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サバイバル?

 そこは狭かった。広い空間なのにそういった感想を抱くほどの物質の密度。木のように生えるビルの群れが存在しないはずの太陽の光を覆い隠している。それらビルには小さなツタのような、しかしよく見ると生体ではなく無機質なパーツがちらほらと覗いている、つまりこれらも魔物の一種。とはいっても攻撃してくることはないのだが。



 42層と違う点はビルの量、足元の水がなくからっとしている点、そして太陽もどきが浮いている点だ。琴音はそんな光景に見とれる俺を他所に周囲をぐるっと見渡し一瞬でビルの上に飛び立つ。少ししてパタリと止まった後地面に降り立ってくる。



「OK、他のパーティーはおらへん。何なら特殊個体もいなくて安心したわ。んで安全地帯が8か所あるねんけどこんなかでマトモなのは北の9番ビルの内部や」


「地図もないのにわかるのか?」


「うちがなんでレイナさんに雇われてると思ってるねん、ダンジョン探索においてうちの右に出るもんはまあおらへんからや」


「言うなぁ」


「単独51層までたどり着いとるで」


「化け物かよお前!?」



 ふふんと胸を張る琴音、いやその程度ではすまないからな!? 48層時点で平均レベル300超え、現最深攻略層が63層であることを考えればソロで潜っているにしてはあまりにも深すぎる。ゲームみたいに転移装置があるわけではないから往復しなければならないというのに、それを彼女はやってのけたという。



 なんというか琴音の実力についてはそこそこ強い、程度の認識で話していたがこれは色々と改める必要がありそうだ。因みに、と思って恐る恐る聞く。



「どんな感じだったんですか51層までって」


「何で敬語やねん。36層くらいまでは4日かけて普通にいってそこで持ち込んだ水や食料がきれ始めたから現地調達しながら戦闘避け続けてた。目的の鉱石を手に入れたからそれ抱えて帰ってくるのに計3週間はかかったなぁ」


「3週間!?」


「だからあんたはおかしいねん、本気で48層までぶち抜けるそのSTRはうらやましいというよりはドン引きやな」



 そんな話をしながらビルの森の中を進む。辺りに魔物はいない。この近辺だと確かゴブリンやレッサーウルフ、それにアースゴーレム。まあレベル10もあればボコれる雑魚たちだ。だがウルフがこちらを嗅ぎつけて騒ぎ出したりすると厳しいな、そう思っていると「ここを真上や」とビルの木の上をトントンとまた昇って5階の割れた窓の中に飛び込む。



「よいしょっと」



 少し力を入れて跳躍、目測通り5階に到達した俺もビルの中へ降り立つ。斜めに傾いたビルの中は埃っぽくかなり昔の機材や資料がぐちゃぐちゃになり部屋の片隅に押し込められている。よく見るとここはオフィスだったようで大量の受話器のコードがからまり天井からぶら下がっていた。ダンジョン生成時に飲み込まれた建物の一つなのだろうけれどそれにしても気味が悪い空間である。



「よし中にも敵は無し、今夜はここで寝泊まりや。最低限の夜食確保したらここでひきこもるで」


「まあ見つかるとこまるしな。食事ってどうするんだ、水はスキルで出せばいいのはわかるんだけど、飯は狼でも狩るのか」


「ドアホウ、あれ素材がコンクリなこともあって食えるまで魔力で変化した部位はほとんどないし何より解体したときの匂いが残るねん。やから無し」


「じゃあどうするんだ」


「果物や。それなら匂いも強くないし魔物が取ったのか人間が取ったのか判別つけへん」



 奥の部屋から戻ってきた琴音がそう言いながらずかずかと足元にちらかるガラクタをどける。因みにだが足跡についてはあまり気にする必要が無かったりする。というのも地面や生えている植物はダンジョンそのものであるためこれらに対しても自動再生が働くからだ。



 というか果物か。まあなら腹も多少膨れるし大丈夫だろう。そう思っていると琴音が窓の外に出ながら言う。



「んじゃ待ってて取りに行くから」


「ちょいまて俺のやることは?」


「ないないプロに任せとき。この追われている状況でも最速で大量の果物回収してきたるわ」


「サバイバルとはどこへ……」


「ママに任せとき、バブーと言いやバブーと」


「バブー……」


「思ったよりキモくてびっくりしたわ」


「俺も」


「まあ大事なのは息をひそめるほうやから。SATの炙り出しとか急な物音とかで精神がじりじりと削れてく、これに対応できるかの方がうちらみたいな高ステータス人間にとっての課題やで」



 人間離れした話だ、まさか身一つのサバイバルで精神面の方が大切だと言われるとは。自分が余りにも急いているのは事実で、全く知識もないのにこの隠れなければいけない状況で採取を手伝うという行為は邪魔にしかならないだろう。



 レイナさんと同じだ、相手を信用し身を預ける必要がある。



「んじゃ埃払っとくわ」


「助かる。一番奥の寝床周辺を頼むわ」



 琴音が再び地面に飛び降りるのを見ながら俺は落ちていた箒を手に取った。

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