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グレイグ



 手慣れた様子、ではなく若干顔を赤くしながら琴音が手続きを済ませる。客は俺を含め4人、一人は先に入っているとのことだが傍から見ればそういう集まりにしかみえないだろう。



「んじゃいくで!」


「見てみなよ博人君、こんなものまで自販機になっているのか!」


「やめてください反応に困ります!」



 何故か目を輝かせているレイナさんを引っ張りながら俺たちは足を進める。まあ俺も見るのは初めてで若干気になったりもするのだがそれよりも恥ずかしさが勝った。というか目立ってばれたらどうするんですか、嫌ですよラブホで目撃証言あがるの。



 この店は結構高級なのか明らかに内装に力がかかっていて。適度に上品なのに所々ピンク色が混ざるカオス空間であり、時たま聞こえる喘ぎ声や謎の消臭剤の匂い、そして肉の匂い。……肉?なんでたれの効いた感じのいい匂いがするんだ、あとこっちの匂いはピザだよな!?



 同じ匂いに気付いた二人の顔が一気に苦笑に変わる。そしてこちらを振り向きあーあ、と諦めるように言った。



「あの人、張り切りすぎやろ……。一体どんだけ用意したねん」


「うん、もう一人仲間がいるんだけど彼、少々張り切りすぎたみたいだね。夕飯を用意してとはいったけれどこれは……」


「ええと、ありがとうございます?」


「礼は本人にいいや。あの人男の後輩ができるってウキウキやったから」



 ……あまり想像のつかない人物である。そんなことを思っていると319、目的の扉にたどり着く。匂いがはみ出まくっている部屋に琴音が何度かノックをすると中から扉が開き、ラブホテルの個室だという感想しかでない部屋が現れる。ただし馬鹿みたいに置かれた食事、そして無表情でこちらをガン見しながら手招きするデカいお兄さんが待ち受けていたわけだが。



「歓迎するよ、ようこそ迷宮保全会、通称迷保会へ」




 取り合えず減った腹を満たすべく用意してくれたピザに手を付ける。旨い、カロリーの暴力を物質化した存在ほど体が求めている物はない。隣でレイナさんも笑顔で牛丼を口に運んでいる。なんというか、不思議な気持ちになっているとレイナさんが微笑みながらこちらに話しかけてきた。



「どうした、何かおかしい所でもあったかい?」


「いえ、なんか牛丼食べてるのが意外だなーって思いまして。なんというんだろ、今まで画面の向こうにいた相手がいきなり目の前で庶民の食べ物をがっついているわけですから」


「それなら私のほうが現実感がないよ。ダンジョンを壊した化け物が平然と今隣でピザを食べているなんてね」



 本来はそういうことをするであろうベッドの上で俺たちは夕飯を取る。もう夕飯を食べていたのだろう琴音がしばらく逡巡したのちにびくびくとピザに手を伸ばしパクついた。わかる、一切れ何カロリーあるかを考えると手を出しづらくなるよな……。



 その一方で謎のお兄さんは俺のこぼしたピザを紙でぬぐいつつ残りのピザや食物を保温してくれている。身長190近くある細身ながら筋肉質な体、顔は外国人風の彫りの深い顔をしている。年齢は20台前半くらいだろうか、Tシャツにジーパンと非常にラフな格好でありこちらを不安半分期待半分で見つめているのが見える。



 とはいっても無表情がデフォなのかあまり感情が読み取れない。……はずなのだがこの立ち回りが彼の感情を示していた。手元の飲み物がきれた俺にすっとお茶を継ぎ足してくれようとする姿に頭を下げながら紙コップを差し出す。



「紹介する、迷保会の最後のメンバー、クレイグ=暗埼だ。うちでは最年長の24歳、主に諜報や密偵としての役割を担当している」


「……よろしく」


「よろしくお願いします、暗埼さん。四辻博人と言います」


「……グレイグでいい、博人」


「了解ですグレイグさん。この食事、本当にありがとうございました。美味しいです」


「……それは良かった、もっと食べろ」



 そう言いながらグレイグさんは頭を撫でてくる。な、なんか気恥ずかしい。横の女性陣二人の見る目が生暖かいぞ……!そう思っているとレイナさんが「弟たちを思い出す感じ?」と聞くとグレイグさんは「ああ」と答えながら今度は小型の鍋を組み立て始める。え、大丈夫なのかと思っていると器用に『換気』『防炎』とスキルを発動しここで食べられるように調整していた。いやありがたいけどさ、あ、まじで旨そう。



「シイタケは私が貰うぞ」


「レイナさん、そこは新入りに譲ってみませんか?」


「生意気な事言うなや後輩、それはうちのもんやで」


「……落ち着け、必要ならスーパーで買ってくる」


「じゃあパシリ決める為にじゃんけんやな」



 アホなことを言いながら夜が更けていく。ちなみにパシリは琴音に決まったとさ。

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