準決勝……
はあ……疲れた……傷の手当と魔力の回復をしないと……
「カーサ! よくやったね! 怪我は大丈夫か!?」
「兄上! 見ててくれたのですね! 私は平気です! それより兄上、次の私の対戦相手ですが警戒すべき相手はおりますか?」
自分でも見たけど……きっと兄上の意見は私より正しい。
「うぅむ、見たところみんな強敵だ……だが、カーサなら油断さえしなければきっと勝てるさ。だが、無理はするなよ? カーサが無事であることが一番大事なんだからな?」
「はい兄上! きっと無事に武舞台を降りてみせます!」
兄上が私のことを心配してくれてる! 絶対勝たないと! 兄上だけだもん……私のことをベクトリーキナー家の娘なんかじゃなく、ただのカーサとしてみてくれるのは……
兄上がくれた魔力ポーション。こんな高級品を……私のために。私、絶対勝つから!
ついに三回戦、つまり準決勝。あと二回勝てば……
私以外の三人……
一人は知ってる。ナグアット・オイルバレイ。王都の冒険者で有名な奴……接近戦でも強いくせに魔力も高い……かなり手強いな……
残り二人は知らない。
一人は女……ざっくりと切られて短くなった煌めく金髪、私から見ても美しいと感じる顔立ち……ちっ!
こいつの戦い方は見た……高い魔力に物を言わせてごり押しで勝ってやがった。ちっ、名門貴族のくせに身を削るような戦い方をしやがって……そのせいで長かった髪まで失ってれば世話ないな……
もう一人は男。消去法でいけばこいつがゼマティス卿の孫ってことになるが……特徴のない、凡庸な顔してやがる……本当にこいつなのか?
こいつの戦い方は見ていない……二回戦では私の後だったからな……兄上もあの後控え室に来てくれたから……見てないよね……
私と当たるのは誰なのか……いよいよ抽選だ。
抽選は二回戦の試合順、つまり私は三人目……
一人目、金髪女が一の札を引いた。
二人目、冒険者ナグアットが三……
そして私は……二!
ふ、ふふ……そうかい……あの金髪女が私の相手か……いいさ。相手に不足なしだ……
「アレク、分かってると思うけど強敵だよ。気合でぶっ飛ばしておいで」
凡庸な男が何か言ってやがる……
「ええカース。分かってるわ。先に決勝で待ってるわね」
この女ぁ……調子に乗りやがって……
男の方はカースって言うのか……私と似たような名前しやがって……
「聞き捨てならないわね。もう私に勝ったつもり? さっきのような戦い方では私には勝てないわよ?」
ふん、お前の戦い方はさっき見たからな。そんな魔力に任せた頭の悪い戦い方で私に勝てると思うなよ?
「ご忠告ありがとう。私の戦い方は変わらないわ。対戦してからのお楽しみにしておきましょ」
ちっ、余裕かましやがって……
そのデカい胸……抉りとってやるよ……
兄上……見ててください……
私は兄上のためにも……勝ちます……
『大変長らくお待たせいたしました! 決勝トーナメント三回戦、第一試合を始めます! 一人目はァー! アレクサンドリーネ・ド・アレクサンドル選手! 高い魔力に任せて力づくで勝っている印象ですが、今回はどうでしょうか!?
二人目はァー! カッサンドラ・ド・ベクトリーキナー選手! もうご存知ですね! 魔法工学博士として名高いベクトリーキナー卿の末娘だぁー! 中等学校四年! もちろん首席! 幻術が有名だが、それだけを警戒しすぎると決める一撃が飛んでくるぅ! ここまでも危なげなく勝ち上がってきたぁ! これは見逃せない対決だぁー!』
アレクサンドル家……誰でも知ってる建国以来の名門貴族……この女はそこの分家か……二回戦では本家の男に勝ってたな……
手入れを欠かしてない髪でも、勝利のためなら惜しくないのか……私だって……勝つためなら……
『さぁー! それでは始めます! 双方構え!』
『始め!』
『氷弾』
溜めもなしに鋭い弾丸が何発も飛んでくる。だが……
「効かないわ。だからそんな戦い方じゃあ勝てないのよ。」
私の頭をすり抜ける……
『燎原の火』
なっ!?
