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3章 18話 ブレイクタイム

第8迷宮 ダンスビーチ ヒーローエリア。


クミン達がホラーエリアで鍵を入手した頃、ヒイロ達はエリア内を時速200キロメートルで暴れ回る鉄の塊に苦戦を強いられていた。


フェンはハーディーを匿いながら椅子の下でトラップ魔法を駆使し、鎖や鉄槍で攻撃を仕掛けるが、鉄の塊はそのすべてを勢いで跳ね退けてしまう。


「効果なしか…。」

「フェン、胸毛が暑苦しい。離して。」

「そんなこと言っている場合じゃねぇ。おとなしく、じっとしていろ。」


ハーディーが胸元をポカポカと叩いて抵抗するが、フェンは無理やり押さえつけ、息を殺すようにして敵の出方を伺う。


一方、向かい側の椅子の下に隠れていたヒイロは膠着した状況に嫌気が差し、無策で飛び出そうとしていた。そんな彼を隣で息を潜めていたテトが力ずくで引き留める。


「今飛び出すのは、単なる自殺行為です。」

「でも、このままじゃいずれ…。」

「分かってます。ですが、ここはカミレ様がこの場に到着するまで待機した方が…。」

「いつ来るか分からない救援をここで待てっていうの。それに、もし、クミン達の身に何かあったら…。やっぱり、このままじっとしているわけにもいかないよ。」


ヒイロの必死さに圧を感じ、心負けしたテトは深くため息をつき、武器を手に取る。


「ごちゃごちゃと御託を並べやがって…。まったく、仕方がない方ですね。分かりました。私が敵を引き付けますので、その隙にヒイロさんはリーダーと合流してください。」

「分かった。」


2人はタイミングを見計らい、同時に椅子の下から飛び出した。


「風神よ、我の身に纏え、テンペスト!」


テトの全身に一陣の風が纏い、鉄の塊目掛けてその場を駆け抜ける。


「エア・スラスター」


続けて、鉄の塊に風の斬撃を放ち、敵の注意を自身に引き付ける。


「さあ、追いかけっこの時間ですよ。“自称正義の味方”の糞野郎。」


テトは風を纏いながらさらに加速し、鉄の塊は彼の後を追う。


「あの馬鹿共、勝手に飛び出しあがって。仕方ねえな。ハーディー、ヒイロと合流するぞ。」

「分かったから、早く離れて。」


2人の動向を確認したフェンはハーディーを引き連れ、椅子の影に隠れながら移動し、ヒイロと合流した。ヒイロからテトの行動の意図を聞いたフェンはその場で策を組み上げ、テトに指示を出す。


「テト、俺がトラップで援護する。お前はそのまま敵を引き付けろ。」

「了解、リーダー。」


フェンは足元から生やした鎖で器用に輪っかをつくり、それを複数空中に設置した。テトはフェンが取った行動の意味を察し、加速したまま複数の輪っかでできたトンネルの中央をくぐる。


鉄の塊も彼の後に続いてトンネルの中央をくぐる。


「今だ、チェイン・ロック」


テトがトンネルを潜り抜けた瞬間を見計らい、即座に輪っかを縮め、胴体をぎっちりと締め上げた。鉄の塊は鎖に縛られたまま、その場でじたばたと暴れ出す。


「やったのか…。」


ヒイロは敵の動きが止まったことを確認し、そう口にする。


「ちょっとヒイロくん。それフラグ!」


フェンが敏感に反応し、ヒイロにツッコミを入れる。

直後、フェンの予想通り、鉄の塊は鎖ごと地面をえぐり、再度加速しながら暴れ始めた。


早く椅子の下に隠れないと、鉄の塊に“狙われて”、ひき殺されてしまう。

狙われる?そういえば、奴を拘束する際に、テトが奴の注意を引き付けて罠へと誘導していた。ということは…。まずい。


「テト、危ない!」


ヒイロはすぐさまテトがいる方に顔を向け、その場から逃げるように叫んだ。しかし、ヒイロがテトに声を掛けるよりも早くに、鉄の塊は速度を上げ、彼目掛けて一直線に突進し、勢いよく撥ね飛ばした。


