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レイナの動画

 ジョブというものがある。これは言わば矯正ギブスのようなもので魔力の流れや扱い方、スキルの外側での動きを補助するものだ。とはいってもゲームのように能力値補正はないので恩恵は低い……ように見えて意外と高い。



 この動きの補助というところがミソで例えば前衛ならば自然と相手を見続けダメージを食らってもとっさに立て直そうとするなど反射の部分にまで覆いかぶさってくる。どんだけ便利なんだよこのシステム、と思うと同時に脳の中を弄られているのではないかという恐怖すら生まれるが。



 大体は10前後のSPを使って習得するため低レベルの俺には関係なかったものであり、そして金森レイナは『銃使い』というジョブを使っている。本人のステータスは俺同様レベルに対しては明らかに低く、しかし高価な銃弾を使うことで本来の適正以上の所に潜り素材や調査結果、撮った動画で採算を取るという俺の理想とする低能力値の冒険者の立ち回りを行うのだ。だから俺は彼女を尊敬というより憧憬とわずかな嫉妬を胸に見ていた。



 金森レイナの動画新着を開くと確かに彼女の新規動画が出ている。タイトルは「ダンジョンを破壊したものへ」というタイトル。恐る恐る動画を再生すると、よく目にする消費者金融の広告が入り視界を遮る。



 ダンジョンが出てきてからというものの景気は明確に回復し、金は貸せば貸すほど得という事態に陥っていた。ダンジョンから出てくるものはそれだけ有益なものが多く勢いよく経済を動かしていたことを考えれば俺のやったことは極めてまずかったのかもしれない。実際ダンジョン崩壊を受け昨日の日経平均はかなり低下していたらしい。



『金森チャンネルへようこそ!今日の話は正に話題の中心、ダンジョンを破壊した人についてだ』



 いつも通りのお決まりのテロップのあと爽やかなBGMと共に金森レイナの声が流れてくる。画面下部に表示されている動画再生数は半日で300万を超えており相当なバズりよう、あるいは無理やり本人に届くように力技で押し込んだのか。



『さて犯人君の現在の状態を確認してみよう。ダンジョンコアを破壊し逃走したのち何食わぬ顔で家に帰ったものの国の発表で心臓バクバクといった所か。多分場所は首都近辺だよね、それも駅で数駅の範囲。』



 そして開幕の一言に衝撃を覚える。なぜだ……!?。彼女はいかなる技か自壊ではなく犯人がいると確信していた。破片の指紋、いやあれは衝撃である程度ひび割れ粉になり使える状態ではないはずだ。そして何よりこの話し方は返事が来ることを前提に話をしている。つまり相手が自身の拡散力の届く範囲の人間だと知っているのだ。あんな時間に塾周辺にいる人間は限られているとはいえ、心臓がバクバクしてくる。



『一応だけど『偽装』を使わずにアプリを起動していないよね?その場合は全力で今いる場所から逃げたほうがいい感じだけど、まあそれはさておきとして。今君は複数の組織に追われているわけだ、経験値をため込んだボーナスモンスターとして』


『そういうわけでまず私からのプレゼント、逃走用のスキルセットだ。一つ目は『鉄面皮』、表情を魔力で抑え込むスキルだけどこれと偽装を重ねることで大体の検問は突破できる、特に君のステータスならね。


『次に『幻影』、文字通り色々な事を隠すことができる。例えばナイフで傷をつけることでVITテストをするのなら血を流す幻影を出し本来のレベルをごまかすことが可能だ』



 ……情報量が多く、そして話の流れがわからない。確かに急速にレベルアップした以上バカみたいなSPはあまっておりこれら全てのスキルを習得することは確かに可能だ。だが何故彼女が俺の逃走を手助けする必要があるのか、その一点が意味不明だった。



 勿論動画のネタという面はあるのだろう。大体が経済的な損失の話だとか英雄として称える話だとかでこういった話をするチャンネルは他にはない。だがこういったレポートではなく提案と対話という動画を彼女が出している姿を俺は初めて見た。



 周囲が騒がしくなってきていて自分のことかとあたりを見渡すが当然始業時間に近づいたから生徒が増えただけであり、安心して画面に目を戻す。



 改めてみると美しい人だった。ロングの金髪に強気そうな眉、モデルにでもなれるんじゃないかと思えるほどの良いスタイルと身長。だがその顔の化粧は今日は微妙に濃く、よく見つめると隈が残っているのがわかる。



 画面の向こうの金森レイナは言葉を続けた。



『といってもこれだけでは国から逃げきるには足りないだろう、結局人海戦術と公的パワーに押し切られてしまい、見つかったらよくて実験材料か戦闘要員、最悪は殺されて経験値をお抱えの兵士に分配するための肉袋となり果てる。嫌だろうそんなのは?』



 ここでようやくああこれは交渉なのか、ということに気が付く。スキルの情報という餌を与え危機感をあおり、そのうえで道を提示する。とても手慣れた動きだった。



『だから明日21時、ダンジョン第48層Cブロック、その中央で会わないか?私は君の力に興味があるが同時に経験値のためだけに殺人が侵されることを看過できない。もし手を組めるのであれば逃走をさらに手助けしよう』


『ああ罠でないことを保証するために私は当日一人で来ることを約束しよう。調べてもらえばわかるが私はせいぜい2桁程度の能力値しか持っていないから制圧も簡単だろう』

動画で待ち合わせ場所全世界に公開すんなやとか保証が保証になってねえとかありますが大丈夫です。これを他の組織に見られること、怪しまれること前提でレイナは策を練っています。




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