こっ、こいつ……頭がおかしい……
この広い武舞台全てを……火の海にしやがった!
くそっ『風壁』
防ぐしかない……
『火球』
「くっ」『水壁』
風壁で火を防いだせいで居場所がバレた……
『やはり幻術を使うことがバレていると対応が早いです! 開始前から既に幻術を使い居場所をズラしていたことなど気にもしてないようだぁー!』
『開始前から魔法を使うのは一応反則じゃが、対戦相手にバレなければ構うまい。こちらから指摘することはないからの。』
『初手の氷弾はただの確かめ。初めから燎原の火まで使う予定だったようだな。』
くそ……火の魔法ばかり使いやがって……自分が焼けることなど気にもしてないのか……次から次へ『火球』が飛んできやがる……
「調子に乗るんじゃないわよ!」
くらえ!
『渦巻く波濤』
『おおーっと! カッサンドラ選手! 武舞台の上を丸ごと押し流そうとしているぅー! あわよくばアレクサンドリーネ選手も場外へ落とす作戦だぁ!』
『どちらも見事じゃ。ほぼ溜めなしで上級魔法を撃つとはの。』
『わざわざ渦巻く波濤を使う必要があったかは疑問だがな。何か思惑があるのだろうか?』
あるに決まってんだろ! バラすんじゃねぇよ! だが、あの女……すでに……
『水球』『水球』『水球』
クソが! 空中から狙い撃ちかよ! やたらめったら撃ちやがって! どんだけ魔力があんだよ!
これは避けきれないな……よし……
『場外! 勝負ありー! カッサンドラ選手、水球に吹っ飛ばされて場外に落ちたぁー! アレクサンドリーネ選手の勝利です!』
『…………』
『…………』
『燎原の火』
『アレクサンドリーネ選手!? 何を!? もう勝負は……』
ふん……さすがに気付いてんのかい……だが……見当違いだねぇ……死ねや! 『粘水球』
「キャアアッ!」
空中に逃れて油断したねぇ……? まさか自分の上から魔法が降ってくるとは思いもしてなかったようだねぇ……高所から武舞台に叩きつけた……骨の数本は確実に折れたなぁ……終わりだ……
「ふふ、やるねぇ。空中に飛び上がったぐらいで私の目を逃れたつもり? 甘いんじゃない?」
『氷散弾』
ふん、まだ立ち上がるのか……だが小雨だな……
「ちっ……」『水壁』
「甘いのはあなたよ。あんなバレバレの場外もどき。もう逃がさないわ!」『火球』『旋風』『風壁』
ヤバい! こ、この魔法は!? 逃げ、防がないと!
『なんとぉー! カッサンドラ選手! 場外に落ちてなかったぁー! 落ちたと見せかけた幻術だったぁー! 騙された私が間抜けなのか、それともカッサンドラ選手の幻術が強力なのかぁ!』
『あの歳で恐ろしい幻術を使いおる。当時のワシを遥かに超えておるわ。』
『ああ、私達は幻術だと思って見ているから気付けたのだ。アレクサンドリーネ選手も同様だがな。』
『なるほど! 私が悪いわけじゃないと分かって安心です! さあアレクサンドリーネ選手、上空から叩き落とされて瀕死かと思えば、間髪入れずに連続魔法! カッサンドラ選手を取り囲んだ! 二回戦で見せたような炎の旋風だぁー!』
『氷壁』『水壁』『風壁』
だめだ……逃げ場がない! しかも……どれだけ魔力込めてやがるんだ……私の魔法でも……全く防げない……風の前の塵のように……
嫌だ……負ける……そんなバカな……
『水壁』『風壁』『氷壁』
効かない……私の魔法が構築する端から蒸発していく……あの金髪女……後先考えず……全魔力を注ぎ込んでやがる……私の何倍あるんだよ……
だ、だめ……もう私の魔力が……兄上……見ないで……
無様に負ける私を見ないで……
熱い……服が燃え尽きた……髪も全て……手足が焦げる……全身が燃えて……死ぬ……
『ぬっいかん、やめよ! 勝負ありじゃ! カース! 火を消せ!』
ゼマティスのジジイが何か言ってる……