2章 15話 帰還
捜索から戻ってきたミントは、早速現場の指揮を取る。
「上級冒険者は壁の破壊と怪我人の手当を、襲撃者の相手は私一人で担当します。」
「「了解!」」
ミントは樹鎧の怪物を警戒しつつ、ナタリー達の元へ歩み寄る。
「ナタリーちゃん、よく頑張ったわね。」
「ミント様、私は3人も犠牲に…」
「違うわ、あなたは生き残っている皆の命を守ったのよ。」
ミントはナタリーを精いっぱい抱きしめる。
「十分に誇りなさい!」
「はいっ!」
ナタリーは涙を流し、そのまま、彼女の胸の中で眠りについた。
「ヒイロちゃんもクミンちゃんもハーディーちゃんも、皆よく頑張ってくれたわ!」
ミントはナタリーの体を支えながら、一人ずつ頭を撫でる。
「クソッ、クソッ」
樹鎧の怪物が急に暴れ出し、体に絡みつく木の根を手に持った黄金の槍を使って解こうとする。
「そろそろ、行かないとね。ナタリーちゃんのこと、頼める?」
3人は頷く。
「それじゃあ、頼んだわよ。」
ミントは立ち上がり、怪物の元へ向かった。
「さてと、散々、私たちの可愛いい部下たちをいじめてくれたわね。」
ミントは槍によって切断された根を再生させ、さらに締め上げる。
普段、温厚でおしとやかな表情をする彼女でも、迷宮内で殺された冒険者を含め、多くの仲間を殺されたことへの怒りが抑えきれず、鬼の形相を敵に見せつける。
「目的は何?」
ミントは右手を構え、尋問を始めた。
だが、怪物は一向に話す気配がなく、沈黙し続ける。
「そう、なら、あなたを操っているご本人に聞くしかないわね?」
「ッツ」
樹鎧の怪物は首をピクッと少し動かす。
「図星ね。分かっているのよ。あなたの中身が空っぽで、何らかの魔法で動かしているってことをね!」
「クソッ、コノババア」
樹鎧の怪物が持っていた黄金の槍がひとりでに動き出し、ミントの腹部を貫こうとする。
だが、彼女の足元から突如、一本の太い木が生え、槍を受け止める。
「あら、誰がババアって?」
周囲の木々が揺れ、大地が震えだす。
「あっこれ、ミント様ガチギレしてますね…。」
「あの怪物、喋れるんだよな。恐らく禁句、言っちゃたんだろうな。」
ミント直属の部下である上級冒険者は体を振るえ上がらせ、恐怖する。
「禁句って?」
ヒイロは彼らの会話を耳にし、質問する。
「お前、肝が据わってるな。いいか、あの人に対して、“おばさん”とか中年以上の女性を連想するような言葉を口にするなよ。前に、ミント様の年を数え間違えた時にはな…ああ、思い出すだけで恐ろしい。」
取り敢えず、言葉には気を付けよう。
ヒイロは彼の話を聞いて、そう思った。
「ミントさんってそんなに怖…強いの?」
「ああ、強いってレベルじゃねえ。」
ミント・ショコラティエ
冒険者ギルド最強の8人、Sランク冒険者の一人。
彼らにはそれぞれ一つ、ギルドマスターから称号を与えられている。
例えば、Sランク冒険者の一人、フェン・ウルフェンズは【万能手】という称号が与えられている。この称号はそれぞれの戦闘スタイルに合わせてつけられている。
ミント・ショコラティエの称号は【妖精王女】
ミントらエルフは昔から空想上の生き物、妖精の末裔だと言われており、妖精とヒューマンが交わることによって生まれたのではないかという説が唱えられている。
しかし、彼女に【妖精王女】の称号が与えられている理由はそれだけではない。
妖精には、大地を操る力があるとされており、大地によってもたらされた恵、木々や草花などの植物を操って、住処である森に悪さをする連中を追い出していたという。
ミントはその妖精を超えるほどの力を持つと言われている。故に妖精の王女様【妖精王女】と呼ばれている。
地面から巨大な植物のツタが生え、赤く、大きな花を咲かせる。
「誰がババアって。」
