カッサンドラの想い
「そんでカーサさぁ? 自信あんの?」
「何の話……?」
口に食べ物を入れたまま喋るなよ……
「王国一武闘会に決まってんじゃん。あんたって魔力は高いし希少な幻術だって使えるし、勝算あるんでしょ?」
「そりゃあね……出るからには勝たないとさ……」
自信なんかあるわけない。国中から強者が集まってくる上に……王都内だけでも魔法学校や騎士学校の上位陣は厄介だ。勉学がメインの中等学校と違って腕一本でのし上がろうとしている奴らがひしめいてるんだから……
それに剣術道場の無尽流……あそこの高弟には幻術が効かない。まあ今回は関係ないけど。子供の大会に高弟が出られてたまるかよ……
それから侮れないのが冒険者の連中だ。あいつら頭の中は空っぽのくせに生き汚いからな。戦いとなると油断できないんだよな……ったく、どいつもこいつも……
「でもさー、あの女が歳上でよかったよねー!」
「あの女?」
「虐殺エリザベスよ。あいつって私らより四つも上じゃん。だから今回の大会に出てこれないじゃん?」
「ああ……」
虐殺エリザベス……実の兄に懸想して、兄に近づく女には片っ端から決闘吹っかけて皆殺しにする……完全に狂ってる王都一の嫌われ者だ。でも、そんな女が卒業したのが他領の魔法学校……
今は国に一つしかない魔法学院に在籍しているだけあって、やはり腕は確かなのだろう。少し、手合わせをしてみたい気持ちはある。私の幻術がどこまで通用するのか……
「私はあんたに賭けるからね。期待してるわよ!」
「ばかね……」
ただでさえ少ない小遣いがなくなっても知らないよ?
放課後、やっと家に帰れる……はぁ……
「カーサぁ! カフェ・コフィーヌに寄ってこーよ!」
「え、やだ……」
「えー? いーじゃんいーじゃん! 私が奢るからぁ!」
「悪いね……今日はだめ……」
「もー! 貴族学校の男の子だって来るんだよぉ! たまには行こーよぉ!」
「ますます嫌だよ……あんな顔だけの盆暗どもとお茶だなんて……」
「あんたも言うねぇ……もー! たまにはカーサだって遊べばいいのに。」
魔法学校や騎士学校の首席クラスが来るってんなら喜んで行くのに。帰ろ……だって今日は……
「兄上! おかえりなさい!」
大好きな兄上が帰ってくる日だから。私が誰より先に出迎えるんだ……
「ただいまカーサ。いい子にしてたかい?」
「もー! 兄上ったら! 私もう四年生ですよ! 来年には十五歳、成人なんですから!」
兄上はいつも私を子供扱いするんだから。そりゃあ胸なんかは小さいけどさ……
「ほら、お土産だよ。」
「わぁ! 兄上ありがとうございます! それよりも今回もお話を聞かせてください!」
兄上は宮廷魔導士、つまり選ばれしエリートだ。顔だってそこらの舞台役者なんか相手にならないほどカッコいい。王都一どころか王国一の兄上だ! 今回の出張は海を隔てた南の大陸。そんな危険な仕事を任されるなんてやっぱり兄上はエリート中のエリートに違いない。南の大陸ってどんな所なんだろう。
「……と、いうわけでこのお土産の最高級ケイダスコットンを手に入れたってわけさ。これで普段着でも仕立てるといい。カーサの紫の髪は白い服に映えるだろうな。」
もう、兄上ったら……これがあのケイダスコットンか……眩しいほどに滑らかな白い布。私の陰気な顔には……眩しすぎる……
でも、せっかく兄上が私のために……
なりたい……ケイダスコットンが似合うような女に……
勝てばいい……
勝ちさえすれば……誰も私を……
そしてついに大会当日。兄上が見ててくれる。私は負けない……絶対に……