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8月31日、課題

しばらく毎日更新です。

 あっという間に時は過ぎる。それは何もなかったというよりは詰め込まれすぎていて時間の経過に気を取られる暇がなかったからで。



「な、夏休みの課題終わらねえ……」



8/31。ダンジョン崩壊から二か月半近くが経過していた。隣で選択式の課題を手伝ってくれている糸井川琴音がシャープペンシルをカチカチと鳴らしている。……と思うとうーんと伸びをし立ち上がる音が聞こえ、思わず背後を振り向く。



夏らしい白Tシャツ一枚に足がほぼ全部見える切り詰めたジーパンというラフな格好。なんなら冷房の風で妙なものが見えそうでふっと視線をそらしたくなってしまう。が小型の糸巻きを足と腰に巻き付けており外への警戒は万全と見える。



寮の中、狭い自室。ベッドと机、洗面台が詰め込まれた部屋。一応スペース自体はあるのだが片付けの下手さで数字よりさらに圧迫されているように見える。近いうちに琴音清掃監督殿による強制執行が入るらしくそれまでに見られたくないものは脱出させておけとの指示が出ていた。



「こっちは終わったで。記述式は手伝うと字の汚さでバレるから頑張りや、うちはお昼寝でもするわ」


「おい俺のベッドで寝るな、いや別にいいけど」


「どっちやねん」


「どっちでもいいだろ。それよりその布団、洗濯に出す直前だから若干汚いぞ」


「女の子が来る前やねんから洗っときや。……ってここ寮やから布団洗うのはローテーションなんやっけ」



ぼふっと琴音は布団に体をうずめる。少し身震いした後だらーんと脱力した後こちらに表情を向けずにもごもご言っている。



あの唐突キス事件以降俺と琴音の関係は珍妙なものとなっていた。レイナさん曰く、距離の詰め方が下手だから取り合えず全速力で詰めてしまったとのこと。確かに一日で互いの過去まで放出することになったし彼女、そして俺もそういうところがあるのだろう。



あの短い時間で、ということは吊り橋効果以上の何かを見せれたのだと信じたい。が、真相は闇の中。友達にしてはちょっと微妙な雰囲気、でも恋人ではないという奇妙な状態で俺達の関係は浮遊し続けていた。



「2週に一回タイミングがくるからそこで無理やり干すしかない。屋上の物干しの数にも限度があるしな」


「二学期からうちもここかー。勉強はついてけるけど他大丈夫かなぁ」


「無理にここに転入しなくてよかったのに」


「アホウ、それしたらあっという間に隙を突かれてあんな目こんな目にあうで。所在地の割れてる戦力とか勧誘から攻撃までやりたい放題や」



そう言いながら琴音は掛布団をくるりと体に巻き付けきゅうりの入ったちくわのようになる。そう、2学期、夏休み後より琴音は俺の護衛がてらこの東西南高校に転入する。正直この学校で学ぶことは全くないはずなのだが彼女はウキウキし続けていた。



因みにもう一つ理由があって冒険者名簿から削除されないため、というものがある。現在冒険者は18歳からしかなれないが以前の年齢制限が無い時代にで登録された人は18歳未満でも冒険者として活動できる。それが琴音なわけだが政党、それも冒険者が主体の党という注目の集まるところでその存在があらわになれば最悪未成年を冒険者名簿から削除しようという動きすら出てきかねない。



一時期外国では少年兵を迷宮に向かわせることに批判が向かったがそれと同じような事が起きる。もしそうなったら冒険者はうちの戦力ではレイナさんとグレイグさんだけになってしまう。というわけで3年生で正規の冒険者としての試験が受けれて卒業と共に冒険者になれるこの学校に転入したわけだ。



「あの雑魚3人+教師も同じところなんやろ、それだけが最悪やわ」


「俺と一緒に行動するなら必ずそうなる。……しばらく会ってないけどどうなってるかなぁ」


「差に絶望しとるんちゃう?」


「あいつにできるなら俺にも、って28個目の迷宮探してたら面白いな」


「そんなにダンジョン増えてたまるか、日本滅ぶわ」


「……そんなことしなくても滅びそうだけどな」



結局俺はあの日以降学校に行けていないしかといって実家に帰れたわけでもない。マスコミや一般の野次馬の目が激しくなって一時的に寮で待機してくれという話になったのだ。



特に厄介なのが一般の野次馬たちだ。



『ダンジョン破壊した奴の家に凸してみたwww』


『本当に強いのか襲撃してみるでごわす』


『ダンジョンブレイカーに家から出たところで冷水ぶっかけてみたwww』



いつの間にか俺の名前はダンジョンブレイカーなるカッコいいのか直球過ぎてダサいのかよくわからないものとなっていた。まあそれはいい、問題は一般人による迷惑行為、特に注目を集める為に動画や写真を撮影したものだ。



この状態で家に帰ったり変な所に住めば迷惑がかかりまくる。一方この寮にいれば女子もいる数多の未成年がいるところに迷惑なことをする奴、という扱いになりしょっぴくのが容易になる。



そんなわけで寮に閉じこもりながらたまに『幻影』とかで抜け出したりして日々を過ごしていたわけで、実に3か月ぶりの登校が近づいていた。



それはそれとして課題は未だに終わっていないが。

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