花弁の先に魔力が集まり始める。
「私は、ピチピチの20代よ!」
花弁に集められていた魔力の塊が光線として発射される。
光線は、樹鎧の怪物に直撃し、表面をこんがりと焼き上げていく。
「ヲマエラノ、ヤッテイルコトハ、マチガッテイル」
「その言葉、そのままそっくりお返しするわ。」
「コウカイ…スルトイイ…ボウケンシャドモ」
立ち込める煙の中で、怪物はそう言葉を発した。
そして、灰と化し土へとかえっていった。
「さてと、本人を叩くとしようかな?」
ミントは右手を前に出す。
「奏弓:ハーレクイン」
彼女の右手にハープと弓を合体させたような武器が装備される。
ミントは、弓の弦を弾き、綺麗な音色を奏でる。
直後、奥手にある木々が揺れ、枝が折れる。
「逃げたわね。」
ミントは周囲を見渡す。
樹鎧の怪物が手に持っていた黄金の槍がその場から消えていた。
恐らくだが、あの槍を媒体として、操作していたのだろう。
ミントは敵が撤退したことを確認し、一息つく。
『ヲマエラノ、ヤッテイルコトハ、マチガッテイル』
「私たちは、一刻も早く魔物の侵攻を食い止め、平和な日常を取り戻そうとしているのに、それの何が間違いなの…。」
ミントは怪物が残した言葉に疑問を持ったまま、武器を収め、ヒイロ達の元へと向かう。
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一方、ヒイロ達は上級冒険者の手を仮、あたり一帯を包囲する樹木の壁の破壊を試みる。
だが、この壁は物理耐性が高く、魔法攻撃を反射させる。それに付け加え、再生力も高く攻撃した箇所から瞬時に修復していく。
「成程ね、だったら。」
ミント直属の上級冒険者の一人がマジックバックから液体の入った瓶を取り出す。
「それは?」
「ああ、これは腐食液だ。外部からの攻撃を受け付けないなら内から崩壊させればいい。」
刃物で壁に傷をつけ、傷口に腐食液をかけていく。
腐食液をかけた場所は内部組織が腐り、崩壊するため、耐久度も落ち、薄板並みの強度となっている。
その部分に冒険者が一斉に攻撃し、壁に大きな穴が開く。
一同は、その穴を潜り、樹木の壁で囲まれた戦場から脱出した。
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夕刻
状況確認を終えたミントは、冒険者全員をキャンプ場の中央へ集合させる。
中央では上級冒険者が収集した遺体を袋に詰め、横に並べる。
ミントは冒険者一同を遺体の前に整列させた。
冒険者一同は亡くなった者たちの前で黙祷を捧げる。
その後、ミントの自然魔法により、彼らの遺体は埋葬された。
結局、謎の怪物による襲撃により、新人冒険者研修は中止となった。
黙祷を終えた冒険者一同は帰りの支度に取り掛かる。
ヒイロとクミンも、荷物をマジックバックへ詰めていた。
「あっ、いたいた!」
ミントとナタリーは支度をする二人を見つけ、こちらに来るよう呼んでいる。
ヒイロとクミンは一旦、作業を中断させ、二人の元へ向かった。
「ナタリーさん、体の具合は、大丈夫ですか。」
「はい、なんとか。もう少し休養が必要ですが、こんな状況で一人休んでいるわけにはいかないので。」
「無理しなくていいのよ、ナタリーちゃん。少しは自分を大切になさい。」
「私がいないと、すぐお茶とかお菓子とかでサボるでしょ。」
ミントは頬を膨らませ、ムスッとする。
「少しくらいいいでしょ。ケチ。」
「駄目です!ミント様の“少し”は全然少しじゃないんですから。」
ミントとナタリーは互いに睨み合っている
「えっと、私たちを呼び出したのは?」
クミンは口論が始まる前に、話を本題へと切り変えさせた。
「そうだった、2人に頼み事があるの。」
頼み事?
