『仲間殺し』
「何してんだ休日にデートかよ、そんな時間あるなら足を引っ張らないよう練習しろや!」
「それ!」
「やめなよ二人とも……すいませんお邪魔して」
大山たちは店内にずかずかと入ってきてこちらに話しかけてくる。無駄に大きい声に店員も驚いていたが様子をみて知人か、と見てみぬふりをした。全く違う理由で同じように目をそらしているいつもの引率の冒険者の姿からなんとなく察する。
うちの学校についている冒険者、主に引率役としてダンジョンに潜る人は人数が少ないこともあり大体パーティーごとに固定されている。だからこの人は俺の引率役でもあるはずなのだが……様子を見ると優秀な生徒へのサービスってところなのだろう。俺を省いた他の3人だけ連れてここにいるということは。
装備の多さ、背中に背負うバッグからしてほぼ確実にダンジョンにこれから潜るつもりだな、と思っていたところで大山が視線に気が付きニヤリと笑う。
「俺たちは優秀だから特別に今日はダンジョンに潜れるんだ!いやーすまん深い階層だから雑魚は誘えなくてさ」
「こ、こら大山君!すみませんね四辻君、こちらにも事情があるものでして」
「事情って、さっきまで言ってたじゃん。才能ない雑魚って」
「やめなよ本人の前だよ!」
……本人の前じゃなければいいのかビル、いやまあ悪口の規制なんて不可能だし仕方がないけれど。それに引率の冒険者、お前そんなこと思っていたのか、名前覚えていない俺も俺だけど。そっとステータスを覗き名前を確認する。
沢田直人 冒険者 『優月』所属
レベル68 ジョブ『魔法剣士』
STR 243 VIT 189 INT 37 MND 113 DEX 473 AGI 281
HP 413 MP 164
スキル 『炎熱剣』他 SP 0
そうだ沢田さんだ。さてどうしよう。大山と椎名はからかう気満々、残り二人はさっさと帰ろうとしている。目の前の琴音は……見るまでもなくキレている。先ほどからタンタンと足が鳴り続け弱い殺意のようなものが漏れ出している。
面倒ごとにならないように抑えよう、言わせておけばいいと俺は顔を取り繕う。
「それは仕方がないね。ほらビル君や沢田さんも行きたそうにしてるしダンジョンへ向かったら?」
が、完全にこの言葉は彼らの神経を逆なでしてしまったらしい。そもそも彼らがどうしてこんなことをしているのか、それは人を馬鹿にして気分が良くなるための物であるはずだ。なのに気にしてないような様子。
俺自身は今までの思いが腹の底からポコポコと湧き出てはいたが現在の状態でもめ事をおこしたくないという事、そして力を得ていたため少し冷静であった。そんな俺を見て彼らはターゲットを琴音に変える。え、死ににいくのかお前ら!?
「可愛いじゃん君、同い年?こいつなんかやめときなって、もっといい男紹介したげるからさ」
「そんな紹介なんてまどろっこしいことせずに一緒にダンジョンに潜ってみようぜ、同じ優秀生組だろ!」
「すごいじゃん、ステータス見えないって高いレベルなんだね、来てくれると嬉しいなぁ」
猫なで声で迫る二人。気持ち悪いというか顔の前にのっぺりとした布が見えているというか。お待たせしましたーと横から運ばれてきたパンケーキをするりと流すようにイヤリングの中に全て収納してゆく。その光景を見た周囲は唖然、そりゃそうか『アイテムボックス』単体で20SP以上使うスキルだ。計レベル20も使用するスキルを使っているのは珍しい光景なのだろう。注文した三枚が全てイヤリングに収納されたのを確認した琴音は勢いよく指を突き上げた。
中指をだ。
「胸糞悪いわカスども、とっとと出てけや」
一瞬ぽかんとした4人、そして琴音に近づいていた二人はひどく膨れ機嫌悪そうに顔を前に突き出す。俺を馬鹿にするために来たのに自分たちが引いてはいけない、目的を考えれば当然だがそれは極めて悪手だ。
「偉そうに、レベルもそんなに差がないくせに何様だ?惚れたのか四辻に」
「うわーおめでとー、おめでたい頭の二人がくっついてるなんて幸せ―」
「やめないか二人とも!」
会話を無視し席に付いている支払装置にタッチ、宣言通り奢った後琴音は立ち上がる。その瞬間二人が勢いよく顔面から地面に衝突した。滑るというよりは何かに引っ張られたかのような様子で。足元には銀色の束ねられた光の集まりがうっすらと見える。鋼糸だ。
「がっ、何すんだよ!」
「いくで。あんたもなんでこんなのに言い返さへんねん。嫌なものには中指を、不条理には足払いを。うちのモットーや」
「ひでぇモットーもあったもんだ。……ありがとう」
「ええよ。知り合いが不当に貶される、それだけで腹立たしいからね」
「ちょっと、お前……!私たちと大して」
「その自信どこから出てくるんや、あんたのレベルは11か。あと200は挙げてから来いや」
「にひゃっ……!?」
絶句する二人を背に立ち去ろうとする。琴音の表情は完全に無でその雰囲気だけがマイナスに振り切っていた。こええ、相手に怒りを伝える必要はなく行為で示せばいいって思ってるパターンなのか……。そんな思いと共に立ち去るその前に俺は沢田さんに肩を掴まれた。もう帰らせてくれよ、と思う俺に沢田さんは震えた声で話す。
「そっちの子が有名な鋼糸使いの『仲間殺し』なのはわかった」
やめろなんか不穏なワードとともに不機嫌度が背後でマックスまで上がったのを感じるぞ……! 背後に慄く俺だが次の瞬間全速力で背後に走り出すことになるのはある意味当然の帰結だった。
「君のステータスが見えないんだが……もしかして……?」




