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再会、火口ナナ

 試験が終わりあっさりと終礼となる。担任の話を聞き流していればすぐに解散となった。



 木の机がガタガタと揺れる。そろそろ樹脂製とか選択肢を増やしても良いのでは、と思わないこともないが残念ながら伝統と価格には勝てないらしい。伝統だからその材質を使い続け、そういう場所が多いと大量生産で結果的にコストが下がり経済的になる。



 そんな机の振動はすぐに俺の後ろに集まる……のを察してささっと教室を出ようとした。すると琴音が指で俺のリュックを挟み逃走を妨害し、小声で話しかけてくる。



「逃げんとってや」


「俺がいるとお前までぼっちになるぞ」


「うーん、せやけど博人ほっといて他の人と仲良くなるのは違うやろ。それに彼ら無視した側やろ?」


「……クラスのトップが嫌がらせしてたんだ、言いたくても言えない奴はいたはずだ。俺が気づけなかっただけで」



 忘れてはいけない。人間全員が正義か悪かの二択で特定の一側面だけで人を測ってはならない。なんせそんなこと言ったら俺は殺人・不法侵入で明確に極悪人、この中で真っ先に吊られる人間になるからだ。……レイナさん曰くダンジョン壊した時に殺した男はSOD。しかも生成止めたことで魔物の流出や建物破壊による更なる死人は食い止めたわけだし地獄行きは免れたりしないかなぁ、地獄あるのか知らないけど。



 そそくさと退散する三人組、正確にはビルだけはこちらに来ようとしているのを大山と椎名が引っ張るような姿が視界の端に映る。それを遮るように少し頬を膨らませた琴音が俺の手を鋼糸で机に括り付けようとしていて慌てて引っ込める。俺の護衛という役目もそうだが何より本人としては目の前の問題を放置しているのが嫌なのだろう。



 こういう時どうすればいいんだ、やっぱMってママのMじゃねえのか……?と世話を焼く気満々の琴音に取り合えず思い付いた言い訳を投げつける。



「でも」


「だから頼む。お前経由で少しだけでもクラスとの距離を戻したいんだ」


「任せときや!」



 ちょろい。琴音(母)は不満げな顔を一転させ席を立ち所在なさげに佇んでいる同級生の方たちに歩きだす。……ちょろいというか、自分からクラスメイトと仲直りする方向に誘導された気がしないでもないが。



 クラスメイト達としても俺が面倒な状況になった以上今まで通り無視するわけにもいかない。かといって大々的に褒め称えたりするほど厚顔無恥じゃあない。となると表面上だけでも仲直りしておく必要があってその糸口として琴音と接触したいというのはあるのだろう。



「え、君可愛いね。どこ高から来たの?……高校行ってなかった?」



 ……何も考えてないかもしれないな、これ。





 琴音は早々に男子をあしらい女子グループにがしりと接触を始めていて、何とかその集まりに入れないかとやきもきしている姿を校舎の外から眺める。別に双眼鏡で覗いているわけではなく単純な視力でそこまで見えるのだ。



 少し琴音と話して下校時間がずれたからだろう、周囲の生徒の姿はかなり少ない。まだ2時半くらいで部活を今日から始める人もいるらしい。グラウンドで早速リフティングを始めている。



 因みにスポーツ、冒険者の身体能力だと簡単にバランスが壊れてしまいオリンピック前ギリギリに冒険者禁止ルールができていたりする。それにならって大半のスポーツは冒険者NGで大会が進行されるようになっていた。



 だから無駄と言えば無駄、なんだけれどもそれを精一杯楽しむのが趣味なのだろう。あと就職時に企業からのウケがいい。



 暑さは朝よりさらに強まっていて風が唯一の救いだ。一緒に流れてくる複数種の蝉の大合唱に顔をしかめながら俺は寮に戻り始める。



 今日はレイナさんとのミーティング。なんでも皆主党から引き出した情報を共有するとのこと。またろくでもない事実が判明するんだろうなぁ、と思いながら歩いていると一人の少女が校門を塞ぐように立っていた。



「み~つけちゃった、センパイ」



 見知らぬ顔ではないが間違ってもそう呼ばれる筋合いのない相手であった。襟の校章の色からして一年生。呼び捨てにされる時点で変なのだがそのような違和感は危機感にとって代わる。



 第一印象は白い、だ。白銀の髪に赤い目、薄い色素。白シャツもあいまって赤い目だけが妙に妖しくこちらを見ているように感じる。身長は150より下くらいの小ささで今にも折れそうなという表現がふさわしい。その異様に整った顔は彼女の仲間を想起させる姿だった。



「『SOD』……!」



 戦闘態勢を取る。初めてレイナさんとあった日、ノテュヲノンの後ろにいたスキュラの女。特徴的な姿であったし何よりそのステータスが彼女の全てを示している。



 火口ナナ  

 レベル314 ジョブ『砲撃士』

 STR 554 VIT 1423 INT 3132 MND 1908 DEX 3354 AGI 1784

 HP 2435 MP 5827

 スキル 『火砲招来』『弾丸制作』 他  SP 0



 あの触手足はどこ行ったのか、何故堂々とこの学校に転入できているのか、など疑問は尽きない。周囲には変な目で見る生徒が2人くらい、迷わず琴音を呼ぶべきか……と思っていると大仰な仕草で体をくねらせながらこちらに彼女は近づいてきた。



「ちょっとちょっと、そういう話じゃないってナナ言おうとしたのに。女の子に手を出すには早すぎないですかぁ?」


「……そっちにやられた事、俺は忘れてないぞ」


「まあそこを含めてお話しません?私の家で」


「初手家かよ、そこはマックとかだろう?」


「じゃあそれで!」



 天真爛漫というには邪気の強い笑みが俺に向けられる。幼い声、自分の容姿を理解した態度、家を提示しておいて対案をこちらから出させる手腕、異様に高いレベル。ちぐはぐであった。



 だが本当に戦闘の意思はないらしい。仮に本当に戦うなら制服を着る意味がない。話からして彼女が二人目の編入生なのだろうが、わざわざ入学までして俺の前に姿を現す時点でおかしいのだ。それならもっとバレない人材を投入すればよかったのだから。



「やっぱミスドで」


「わがままですねぇ、まあいいですよ」



 場所を変更してみても動揺の様子はない。周辺の店舗すべてに罠を仕掛けてでもいない限り行く先自体は大丈夫そうだ。勿論警戒を解いてからグサっとくる可能性は十分にある。



 だからレイナさんあてにアイテムボックスに合図を送りながらそれじゃあ、と俺は火口ナナに対して戦闘態勢を解いた。

というわけで新ヒロインです。ようやくスキュラタグが虚偽じゃなくなる……!

いいですよね、魔物娘。私はスキュラ娘とかスライム娘が好きです。

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