1章 3話 心からの叫び
「僕をここから連れ出して!」
ヒイロの心からの叫びに、クミンは一瞬怯んでしまう。
「えっ、どういうこと? 一人では、出られないの?」
ヒイロは大きく首を横に振った。
「勿論、出口はあるよ。だけど、その前には、この場所を守護する番人がいてね、どうしてもここから僕を出してくれないんだ。最初は色んな手を使って、抵抗した。けれど勝てなかった。だから、ライブラの本をいっぱい呼んで、魔法を覚えて、戦った。それでも勝てなかった。」
番人!そんな奴がここにいるのか。でも、確かここには世界のあらゆる記録が保管されているはず。だったら、番人の倒し方や弱点が書かれている本がどこかにあるはず。
だけど、ここの本を読み漁ったってことは、どこにもそのようなことが書かれていなかったのね。
ヒイロは続けて自分のことについて語った。
「僕はね生まれてからずっと、ここにいてね、独りぼっちだった。朝起きて、食事をとって、本を読む。この生活をここで一生続けるのかと思っていた。」
「でもね、クミン、君が今ここに来てくれた。」
「君は僕の知らないことをいっぱい教えてくれた。それだけで嬉しかった。」
クミンは固く口を閉じた。私もヒイロとたくさん話しが出来てとても嬉しかったのだ。
もっと、彼と色んなことを話したい。
でも、本当に彼をここから連れ出してい良いのか?
もし、彼をここから連れ出すことで、迷宮内の魔物がさらに暴れ出してしまうのではないか…。
彼女は心の中で葛藤をつづける。
そんな中、床に落ちていた一冊の本が目に入る。先程、ヒイロに話していた花畑の風景が描かれた本だ。
クミンは自分の生い立ちを振り返る。
クミンは複雑な家庭で育った。母は病気で寝込み、唯一面倒を見てくれていた父は現在行方不明。そして、5つ年上の兄の立ち振る舞いのせいで、親戚からは冷たい目を向けられていた。さらに幼少時代は家庭の事情でほぼ毎日魔法の修行に励んでいたため、同年代の友達と仲睦まじく話す機会などまったくなかった。
そんな彼女の心を癒してくれたのは緑豊かな自然の風景であった。お花畑で花を摘んだり、小鳥や森の動物とじゃれあったり、自然とふれあうだけで嫌なことすべて忘れることが出来た。
ヒイロはずっとここで、何も触れることが出来ず、ひとりで本の写真をながめている。
彼にも私と同じように、自分の手足で、肌で、本物に触れてほしい。
ヒイロは顔をぐしゃぐしゃにしながら続けてこう語る。
「クミンが話を持ち掛けてくれたとき、最初、この話はなかったことにしようと思っていた。でも、クミンが外の世界のことについて話してくれて、もっと、外の世界のことを知りたくなった。自分の目で、肌で外の世界を感じたいと思った。だから、だから…」
だから、だから・・・
クミンは大きく息を吸った。
そして…
「私がここから連れ出してあげる!」
ヒイロは顔を上げ、目を大きく見開く。
「私があなたをここから連れ出して、私が知る世界全部みせてやるよ!」
クミンは彼の肩をポンッと易しく叩き、精いっぱいの笑みでヒイロに語り掛けた。
「だからね、私と一緒に番人を倒して、ここから出よう。」
クミンはヒイロに手を差し伸ばす。
ヒイロはその手を取り、立ち上がった。
「ああ、一緒にいこう。」
そうして、少年と少女は一歩前へと歩き始めた。
ヒイロとクミン、互いの心の叫びをぶつけ合いながら、二人は最初の一歩を踏み出す。
次から戦闘描写が入ります。
未熟な二人の戦闘シーンをお楽しみに。