ヒイロとクミンは互いに顔を見合わせ、首を傾げる。
取り敢えず二人はミント達の話を聞いてみることにした。
話とは、ハーディーのことについてだ。
ミントとナタリーは今後、今回の事件の事後処理に追われるため、しばらくの間、彼の面倒を見ることが難しくなるらしい。
ヒイロとクミンにえらく懐いていることから、代わりにハーディーの面倒を見てほしいと二人は頭をさげてお願いした。
「ハーディーとは一緒にお兄さんを探すって約束しちゃったしね…」
「ぼくはハーディーともっと一緒にいたいと思ってたから別に構わないよ!」
二人はミント達の頼みを受け入れ、ハーディーを引き取ることとなった。
ナタリーは、ハーディーをヒイロ達の元へ連れてきた。
「よろしくね、おにいちゃん!おねえちゃん!」
そういえば、自己紹介をしてなかった。
クミンはハーディーに自分たちの名前を教えた。
「お姉ちゃんの名前はクミン。そして隣にいるふわふわ系男子がヒイロ」
「どうも~!ふわふわ系男子で~す。」
二人は適当に自己紹介する。
「よろしくね、ヒイロ!クミン!」
ハーディーは笑顔で挨拶をする。
ミントは話を戻した。
「あ、あと私の権限で、ハーディーちゃんをギルドに登録させておいたから!」
「いいんですか?そんなこと勝手になさって…」
「いいのよ!あとでギルマスに頼んでおくから!」
ナタリーはあきれた顔をする。
「さてと、この話はおしまい!早く支度をしてキャンプ場中央に集合しなさい。」
そう言い、ミントは去っていき、ナタリーはその場に残った。
「お二人とも、三日間ありがとうございました。」
「「こちらこそ、ありがとうございました。」」
互いに頭を下げる。
そして、ナタリーはクミンの耳元に顔を近づき小声でささやいた。
「ビンタ、ききましたよ!」
「ナタリーさんが折れそうになったら、私がいつでもひっぱたきにいきますから。」
「ナタリー…でいいですよ。」
「それだったら私のこともクミンって呼んでください!」
「えっと…クミ…ン?また、会いましょう。」
「元気でね!ナタリー」
二人は互いに顔を見合わせ、笑う。そんな彼女らをヒイロは不思議そうにみつめる。
「どうしたの?ふたりでこそこそと?」
「「内緒!」です。」
そう言い、ナタリーはミントの後を追っていった。
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辺りが暗くなり始める頃。
冒険者一同は、キャンプ中央に集合していた。
ミントが前に出て、彼らを整列させる。
全員集まった事を確認した彼女は、話を始めた。
「今この時をもって、新人冒険者研修を修了とします。今回の研修では思わぬアクシデントもあり、多くの犠牲者を出しました。今回の出来事で、新人冒険者の皆さんも理解したでしょう。いくら危険性が少ない区画で探索を行っていたといえ、迷宮内では、いつ何が起こるか分かりません。そんな状況下でも臨機応変に立ち回れるよう、任務に励んでください。今後の皆さんの成長と活躍を期待しています。みなさん、お疲れさまでした。」
冒険者一同は彼女に拍手を送る。
拍手が鳴りやむのを待ち、ミントは話を続けた。
「では、今から皆さんをフォールリーフの町へ転送します。転送後、各自解散してください。」
地面から、魔方陣が出現し、赤い光を放つ。
ヒイロは転送後にはぐれないようにクミンとハーディーの手を掴み、目をつぶった。
「では、転送します!」
魔方陣がさら強い光を放つ。
冒険者一同は一斉にフォールリーフの町へと転送させられた。
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三人は再び目をあけた。
目の前には、二人が部屋を借りている宿がある。
どうやら、フォールリーフの町に帰ってきたようだ。
ハーディーは、周囲を見渡す。
「ヒイロ、クミン?ここはどこ」
ハーディーは見たことない景色を目の前にして混乱している様子だ。
そんな彼に、クミンとヒイロが話しかける。
「ここはね、私たちが暮らしている町よ。そして、ここが今日からあなたが暮らす場所よ。」
「そして、ここの飯はすごく美味しんだぞ!」
「え!本当!早く食べてみたい!」
どうやら食いしん坊さんがもう一人増えたみたいだ。
クミンはあきれた顔をしながら、宿のドアを開けた。
「さて、中に入ろ。」
三人は中へ入っていった。
店内では、店主のおじ…お姉さんがエプロン姿で元気よく出迎えてくれた。
「おかえりなさい!二人とも、お腹空いたでしょ!夕食の準備できてるわよ…ってあらまあ、かわいい坊やね!」
店主は彼に名前を訊ねる。
「ぼく?僕の名前は…ハーディー。ハーディー・ガーディー」
2章 完結。
次回から第3章 ダンスビーチ攻略戦 始動!




