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策謀

足立さん、かませっぽいけどこの人より強い冒険者2人しかいないんですよね……(一応裏社会とか含めるともう少し増えますが)(足立がレベル上げすれば博人ボコられるだけになるのでは?という話については今回説明します)



 とある屋敷、そこで勤務している秘書は主の指示で郵便物を受け取っていた。コンビニで手に入れた「衣服」とラベリングされた小さな箱を大事そうに持ち帰り、指示通り誰もいない予備の客間に置く。そして箱を開け女性ものの黒のスラックスを椅子に掛けその前にお茶菓子と電気ケトルのお湯をセットした。



『明日の朝6時にお客様がいらっしゃる。その時間の前にはお茶を入れお待ちしろ。大事な大事な客だ』



 主の言うことは何一つ理解できなかったがそのうえで秘書は正しく行動した。その結果朝六時、その客人は時間通りにズボンのポケットから這い出てきた。アイテムボックスからぬるりと。そう、四辻博人の()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



 それは関節人形だった。顔はどうみても金森レイナそのものだが動きがぎこちなく何より裸の下半身は女性の物ではなく人形の関節部そのものだったからだ。



「ほっほう。本当にSATを潜り抜けて侵入できるものなのですな」


「いや、この状況はかなり最悪に近いですね。というのもSATは軒並みダンジョンに向かってしまいましたから。私がわざわざここに来る情報を漏らしたのは陽動の意味もあったのに」



 そして時間通りにこの屋敷の主は訪れる。皆主党代表、玉手直樹議員。この日本において野党の中では最も力を持つ党の党首であり政界に大きな影響を与える人物だ。だが皆主党はここ数年支持率は急落を続けている。



 というのも反ダンジョン派が余りにも強いのだ。その結果この日本で起き続けている政府のきな臭い事件の足すら掴むことが出来ず、逆に自身たちの汚点はスキルを使える兵による内偵で次々と明らかになってゆく。



 だからこの交渉の要点は初めから決まっていた。その点を確認するためだけに金森レイナはここに来ていた。



「単刀直入に話を。我々迷宮保全会は27個目のダンジョンを破壊した少年、四辻博人を仲間に迎え入れました。必要な時にこの戦力をお貸しするので代わりに我々を政党と認めていただきたい」


「政党として我々が擁護することでこの件は少年が容疑不十分で逮捕された、という話ではなく現与党を批判するものを警察権力が捕まえようとしたという話に。民主主義の根幹を揺るがす政治事件に発展するという訳じゃな。お嬢ちゃんは話を大きくするのが得意じゃのう」


「それはお互い様でしょう。それに困っているのではないのですか?高レベル冒険者が政府により独占されているこの現状を」



 その言葉を聞き玉手議員は苦そうな表情になる。冒険者、というよりはこのシステムに乗る人間は皆レベルを上げなければ強くなれない。だがいくら魔物を倒しても近年、彼らはレベルを上げられなくなっていた。



 SATのレベルが200以下、琴音より低いのは彼らが無能だからではなくレベルという物が信じられないほど上がりにくいからなのだ。序盤は上がりやすいのに急にレベルが上がらなくなる。いや上がらなくなるというよりは経験値がそもそも吸収されていないようなそんな感じに。



 それを成長限界という。



「我々の方で解析した結果ですが一度レベルが上がるのが止まった人間はそこからレベルがあがりません。というのも魂内部の虚重原子構造が安定化しすぎて経験値というものが来ても入る余地がなくなるからです。これは正の虚重原子と負の虚重原子との反発によりレベルが上がりにくくなる現象とは違います。あなた方の兵は経験値が足りないのではなく既に限界に到達しています」


「……では君の見せたあの情報はなんだ?レベル9999など聞いたことがないし限界という物を無視しているぞ?」


「簡単です。一気に経験値を取り込むと成長限界で魂が安定化する暇もなく魂に経験値が吸着しその周囲を魔力が覆うようになる。化学の活性化エネルギーという話をご存知ですか?」


「知っている。物質が反応し反応物質が生成物に至るにはある特定のエネルギーが必要で……!?」


「そう、レベルが上がるために必要なのは経験値を貯めることではなくレベルを上げるという魂の反応に必要なエネルギーを一気に摂取するか、あるいは少ないエネルギーで活性化エネルギーのようなものを超える事に賭ける、そのどちらかでしかありません」



 玉手議員は愕然とする。確かにそうだ、他の全てがゲームのようだからといって経験値に関わる話までゲームのような形であるという保証はない。ゲームに似ていてもゲームではない、経験値を貯めれば必ず報われる、雑魚を1万匹殺しても実力が付くとはかぎらないのだ。



「故にあなたの兵も大半の政府お抱えの者たちも成長限界に達した以上もうレベルが上がることはまずありません。だからどの勢力も新たな戦力を手に入れる必要がある。国の息がかかっていない、それでいて高い実力のある兵を」


「……貴重な情報をありがとう。で、取引を受けるとは限らんぞ?儂がおぬしらを政党と認めこの少年への攻撃をやめさせることはできるだろう。だがこの少年が取引に応じるほどの価値があるか、儂はまだ見せてもらっておらんからのぉ」


「ではお見せしましょう」



 そう言って金森レイナは画面を開く。イヤリングにできた極小まで小さくした霧から視界を飛ばし、彼らは一部始終を監視し続けた。




『……という訳だ。時間稼ぎご苦労様。いいデモンストレーションだったよ』


「やっぱりこれ意図的に俺たちをSATとぶつからせていたんですね!?」


『うん。まあここまでギリギリだとは思わなかったけどね。因みに足立君の感知した気配みたいなの、私がイヤリングからうっすら魔力を放ったからだよ』


「完全にハメられてた!」



 うぎゃあと頭を抱える。外原は藁人形を捨て両手を高く上げていた。足元の琴音は四肢はねじ曲がっているが頭は無事、そして呪いは解除されたらしく只の傷となっている。



「そいつ口だけやで、もう4本目あたりから腕プルプルで涙目、5本目は恐怖で釘を打つことすらできとらへん」


「うるさい同い年の娘がいるんです!」



 イヤリングから浮かぶモニタに映るレイナさんとその後ろにいる玉手議員が悪そうに笑う。この一件、彼らは面白いように嵌められた。ただ迷宮保全会、いや迷宮保全党としてのデモンストレーションに使われてしまった。



『一部始終見せてもらったぞ、見事。勝利の為に犠牲を払うことのできる君なら駒として使える。第3位を正面から破れる戦力と駒として立ち回れるという二点が揃うのであれば四辻博人は交渉材料になりうる。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!』

『因みに琴音君が死ぬ場合はその前に私が出て止めていたよ。良く信じてくれた』



 ……これは玉手議員からのテスト、という面と共にレイナさんからのテストという面もあったのだろう。SATの面々は足早に去ってゆく。彼らはこれから大変だろう、なんせ状況を政府にとって最悪なものにする手伝いをしてしまったのだから。

というわけで裏の話でした。正直この状況になった時点でSATはほぼ詰んでいたんですよね……。

次話、第一章エピローグ。

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[一言] > うぎゃあと頭を抱える。外原は藁人形を捨て両手を高く上げていた。足元の琴音は四肢はねじ曲がっているが頭は無事、そして呪いは解除されたらしく只の傷となっている。 >「そいつ口だけやで、もう4…
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