ステータス
自由東向新聞社、確か巨大財閥自由東向グループの傘下である日本トップクラスの新聞社で中でも冒険者やダンジョン関係の記事が詳しいことで知られている会社だったか。ネットでここの会社の記事が流れてくるのは俺もよく目にするし、確か冒険者日本ランキングを作っているのもこの会社だ。
でここのグループがえげつないほど強く、ダンジョンから出た素材を生かした新製品の開発から冒険者の事務所まで様々な事業を行い収益をあげている。ダンジョンが成立したことで最も得をした企業と言えるのがここだ。
が、急に言われた言葉に反応が追い付かない。米国?というか俺の情報ばらしていいの!?と思っている所ひらりと琴音は小さな紙きれを取り出す。え、どこからと思うと琴音の耳の銀のイヤリングからニョキっと指が伸びているのが髪の隙間から見えてビクっとする。その指はちっちっと自身を振った後白い霧の中に入っていく。ああなるほどアイテムボックスからレイナさんが指示を出したのか、というか見た目が怖いよ……。
「ちょっと糸井川さん!」
「まあ取り合えず情報共有せなって感じやね。因みに夢ちゃんが急に積極的になったのは博人の正体に気付いたからやで」
「えーとよくわからん、何で俺のことを?」
「……金森さんの所の糸井川さんが連れて来てて、そしてあの動画と共に連絡が取れなくなってしかもダンジョン封鎖。ってなると金森さんの動画の作戦が実現したとみるのが妥当です、あとステータスも見えませんし」
『偽装』をかけていたはずだと思ったがレベル差によるステータス閲覧不可という制限は変わらないらしい。しかしそうなると大問題だ、レイナさんと琴音のつながりを知っている人間なら誰でも俺の正体をわかることになってしまう。
そう思っていると大丈夫やで、と肩を叩かれる。一体なぜ、米軍って何!と混乱している俺の横で会話は続く。顔の赤みの引いた本田さんがこちらをちらちらと見てくる。
「まあこちらも弱みを握られている側ですから。米軍と自由東向グループが繋がっているのは公然の秘密ですけれども、レイナさんの頭脳と拡散力をもってその事実を拡散されると極めて不味い事態になりかねないんですよ」
「そんなわけやな。ああえーと、8大基本術式のうち解析できたものをこっちに寄越せって書いてますけどこれは?」
「持ってきていますよ。解析に成功したのはそのうちの一つ、『INT』です」
何それ?という思いは琴音も同じだったようで同タイミングで首を傾げる。するとイヤリングからまたレイナさんの指がにょきりと伸びくいくい、と渡せという指示を出してきた。なるほどレイナさんの事を知っていたのは以前からこういった取引があったからなのだろう、しかしINTって何さ、ステータスの名前そのままだけれど。
本田さんは「『アイテムボックス』」と宣言し霧を手元に生成、そこからひょいと一本のメモリーカードを取り出しレイナさんの指にそっと手渡す。指は手触りを確認した後霧の中に帰還する。いやアイテムボックスの使用権を譲渡しているとはいえフリーダムすぎる。その光景を見ていた琴音が「8大基本術式って?」と尋ねた。
「聞いてなかったんですか?」
「うちの親分は秘密主義なもんで」
「では簡単に解説を。今の日本のイカれた、外国にはない明らかにおかしい要素は何かわかりますか?」
「えーっと、スキルやステータス?」
「そうです。海外にはこれらの要素は存在しません。現に日本の領海近辺を離れた途端ステータスやスキルが使用できなくなるという現象が起きています。そしてこれらは単一の術式や現象ではなく数多の術式が絡み合った高度な結界であるということもまた予想されてきました。何故能力値がスマホで表示できるのか、名前までステータスに表示されるのか。それはそういうものだから、という訳ではなくそうなるように組み上げられたわけです。とはいってもこれは結果から導き出した予想で真実はSODと国しか知りませんが」
急な情報に少し理解が遅れる。えーっと、ステータスやスキルという物は造られたもので結界みたいなもの?まあ確かに不自然ではあったけれど。琴音はこれ自体は知っていたらしくうんうんと言いながら腕を組みトントンとしている。
「そして8大基本術式、『STR』『VIT』『INT』『MND』『DEX』『AGI』『HP』『MP』。魔力を持つだけの冒険者を即席の英雄に仕立て上げるこの8つの術式こそが現在我々が解析しようとしている物です」




