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Role of the Star : Crecsent Moon  作者: 旧天
第一章 荒野の聖都市
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第三話 再会

匂いに釣られるように店へ吸い込まれていく。


「こんばんは」


酒場に入ると飲み食いしていた大人たちがリリィを睨みつけてきた。入店してきたのが女であること、剣を背負っていることから絡もうとして入り口の近くにいた大男が立ち上がる。だが、顔が少し暗いのは何故だろうか? そして酒場特有の喧騒もないのは何故なのか?


「あ、リリィ! 久しぶり~」


店の奥で無邪気な笑顔で手を振る少女を見たリリィは反転して別の店を探しに外に出た。


ーー静かだったのはこういうことね。


「すみません、間違えました」

「またれよ。一緒に食べよう」


しかし、回り込まれていた。先ほどまで店の一番奥の席で食事をしていた筈なのに反転したリリィの目の前に来ていた。リリィとは頭二つ分背が小さいのに腕を掴み軽々と引きずっていく。リリィは今まで付き合いから振りほどくのと逃走するのは無駄であることを知っているので大人しく引きずられていくが、ラルはカバンから飛び出すとリリィを掴んでいる少女の手をテシテシと叩く。少女は空いている手でラルをつまみ上げると眼前にもってきて子どもに諭すように言い聞かせ始めた。


「あなたの飼い主が空腹でお腹一杯に食べたいの分かる? そしてこの町はリリィにとって初めての街で警戒するも分かる? その中で落ち着いて食事に徹することができないのも分かる? 食事っていうのは生きる上で必要なものなのよ。肉体的にも精神的にも美味しいものを食べるのは生きる上でとても重要なことなのよ。そして今の世の中こんなにおいしい食事が出来るのは限られた人だけなの。それこそ運よく神罰を逃れられて天候にも恵まれて育てる作物が残った人しかね。ここは何故か無料で無限に食事が出来るけどリリィとかはこういうところでしかお腹いっぱい食べられないの。だから安心してたくさん食べさせてあげたいから私が守りたいの」


言い方は子どもを諭しているみたいだが言葉に殺意が込められていた。その殺気はリリィ以外の周囲の人にも向けられていた。幼い少女が出しているとは思えないほど強烈な殺気にあてられて大人たちが顔を青白くし見ないようにしている。リリィに絡もうとして立ち上がった大男はそのまま流れるように退店していった。


外で倒れるような音がしたのは気のせいだろう。


「ラル、少なくとも私には危害を加えないから威嚇しないで。ユイ、あ~んしてあげるからラルを返して」

「喜んで! リリィもここから食べていいよ」


ユイはラルをリリィに返すと無邪気な笑顔で先ほどまでユイが陣取っていた机へ戻っていく。ラルはリリィの肩に上ると怯えて縮こまり震えるその震いは激しくなる。リリィが落ち着かせようと撫でるが震えは一向に収まらずやがて気絶した。


「ユイ」

「ただの小動物が私を前にして無事で済むと思う? 私の本性を見ないうちに気絶させるのが一番安全だから。獣は本能的に感じ取っちゃうし。下手したらSAN値直葬で自我が崩壊しちゃうよ。そもそも、私が(ゼロ)の種族であることを知って無事なリリィがおかしいんだけど」


振り返らず言った言葉は明らかに声のトーンが落ちていた。顔は見えないが声のトーンが低いときは悲しんでいることを知っている。そして以前ユイの本性を見て大人どころか神々ですら自我が崩壊したことを見ていたのでリリィは何も言えず黙ってラルを鞄の中に入れてユイの方へ向かった。


ーーサンチチョクソウって何よ


机は四人用なのにユイしか使っていない。それなのに山のように盛り付けられた料理が机が見えなくなるほど置かれていた。使われていない椅子には何十枚とお皿が積み上げられている。それらを見てリリィは涎が垂れそうになるが視界の端で口を開けて待っているユイを見てバレないように拭う。


さっきまで悲しんでいた雰囲気はなく、食べさせられるのを待っている雛鳥のように幸せそうに口を開けて待っている。



リリィは一番最初に目に入ったチャーハンをスプーンで一さじとると何も言わずにユイの口に入れた。ナイフを突き刺すようにスプーンを差し出したがユイはタイミングを合わせて口を開閉して100回以上咀嚼してから飲み込むと恍惚とした表情となり転がりまわる。周囲の人たちは鬱陶しそうに見るが転げまわっているのがユイだと知ると自ら椅子をどかして邪魔にならないようにする。


「う~ん美味しい! 魔力を回復するために大量に食べ物を食べなくちゃいけないのは概念魔法の使い手としては悩みの種だよね」

「それは同意するけど燃費の悪い壱式と弐式の使い手であるユイと一緒にしないで」

「いっぱい食べる女の子は嫌い?」

「メイドとしては沢山食べてくれる子は好きだよ」

「私は沢山食べるよ。リリィの手料理ならーー」


ユイを無視してリリィはチャーハンの次に目に入った焼き魚を口に入れる。とにかくお腹が空いていた。食料が尽きた後、魔力がなくなるまで言霊魔法で食べ物を出していたが魔力を節約するために簡素なものしか出していなかった。水、塩、そして芋。味はともかく栄養があるものしか出していなかった。


「ん!?」


ただ塩をまぶして焼いただけの魚だが絶妙な火加減のお陰で身に美味しさが詰まっている。

空腹、月単位での久しぶりのまともな食事、そして店主の腕前により絶品となった料理に忘れていた食事の素晴らしさが蘇り思わず涙を流す。


神々に復讐を誓ってからは食事は最低限しかしないようになった。そもそも料理は味気ないものばかりだった。まず肉や魚などは滅多に食べれなかった。野菜や果物も肉などと比べれば取れやすいが狂った天候の関係上案定して取れる訳ではない。


酷い場所では亡くなった人の肉を食べることがあった。子どもが泣きながら友人の死体を食べていたのを目にしたこともある。


ある程度再興した町では育てやすいが味のしない芋が食べられるが塩以外の調味料がないから蒸かし芋ぐらいしかない。もしくは干上がった海から取ってきた塩を使ってレーションにするぐらい。足りないビタミンは雑草を接種して補うなどしていた。


勿論まずい。


だからこそ今まで食べたことがないほど美味しく感じられた。


ーー料理ってこんなに美味しかったんだ。


涙を流しながら何度も口に運んでいく。文字通り箸が止まらない。その様子を目に焼き付けようと凝視しているユイは鼻血がダラダラと垂れていた。いつものことなのでリリィは気にせず食事をする。机の上にあった料理が無くなると即座に注文して食べ続けた。

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