1分間に五本。潰されるは肢体
[『風纏』を習得しました『炎熱剣』を習得しました『氷槍乱舞』を習得しました『黒絶』を習得しました―――――]
時間稼ぎをしていたのは他でもないスキル習得のためだ。相手を見て必要な大量の残りSPで必要なスキルを取得、その場でメタを張る。第三位をその場で粉砕するための構築を組み立てる。
これができるのは俺だけだ。世界で唯一レベル9999、SP9999を手に入れた俺だからこそこんな馬鹿みたいなことが出来る。向こうからしてみれば後出しじゃんけんもいい所だ、このステータスで的確にメタを張ってくる敵。
現在勝っている点。STRを除く全ステータス、現在取得したスキル。負けている点は圧倒的な戦闘経験と術式開崩とやらで強化されたSTR。ダンジョンを破壊しただけで3位にここまで迫れるのは愉快というかなんというか。
今から追い越すのだが。
「『風纏』!」
「3、!?」
「効かない、倒縛陣が破られた!」
「ちぃ、『ステップ』『剄飛脚』!」
全速力で後ろに飛びながら『風纏』を発動すると俺の周囲に風が舞い空気砲の向きがずらされる。INT6000で作ってるんだその程度で転倒はもうしない。足立の飛び込みながらのハイキックの亜種のようなそれをガントレットで受け流しながら理解する。あの術式開崩は欠陥がある、身の丈に合わない力であるが故に全身が痛み気功の発動が出来ていない。
下半身麻痺によりスキルと気功でしか歩行できない足立がスキルしか使えなくなった。ならばスキルの宣言に合わせ防御を固めながら戦えば良い。
その様子を見て顔を歪めた外原が藁人形に向けて釘を叩き込む。
「1っ!!」
「ぐぅぅ!」
拘束された琴音の右腕が異様な方向に跳ね上がり一瞬で紫に変色、ばきりとあってはならない方向へ折れ曲がる。苦痛を漏らすものの琴音は助けて、とすら言わない。視界から外原と琴音を意識的に外しながら足立のラッシュをかいくぐりながら最後の鍵を投入する。
「『幻装』『炎熱剣』!」
大剣を生成、即座にあの引率の冒険者が使っていた魔法剣を起動、勢いよく振り回す。余波でビルが剥がれ落ち足立は迎撃しようとして上手く避けきれずかすり傷を負う。間髪入れずに『バーニングレイ』を連射、回避しながら接近してくるのを大剣で近づけさせないようにする。
もう足立は近寄ることが出来ない。組み付かれたときのあのダメージレースが記憶に強く残っているから本来のキックボクシングの距離で戦うことができずそこから一歩引いた大剣の間合いで戦わされる羽目になっている。
そしてその選択の背中を押す要素が背後からやってくる。
「2っっっ!降参しなさい四辻博人!」
再び悲鳴。今ので右腕右足が壊れたらしい。だが知ったことではない、いや知っても気にすることではない。
「何故です!早く彼女を救いなさい!」
外原が叫ぶ。そうじゃないんだ。俺が夢見たのは正義のヒーローなんかではない。仲間を信じ手を組みただ己の欲望に向かい突き進む冒険者なんだ。だからレイナさんを信じる。この状況はまだ彼女の手中で時間切れまで耐えられれば全てがひっくり変えるのだと。
残り43秒。更に前に出て足立に回避を強要させる。大剣の破壊力は凄まじく床や壁を悉く粉砕、受け流しすら許さない。
「『氷槍乱舞』『黒絶』」
「『ステップ』『ステップ』『ステップ』……!」
更にノテュヲノンの使った二種の魔術、追尾する氷の群れ『氷槍乱舞』と広範囲に暗闇とMPを吸い取る空間を作り出す『黒絶』。それをスキルで起動、足立の背後を『黒絶』で塞ぎ氷槍の群れが足立を追い詰め高速で連射される『バーニングレイ』が逃げ場を失った足立を少しづつ削っていく。
「3っっ!このまま勝っても解除さえしなければ私の呪いは残る、糸井川琴音は残りの人生を左手一本で生きることになる!」
「てめぇ、『ステップ』、ふざけんなよどういった心持ちだなんでこの前まで一般人だったお前が俺に並んでいるんだ!」
足立の言葉に何も返さない。心の中ではお前が言うな、その才能という不条理を持っているくせにこちらの不条理にはケチつけるのかよ、と思っているが。琴音のうめき声はほとんど爆音にかき消され聞こえない。この広場の外からあの同級生三人組と引率が化け物を見ているかのような目をこちらに向けている。そちらに向かってSAT隊員たちが急いで避難してゆくのも見える。足手まといになるのを避けての事だろう。
残り26秒。足立はまだ避け続ける。俺が五本目までに降参すると未だに信じているんだ。
「4っっ!頭が壊されると終わる!解除しない限り植物人間になって一生帰ってこないぞ!」
「だから何だよ」
足立が回避しきれず氷槍を正拳と廻し蹴りで一気に打ち払う。足が止まった瞬間に『バーニングレイ』が直撃、肉が焦げる音と共に足立が勢いよく吹き飛ぶ。ビルを蹴飛ばし飛翔、容赦なく追撃をかける。
ステータスを見ると既にHP0、体はボロボロ。対する俺はHPがまだ半分以上残っている。その歴然とした差の中でなお足立の目は俺を強く突き刺し態勢を立て直そうとしている。
残り10秒。最後の交錯。
「5っっっ!」
もはや悲鳴と区別のつかない外原の叫びと共に足立と俺は互いに一撃を放つ。
「『ステップ』『ハイキック』!」
「『弱スラッシュ』!」
足立の鍛え上げられたハイキック、それが届く前に大剣の一閃が足立の足を撫でするりとあるはずであった場所から足が落ちてゆく。最弱の一撃。だが速度において最速であるこの一撃は狙い通りにハイキックより早く相手を断ち切った。
3階ほどの高さから焼け焦げ元の面影を残さぬ地面に叩きつけられる日本ランキング3位。実質世界で三番目に強い冒険者。それを確認した瞬間無意識に体は全力で琴音の方に向かっていた。だが全ては終わっていて。月曜日午前7時。静けさの残るダンジョン4層。
「やるやん、博人」
「博人君お疲れ様、きちんと預けてくれたね」
既視感のあるスキルの群れ。一章の集大成です。