「テトーーーーーーー!」


ヒイロはテトの名前を叫びながら、手を伸ばし、テトの元へと走り出す。だが、鉄の塊は狙いをテトから近くにいるヒイロへと変え、ヒイロの背後へと接近しかけていた。その事に気が付いたフェンはヒイロの身体を椅子がある場所へと蹴り飛ばして強引に避難させ、鉄の塊に即席で作った鉄の槍を投げ、攻撃を仕掛ける。


「さあ、今度は俺の番だ。Sランク冒険者No.1の瞬足、とくと味わえ。」


フェンは周囲にワイヤーや鎖を張ると同時に、足元に魔力を集中させた。


「さあ、ショウタイムの始まりだ。」


鉄の塊がフェンの顔面に衝突する寸前、フェンの姿が突如消え、勢いよく頭部を壁にぶつけてしまう。


「こっちだよ!」


鉄の塊は瓦礫を振り払い、声がする方に頭部を向ける。すると、そこには宙に張られた鎖に腰かけるフェンの姿があった。


鉄の塊は再度加速し、フェン目掛けて突進を仕掛ける。

しかし、またもや、衝突寸前に姿を消し、回避されてしまう。


「こっちだよ!」


しばらくの間、同じような事が幾度も続く。


フェンが敵の注意を引き付けている間に、ヒイロはすぐさま立ち上がり、テトの元へと向かう。壁に勢いよく衝突したテトの下腹部から血が大量に流れ出しており、背骨が不自然な方向に曲がっている。どこからどう見ても、重症だ。急いで処置しないと。


マジックバックから応急処置セットを取り出し、冒険者ギルドからもらった医療マニュアルに沿って、応急処置を行う。


「ヒイロ…さん。ありがとう…ござい…ます。私なら…だいじょう…ぶ…です…よ。それより、早く…リーダーの、元へ…」


「喋らないで。」


血が、血が止まらない。こんなにも止血剤を塗っているのに。


「ああ、最後に、一度でもいいから、ミント様と…お茶…した…かった…な。」


次第に目から光が失っていき、肩の力が抜け始める。


「しっかり、意識をしっかり持って、テト。」


「ああ、ミント様…。」


もう、駄目だ。助からない。

手当をしていた手が突然止まる。


「しっかりしなさい、テト・バステア!」


再び、テトの目が光を取り戻す。

ヒイロはすぐさま後ろを振り向いた。


そこには、ホラーエリアから急いで駆け付けて来たミントとクミンが息を切らしながら立っていた。


「クミン…。無事だったんだね。」


ヒイロは目からポロポロと涙を流す。そんな彼の肩をクミンはポンッと優しく叩いた。


「もう大丈夫よ、後は私とミント様に任せて。」


クミンは地面に転がった応急処置セットを手に取り、処置を始める。

その傍らで、ミントは【植物魔法 アースヒール】を唱え、地面から複数の植物を生やし、テトに植物たちの生命力を分け与えた。


「あくまでも応急処置よ。しばらく安静にしたままにして、迷宮を脱出したら急いで医者に見せないと…。」

「あり…がとう…ござい…ます、ミント様。」

「今はゆっくりお休みなさい。」

「はい。」


そう返事をし、テトはしばらく深い眠りについた。


ヒイロはテトが一命を取り留めたことに安堵し、腰を抜かし、その場に倒れ込む。

よかった。本当に良かった。テトが助かって。後は…。

ヒイロはすぐさま起き上がり、武器を手に取ろうとする。


「大丈夫よ、ヒイロくん。あっちには彼女が向かっているから。」

「彼女って?」


一方、鉄の塊の注意を引き付けていたフェンは罠を駆使しながら、逃げ回っていた。鉄の塊は、周囲に張られたワイヤーや鎖を巻き込みながらフェンに向かって突進する。


「不味いな、このままじゃ持たねえぞ。」


フェンは冷や汗をかきながらそう呟く。


フェンが回避に使っている技の名前は【チェイン・ルーム】。

周囲にはった鎖には簡易的な転移魔法が組み込まれており、仕掛けた鎖の上に自由に瞬間移動できるようになっている。また、敵に追いつかれないように、鎖と同時にワイヤーを張り、闇雲に突撃してくる奴を引っ掛けたりして、敵の動きを封じる。まさにフェンの独壇場である。


