーサ。なぜ中等学校を志したのか、それまで忘れたと言うのなら最早お前に言うことはない。」
「そ、それは……」
言えない……言いたくない……こんな自分の娘が瀕死な時に優しい言葉の一つも……かけないような奴……
でも、こんな奴みたいになりたくて……勉学で身を立てたかったからなんて……
私には兄上のように宮廷魔導士になれるほどの魔力なんてない……
でも、魔力が低くたって……父上みたいに国に一人しかいない偉人になることはできる……
私より魔力が低い父上が実証してるんだから……私にできないはずが……
「思い出したようだな。お前に戦いは向いてない。大人しく勉学に励め。分かったな。」
「はい……」
「分かったら寝ろ。」『快眠』
あ、父上の魔法……まるで秋の風……涼しくて……ちちう……
『いーよなー父親がベクトリーキナー卿でよー』
『なんでその程度の魔力で首席なんだよ』
『満点だって? どうせ父親の力で解答を手に入れたんだぜ』
違う……確かに私は……魔力が低いけど……
だけど……だから……勉学を頑張って……
少ない魔力でも……勝てるように工夫して……
『いーよなー父親が偉いとなー』
『あの程度の魔力で魔法対戦に勝つってズルしてるぜ』
『正解者はカーサだけ? ズルだズル』
違う……私は魔力が低くても負けないように……
聖女様を参考に……幻術を磨いて……
ズルなんかしてない……ただ夜遅くまで……
『いーよなーベクトリーキナー家に生まれてよー』
『でもあんな陰気な顔に生まれたくないわよ』
『紫の髪も不気味よねー気味悪ーい』
違う……こんな家……あんな父親……
家族で私と父上だけ……紫の髪……低い魔力……
この髪は……私の……自慢の……
「違う!」
「うおっと。起きたなカーサ。びっくりしたじゃないか。気分はどうだい?」
「兄上……」
だめ……兄上に合わせる顔がない……父上にあんなこと言われて……兄上にまで軽蔑されたら……
「カーサ、知ってるか? 辺境における勝利の条件を。」
「辺境……ですか? フランティアとかでしょうか……」
「そうだ。カーサに勝ったアレクサンドル嬢も、その彼女に勝ったマーティン君も辺境フランティアの街、クタナツ出身だそうだ。王都から出たことがないカーサが勝てなくても仕方ないさ。でもな?」
クタナツ……知ってる。ローランド王国で最も辺境に位置する……危険な街。昨日の魔法なし部門の優勝者もクタナツ出身だって……
「でも……?」
「クタナツでの勝利条件は生き残ることだってさ。生き残りさえすればそれはもう勝ちなんだ。つまりカーサは勝ったんだよ。よく無傷で武舞台を降りてくれたね。」
「無傷……ですか?」
そんなはずは……髪だって……
え!? 髪がある……なぜ……髪はポーションでは治らないはずなのに……
いや、それどころか……服が燃え尽きるほどの高温にさらされたのに……どこも痛くない……
な、治ってる……火傷の痕すら……ない。
ま、まさか兄上が……?
「兄上が……治してくれたのですか……?」
やっぱり兄上……私には兄上しかいない……
「ふふ、違うよ。知ってるだろ? 僕は治癒系の魔法は使えないってことを。」
「じゃ、じゃあ誰が……」
「当ててごらん? ヒントは……全て燃え尽きた髪の毛を元通りにできる人。知ってると思うけど、これは聖女様にもできないだろうね。」
聖女様にもできないことをやってのける……男……
「ちち……うえ……」
まさか……あいつが……私なんかに……
「正解。他にいないよね。父上は文句言ってたよ。せっかく集めた希少な素材の数々が台無しだって。」
「それって、父上が大事にしていた……宝物ですよね……」
嘘だ……失くせば二度と手に入らない貴重な素材を……
紅蓮火龍の胆石……
極楽揚羽の鱗粉……
人面黒樹の魔根……
忌魔昆布の養液……
とうてい値段なんか付けられないほどの……
「半分正解。でも父上が最も大事にしている宝物が無事だったから機嫌は直ったよ。」
「え……?」
「父上の宝物はカーサに決まってるだろ? まったく……末っ子だから甘やかしたくて仕方ないのを必死に堪えてあの様さ。我が父ながら何も言えないね。」
そ、そんな……父上が……
「おまけに陛下のお手持ちの特級ポーションまで強奪する始末さ。一家で奴隷落ちになったらどうしたものか。」
父上……が……
「陛下のポーションと数々の素材。それらを調合してたちまちカーサを元通りにする秘薬の完成さ。もしもこの世にエリクサーがあるとすれば、きっとそれさ。」
神の霊薬エリクサー……父上はそこまでして私を……
「さあ、立てるか? もう帰ろうな。とっくに表彰式も終わったし。母上が料理を用意して待ってるぞ。」
そう言って兄上は着替えを渡してくれた……
兄上……母上……そして父上……
私は……私には……兄上だけじゃなかったんだ……
「兄上、服を着ます。出て行ってください。」
「あ、ああ。外で待ってるからな。」
私は……父上が言う通り……愚か者だ……
ぐすっ、涙が……止まらないよ……
私……何も見えてなかったんだ……