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27個目消失の日

 滑り台のごとく降りるのが理想だが実際にはそうはいかない。地面は歪んで棘とガラスの破片だらけのいばらの道。ならば親の買ってきた靴を信じて全速力で穴に向かって走るしかない。



 ひたすら足を動かす。体が傾くのを必死に抑え込み足を前に踏み出させ続ける。これだけやけになったのはいつぶりだろうか。試験が上手く行かなかった日か、友達を失った日か、そんな意味もない戯言を頭の中で躍らせる。



 ダンジョンの生成とは奇妙なものだ。地面に穴が開くという表現は厳密には過ちで、正しくは地面が穴になっているんだと言っていたのは俺の好きな配信者の言葉だ。なんでもダンジョンができるたびに地球の質量は減少しているらしい。



 その分のエネルギーが魔物やら素材に変換されているという研究結果はその実出ていないとのこと。物質をエネルギーに変えるという行為にしては生み出されているものがあまりにも少ないから完全に変化しているわけではなさそう、というところまで彼女は言っていた。



 穴の中心点に近づくと、ここまでくるともはや地面にしがみついている感じになっていて。俺の手が落ちてくるガラス片で傷だらけになる。あくまで刺さらない。少しのレベルアップでここまで至れるのであれば上位の人々はどんなに化け物じみた能力なのだろうか。



 飲み込まれていく地面の中から未だに直立するビルに目をつけ、抱き着くように飛び移る。



「ぐっっ……でもいけるぞこれなら!」



 未だに直立するビル、それは地面に入った支柱が極めて頑丈でこの後も落ちない可能性が高いということだった。幸いだったのはビルの2階以降の部分は既にへし折れてなくなっており、支えるべき質量も少ないということ。つまりこれに乗れば安全にエレベーターのごとく下に落ちていけるという寸法だ。



 足元に視界を移すと未だに奥底が見えない。ここで一つ想定をしてみる。仮にダンジョンコアのようなものがあった場合それらはどのように運用されているのか。



 仮にただの石だとか何かであるならばこの速度で落ちてくるコンクリートの群れに耐えられるはずはないのだ。つまり何らかの魔術でこれらの物体を飲み込んでいることになる。あるいは防ぎきっているのか、いずれにせよこのまま突っ込んだところで勝ち目はない。



(いや、本当にか……?)



 コンクリートの流れを見る。少し動き、止まり、止まり、急に動き出す。大きな生き物が大量の飯を食べさせられ飲み込めず焦っているような動きにようやく気付く。おそらく地面を食すのには限度があるのだ、何トンかは分からないが同時に食することはできない。その瞬間であれば安全に地面にたどり着けるのではないか、と考えたわけである。恐らくそこには何かが……そう思っていたところに一つの異様な声が響いてきた。下からだ。



『オチヌスチガウケリオ……』



 これが詠唱だと気づくまでに数秒、そしてそれが下に浮く何かが唱えていると理解するまでに10秒ほどかかりようやく意味を理解し、タイミングを合わせる。



 空から落ちてくるビルの群れにびくともしないあたり、おそらくそいつの周辺には障壁のような何かが張られていることは間違いない。そして確実にこの飲み込む現象は全て奴が行っている。だから飲み込むのに時間と魔力を使っている隙にこの手元の尖ったコンクリート片を叩き込めば。



 奴まで凡そ100メートルほど。再びコンクリートの飲み込まれる速度が遅くなり同時に上から落ちてきた車が勢いよく術者にぶつかる。それを見て勢いよく頭から俺は飛び降りた。



「んんっっっ!!!!」



 声は押し殺す。頭を下にして軌道がそれないように、できるだけ加速して障壁に車がぶつかった隙を逃さぬように、コンクリートの破片を高く掲げ、ナイフを振りかざすかのような構えを取る。



 飲み込む速度が完全に停止し、術者が動かすべく腕を振り上げ詠唱を再開、術式に魔力を注入しなおす。奇跡が必然が、その完璧なタイミングに俺は奴に向かって落下していた。



「死ねっ!『弱スラッシュ』!」

「なっ!」



 体のある程度出来上がった男の全速力での飛び降り、しかもそれを破片の先端に集中させての一撃だ。あまりにもあっさりと障壁は破れ男の胸と手に持つ蠢く丸い球に破片が突き刺さる。ぐしゃりという嫌な音と共に俺の身体が衝撃で潰れ、そして貫かれた球とともにコンクリートの呑み込みが一時的にではなく完全に停止していく。



 意識が消えていく。痛みのあまり、ではなく流れ込んでくる経験値の流れにより、だ。ステータス画面を限界の中開くと無限に数字が更新されてゆく様子が見えた。



四辻博人

レベル 9999

STR 8712 VIT 9643 INT 5923 MND 7632 DEX 4678 AGI 5698

HP 18739 MP 11839  SP 9999

スキル 『弱スラッシュ』



 この日、27個目のダンジョンは完成する前に破壊され世界に衝撃が走る。ダンジョンの破壊方法が存在したこと、日本国内二つ目のダンジョンによる利益と損害がまるごと消えたこと。そしてなによりダンジョンの経験値全てを独り占めした化け物が生まれた可能性に。

この術者、強いからダンジョンを作ったわけではなくダンジョンを作って強くなろうとしていた人間なんですよね。なので実力自体はかなり低く、奇跡がおきる原因になったというわけです。




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