決勝トーナメント二回戦
『さぁー! 決勝トーナメント二回戦第三試合を始めます! 一人目は! ディスラ・マニヤーニ! 騎士学校五年の三位! なぜわざわざ魔法あり部門に出場したんだぁー!? 昨日四回戦で負けたからかぁー!?
二人目は! カッサンドラ・ド・ベクトリーキナー! 中等学校四年の首席! そして皆さんもうお分かりでしょう! 兄は宮廷魔導士! 父は魔法工学博士! 魔法エリート一家に生まれた英才少女! なぜ魔法学校じゃなく中等学校に行ったんだぁー!』
うるさいな……そんなの私の勝手だろ……
『双方構え!』
『始め!』
『飛斬』
くっ、騎士学校のお家芸……飛ぶ斬撃か……
くそ、隙間なく撃ち込んできやがる……避けるのが間に合わない『水壁』
開始前に魔法を使ったことを対戦相手から指摘されると反則負けになりかねないからな……今回は幻術をまだ使ってない。二試合連続で開始前に使って……見破られたら元も子もないしな……
『おおーっとマニヤーニ選手の絶え間ない飛斬がベクトリーキナー選手を襲うぅー! ついに避けきれなくなったベクトリーキナー選手は水壁で防ぐ道を選んだぁー!』
『ふむ、魔力がよく練り込まれたいい飛斬だ。昨日勝てなかった理由は魔力を使えないルールだったからと見ることもできるな。』
『だがそれほどの飛斬をよく防いだものじゃ。さすがベクトリーキナー卿の娘だけあるわい。』
うるせぇんだよこのクソジジイ……私は私だ……
『飛突』
ぐがっ! くっ、くそがぁ! 私の水壁を貫きやがった!? 飛ぶ刺突かよ! くそ、右肩が……
『おおーっと! 防御を固めたベクトリーキナー選手に対してすかさず飛突を撃ち込んだマニヤーニ選手! 水壁を貫通したぁー!』
『おっと、あの出血は……』
『ワシからは何も言うことがないのぉ……』
ちっ、クソジジイ……
「その出血ではもう無理だ。早く手当をしないと命に関わるぞ?」
「うるせぇ……私が勝つんだよ……」
「そうか。ならば続行だな。その根性は評価する。」
兄上が見てる前で……無様な戦いを見せるわけにはいかないんだよ……『砂塵』
「無駄だ! この程度の目眩しなど通用せん! 出血で動きが鈍ってるな!? そこだ!」『飛斬』『飛突』
「ぐっ、ぐふぅ……」
『おおーっと! これは危ない! マニヤーニ選手の猛攻です! ベクトリーキナー選手、全く避けられなーい! 鋭い斬撃に次々を身を切られているぅー!』
『なるほどな……』
『ワシは何も言わん……』
『水球』
ぶっ飛べ……
「はぁっ!」
『なんと!? マニヤーニ選手の後ろから水球が飛んできたぁー! だがマニヤーニ選手! 振り向き様、見事に叩き切ったぁー! さすがは騎士の卵だぁー!』
「ふん、幻術で身を隠し背後に回ったつもりなのだろうが、その程度の攻撃など全て叩き切ればいいだけの話だ。そして本体は……そこだ!」『飛突』
「ぐっ……さすがだねぇ……」
でもそこまでさ……
「足元を見てみなよ……」
「何っ? なっ、これは!?」
『おおーっと! マニヤーニ選手! 足首から下が氷に覆われているぅー! これは一体いつの間に!?』
『水球を切った後だ。大抵切られた水は地面に落ち、ただの水溜りとなる。ベクトリーキナー選手はそれを凍らせてマニヤーニ選手の足を封じたのだ。高いブーツを履いてるせいで温度変化に気付けなかったのか?』
「くっ、この程度の氷など!」
「上を見てみな?」
「上だと? なっ、バカなぁ!」
「潰れて死ね……」
『ぬあぁぁぁーー! なんという巨大な氷! 一体いつの間に!? あんなものが武舞台に落ちたら! 大惨事ですよ! ぶっ壊してくださいよアイシャブレ様! もしくはゼマティス卿が止めてください!』
『黙ってみておくといい。私にはあれを壊せないからな。』
『止める気なんぞないわい。続行じゃ。』
「くそっ!」『飛斬』『飛斬』『飛斬』『飛突』『飛突』
「無駄無駄ぁ! 果物ナイフで氷山を壊せるかぁ! 終わりだよ!」
「く、くっそぉおーー!」
『爆音』
耳元で音の球を破裂させる……すると奴は、気を失った……私の勝ちだ……
どうですか兄上!
『決ちゃーく! ベクトリーキナー選手の勝利です! でも何がどうなってるんですかぁー!? 氷山はどこに!? 解説してくださいよ! 会場のほとんどの方が理解できてないんじゃないですか!?』
『私は途中で気付いた程度だ。ここはやはりゼマティス卿にお願いするべきだろう。』
『よかろう。結論から言うと幻術じゃ。ベクトリーキナー選手が幻術の名手であることは皆も知っての通りじゃ。ならば、一体いつ幻術を使ったのか? それは最初に飛突をくらった時じゃ。確かに肩にくらいはしたが、大した出血はしておらん。それを派手に出血しているように見せたのが第一手。これで相手に勝ちを意識させ油断を誘ったのじゃ。その間に次の幻術を使いマニヤーニ選手の攻撃がことごとく命中していると見せつつ、後方に移動した。そこからの一撃で決まればよかったのじゃが、マニヤーニ選手もさるものよ。真後ろからの水球を見事に切り落としてみせた。そこで次は足元に軽い幻術を見せたのぉ。あたかも足が凍っているかのようにの。まぁ動けばバレるがの。
だからこそ、すかさず本命の空に浮かんだ巨大な氷塊を見るように仕向けたのじゃろうて。あのようなものが落ちてきたらうちの孫以外はひとたまりもないからの。マニヤーニ選手はさぞかし恐ろしかったことじゃろう。そうやってあがく彼の耳元で大きな音を立てるだけで勝負を決めてしまいおった。まことにあっぱれな選手であるのぅ。さあ、会場の皆よ! 今一度ベクトリーキナー選手に拍手を送るとしようぞ!』
このクソジジイが……全部お見通しってわけか……伊達に王家の魔法指南役じゃないな……
ゼマティス家か……いつか絶対超えてやるからな……
優勝まで……あと二回勝てば……