しかし、力技で鎖やワイヤーを破壊する相手には無意味だ。転移場所である鎖が次々と破壊され、フェンはじわじわと追い詰められていく。


「このままじゃ、やられてしまう。早く来てくれ、カミレちゃん。もう貧乳だとかちっぱいだとか言わないからさ…。」


フェンは涙目になりながら、鉄の塊から逃げ回りつつ、懇願し続ける。


「まったく、仕方ない雄どもだ。」


天井に空いた穴から一人の女性が舞い降りる。


「待ち焦がれてたぜ、カミレちゃん!」


カミレは落下しながら手を下に開き、詠唱を始める。


「戦乙女に愛されし者よ、あらゆる邪悪を払い、ワダツミの盾のならん。艦名を告げよ。名をイージス。戦艦イージス。発進!」


カミレの手の先に巨大な盾と無数の鉄の塔を装備した体長15メートル程の巨大戦艦が出現し、高速移動する鉄の塊を上から押さえつける。カミレは船の上に華麗に着地し、二度と動かないように長銃で駆動部分を打ち抜き、破壊した。


カミレは船から飛び降り、フェンに迫る勢いで彼の元へと駆け寄った。


「それで、駄犬。誰が貧乳でちっぱいで、胸が小さいまな板女だと…。」

「そこまで言っていない。」

「まあ、いい。ここから出たら戦艦ひき逃げアタック100連発の刑だ。覚悟しておけ。」

「はいはい。冗談はそこまでにしておこうぜ。とにかく、助かった。礼を言う。」

「指揮官として当然の事をしたまでだ。あと、冗談じゃないぞ。マジで殺す。」


カミレが鬼の形相でにらみつける一方で、フェンはヘラヘラと笑ったまま軽くあしらう。


「さてと、ヒーローショーとやらは、もう終わりかい?」


フェンは顔を上げ、何処かでこの状況を見ているミニジェとミニレに話しかける。だが、ミニジェとミニレは沈黙を貫く。


「さっきまで威勢のいいこと言ってた癖に、自分たちが負けた途端に黙りこくるなんて、本当にガキだな。」


鼻で笑いつつ、フェンは鉄の塊の頭部に突き刺さった赤色の鍵を抜き取る。


----------------------------------------

「出たな、〇×怪人」

「くらえ、ヒーロー・キック」

「ヒーロー・パーンチ」


一人の少年に対し複数の男の子が決め台詞を吐きながらお腹や顔面に蹴りを入れる。


『モウアクヤクハアキタヨ。ボクモヒーローヤクヲヤリタイヨ』


「正義は悪には屈しない!悪の言う事なんて聞くもんか。」

「「そうだそうだ!」」


男の子達はそう言い、続けて少年に正義の鉄槌を食らわせる。


その様子を周囲の大人たちは見て見ぬふりをしながら少年たちの前を通り過ぎていく。


やがて、空は茜色に染まり、男の子たちは「いち抜けた」と口にしながら次々とその場を去る。


少年は傷だらけのまま、体を引きずり、家へと帰っていく。

家に帰ると、大きなどてっぱらを抱えた巨体の男性が酒瓶を片手に少年を殴りつけ、仕事のストレス等、日頃の鬱憤を晴らす。


少年の母親はというと既にこの家を出て、他の男と一緒に夜の街へと消えたという。


『正義ノヒーローハ強キヲクジキ弱キヲ助ケルンジャナイノ』

『ネエ、ドウシテ。』

『ドウシテ、ダレモボクヲタスケテクレナイノ。』


----------------------------------------


「さてと、ふざけた茶番はこれで終了だ。夢先案内人さん、首根っこ洗って待ってろよ。」


フェンはそうぼやき、抜いた鍵をポケットの中へと突っ込んだ。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


