水の桜
今日もまた
マーブルナイト
水の桜
コイワズライ
なんてね。
今日も、そっとスマホを開いて、LINEをタップする。もちろん、通知なんて来ていないのだけれど、タイミング良くメッセージが来ないかと期待している自分がいることに気づいていた。
「まぁ、来ないよねぇ」
すぐにスマホの電源を切って、わたしは代数のルーズリーフを取り出す。そろそろ試験一週間前になる。本腰を入れて勉強しなければならない。
二日目の教科である代数は、わたしの苦手教科だ。この字を見ると鬱々してくる。使い方が違うと思うけど、まぁいいか。
ピロリ、とスマホが音を立てる。代数を始めてからちょうど一時間だ。休憩にもいい時間帯だろう。わたしは、置いてあったスマホを取り出して、パスワードを入力する。ふと日付を見ると、12月5日という微妙な日だった。
もう、12月に入ったのか、と思いながら、LINEを一時間越しに再びタップした。
「……?」
待ちわびていた人からのLINEとは、こんなにも嬉しいものなのか。それを証明するのは、わたしの胸の鼓動だ。とんでもなくバクバクと波打ち、自分でも聞こえるほどに鳴っている。
震える右手で、そっと見てみる。
『少し、いい?』
なんて典型的な台詞ですら、わたしの心を抉って出血させる。でもその鮮血はとても綺麗で、恋焦がれる艶やかなものだ。
『いいよ』
『ちょっと恋愛の話になるんだけど』
『うん』
わたしも前、『恋愛の話なんだけど』と切り出したことがあるな、ちゃんと覚えていてくれたのかな、と考える余裕もなかった。次の彼の言葉をただひたすらに待っていた。
緑色の吹き出しが出てくるはずの場所を、穴が開きそうなほど見つめる。瞬きなんて時間の無駄、できるはずもなかった。
『あの』
「ねぇ」
「ん?」
わたしの隣に立つ、背の高い男性がわたしの方を見てくる。わたしも見上げて、視線を合わせる。
「もう、三週間たったよ」
「そうだね」
彼は、何でも覚えていてくれる。わたしが覚えていてほしいと思った全てを、覚えていてくれる。
初めの頃は、お互いに恥ずかしくて、「バイバイ!」と叫んでもシカトされてしまった苦い記憶なんかがちらほらある。
でも、今では、目が合っただけで緊張するのは変わらないにしても、微笑むくらいはできるようになった。
「すごいねぇ……」
「どっちが?」
ふわりとした優しい声が、わたしを包む。柔らかくて暖かい日差しの毛布にくるまったわたしは、体温を感じるために手を差し出す。
指先が冷たくなっている彼の手を温めつつ、お互いの体温を感じ取りつつ、わたしは口角を上げた。
「どっちも」
目の前と眼下に広がる眩しいほどのイルミネーション。いわゆる穴場の絶景スポット。わたしにとびっきりのクリスマスプレゼントをくれた彼のときめく抱擁と熱い接吻で、わたしはもう、文字通りにとろけてしまった。
12月25日。クリスマス。聖夜。
ファーストキス。
遊園地にイルミネーションに水族館に。わたしの友達と彼の友達もまた付き合っているため、ダブルデートもたまにする。でも、やっぱり一番は二人だけで過ごす光と闇のマーブルナイト。
固く握りしめた彼の手を絶対に離さぬように。彼がわたしから離れて行かぬように。わたしはいつまでも、コイワズライ。
使い方が違うと思うけど、まぁいいか。
きらめく恋のプレゼント。
ときめく愛のクリスマス。