リアルメタルスラ〇ム
寮に帰り『修復』で治ったスマホを起動すると一気に大量の通知が流れ込んでくる。大半は実家の親によるもので友人からのものがないあたり俺らしいといえばらしい。
2046年、日本は地価が飛躍的に上昇しているのと同時に各地の高校の格差が広がり始めていた。特に首都近辺のダンジョンの近い地域の学校は頻繁にダンジョン遠征を行い冒険者の予行を行える。だがそこに通うためには首都近辺に住まねばならず、そして地価の関係上家族全員での引っ越しは難しく寮へ入るのが基本となっていた。
だから今、寮の部屋は俺一人なのだが。
「さて事件はどうなってるかなっと」
Y0utubeを開き動画一覧を開く。俺は冒険者系の動画ばかり見ていたのでおすすめ欄はそれ系統のものになっているはずなのだが今日の表示は大分違って見えたのだ。
『27個目のダンジョン崩壊が確認!?』
『緊急記者会見を迷宮省大臣が今晩行う模様』
『生成失敗した模様www』
『テロ組織『Subordinates』も同様に緊急会見!?』
『23個目のダンジョン不活性化か、27個目と関係は?』
……赤い文字で大量に文字列が並んでいる。全部俺の話だ。夕飯を食べて帰ってきたから時間は遅く、迷宮省の会見は既に始まっているようで中継のチャンネルを開く。迷宮省とはダンジョンの攻略を管轄する行政機関で素材の売買からダンジョンに関する研究まで行っている所だ。例えばステータスを魔力を使わずに表示できるアプリもそこが造ったものだ。
慌てて中継配信をつけると既に記者会見は始まっていた。壮年のガタイのいい男、可部大臣がフラッシュの中マイクに向かっている映像が表示される。明らかに焦ったというか動揺している大臣から声が発せられる。
「えー、今回の事件についてですが。ダンジョンは崩壊、完全に崩壊しました。理由は現在二つ考えられております。一つ目は生成時のミスでダンジョンが自壊してしまった場合、二つ目は誰かがコアを破壊した場合です。その場に残されたコアから原因を探索していますが現在調査中です」
ざわざわとする会場の音が消えてすぐに静まる。咳ばらいをした大臣は言葉を続ける。嫌な予感はしていた。あの状況で、コンクリートの破片と死体は残ったままだ。ならば殺人事件であり誰かが殺した可能性の方が多いのに。
そこでやっと死体も処理しておけばよかったのに、と思い至るあたり本当に俺は動揺していたようだった。思いつくべきタイミングに感情に左右され何も出てこなくなる、そういうところはレベルが上がっても変わらないんだなぁという感じだ。
「そういうわけでして、本日より迷宮省公式ステータス閲覧アプリより規約通りに強制的な情報収集を行わせていただきます。万一コアを破壊した方がいらっしゃる場合は我が省にご連絡くださるようお願いします」
最後の締めの言葉だった。俺がぞっとしたのは。幸いにも『偽装』のおかげでレベルはごまかせているはずだがもししていなかったらどうなったのだろうか。それを放っておいて画面はコメンテーター達に切り替わる。
『えー、まあそんなわけでダンジョンの破壊が確認されたわけですが、現在警察は総力を挙げて犯人を捜索しております。周囲に急に高レベルになった方がいた場合はすぐさま通報を』
『怖いですねぇ、正義の味方かテロリストかわかったものじゃありませんよ』
『一部政治家からは「ダンジョンから出る利益を全て潰された!ダンジョンという国民の共有物を損壊させたものにはその罪を償わせなければなりません!」などといった意見も出ており……』
『まあでも自壊した可能性もあるんじゃないですか』
『もし自壊なんてするならもっと世界中にダンジョンのなりそこないがあっていいとおもうんだけどね』
そしてtwltterを覗くとすぐにあの配信者が出てくる。俺の好きな配信者。戦闘能力は低いもののその洞察力と交渉力で様々な発見、攻略、ダンジョンのショートカット作成など多大な功績を持つ女性。女性といってもまだ18のはずだがその大人びた容姿と雰囲気が年齢を忘れさせる。
『これ確実に誰かが破壊したね。そいつを捕まえた上で自壊だったということにしてしまいたいんだ、国は』
『目的は経験値だろうね。そいつがダンジョンコアからの経験値を独占しているならそいつを殺して奪えば味方を大幅に強化できる。リアルメ〇ルスライム、ここに召喚!ってか』
……恐らく彼女の考察が正解なのだと俺の勘は告げていた。経験値は殺せば奪うことができる、そして俺は9999レベル分の経験値を持っていて、敵は国。
あれ、詰んでね?
爆誕、リアルメタルスラ〇ム系主人公。ヒロインに早く合わせたい。