ヒーローエリアでの戦闘を終えた冒険者一行は椅子が設置されている場所に集められた。Sランク冒険者の3人は点呼を取りつつ、状況確認を行う。


ホラーエリア組の生存者は8名。他はホラーハウスに捕らわれたまま帰ってきていない。

一方、ヒーローエリア組の生存者は13名、内4名が負傷、1名重症だ。


「今動けるのは合わせて16名か…。その上、連戦で体力・魔力・精神力、とにかくすべてがもう限界だ。」

「負傷者の治療含めて、どこかで休憩を取る必要があるわね。」

「そうだな、とはいえ、エントランスに設けた拠点に戻るわけにもいかない。また奴らが待ち構えているかもしれない。」


カミレはその場でパンフレットを広げ、何処か休憩に適した場所がないか隈なく探し出す。だが、それらしい場所は何処にも見当たらない。


「戻るしかないか…。」

「そうね…。」

カミレは諦め、パンフレットを閉じようとした時、フェンがある良案を口にする。


「だったら、キャッスルエリア前の広場で休憩するのはどうだ?」


「「それだ!」」


迷宮で最も安全な場所は何処か。それは意外にも迷宮の主が待ち構える最深部の手前に設置されているセーフティーエリアである。迷宮の主が居座る場所へとつながる扉の前には、魔物を絶対に立ち入らせない結界が展開されており、これのせいで迷宮の主は外へ出ることが出来ない。したがって、迷宮内で最も安全な場所だと言える。


目的地を定めた三人は、生き残った冒険者達を引き連れ、キャッスルエリアへと向かった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


キャッスルエリア入口前広場。

円状に広がった広場の奥手には、高さ3メートルほどの城壁とその中央に錠前が7つと固く施錠された城門が立ちはだかっている。そしてその城門を超えた先には王都のアラクティカ城を連想させるような白く美しいお城が高くそびえたっていた。


セーフティーエリアにつくと、一部の冒険者達は、安心した表情のまま、その場に倒れ込む。彼らは迷宮に入ってから、いつどこから敵が攻撃を仕掛けてくるか分からない恐怖に苛まれ、緊張状態を維持し続けていた。一時的とはいえ、その緊張から解放された彼らは悪夢のことを気にもせずに深い眠りについたのだ。


カミレは呆れた表情をし、ミントに精神状態を安定化させる曲を流すように指示する。ミントはその指示を承諾するものの、引き換えに没収されたお菓子を要求した。カミレは再び呆れた表情をし、マジックバックから没収したお菓子を取り出してミントに手渡す。


「僕もそれ食べたい!」


その取引を見ていたハーディーがミントの元へ駆け寄り、お菓子を分けるように懇願する。


「分かったわ。ついでにお茶を用意するから、それまで例の曲、頼んだわよ。」

「うん、分かった!」


ハーディーが安らかなメロディーを奏でる傍らで、ミントはティータイムの準備を始める。マジックバックから茶葉が入った瓶とティーセットを取り出し、クミンからもらった空のフラスコに水を入れ、ヒイロの炎魔法でお湯を沸かす。フラスコ内でお湯がグツグツと煮え始めるのを見計らい、茶漉しにミント特性茶葉を入れ、ポットにお湯を注ぐ。


すると、あたり一帯に茶葉の甘くて爽やかな香りが広がった。


「さあ、お茶が入ったわよ。」


ミントは、ティーカップにお茶を注ぎ、起きている冒険者に配る。


「いただきましょう。」


冒険者達はしばらくブレイクタイムを楽しむ。

ヒイロとハーディーはお菓子を口いっぱいにいれ、クミンは二人の顔をみて笑う。

その様子をナタリーは暖かな表情で見守っていた。


「ナタリーちゃん、早く飲まないと冷めちゃうわよ。」

「あっ、ごめんなさい。いただきます。」


ナタリーはティーカップを手に取り、ミントが入れた紅茶を口にする。


「温かい…ですね。そして、相変わらず、美味しいです。」


ナタリーは朗らかな笑顔をミントに見せる。


「この迷宮攻略が終わったら、また4人でお茶会をしましょう。」

「はい。」


この一時間後、冒険者一行はキャッスルエリアへと突入する。



次回、ボス戦。


テトちゃん。また、お茶会はぶられて不憫。

彼はいつになったらミントとお茶する機会に巡り合えるのか…。


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