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詩雨の短編集  作者: 詩雨
詩雨のはなし
1/9

さよならだよ

君へ。



「どうしよう。初めてだよ。わたしから告白したの」


 と君に言われたとき、わたしの目の前は、真っ赤だった。君たちの薔薇色の未来が見えた。





「良かった。幸せになってね」


 と思っていたのは覚えている。でも、君にこう言ったかは覚えていない。夢も希望も、愛以外何もないわたしが君に言う資格など、ないと思った。





「そうだ。見る?」


 君に渡された君のスマホ。画面に映るのは、君の隣を歩いて行く人からの、熱い想い。





「君が、好き」


 君が先に行った道で、零した。ずるい。卑怯、わたしだって、大人になりたい。








馬鹿。








 いつも隣で、笑っていた君の手のひらの温もりを、わたしはまだ知らないのに。あの人は、わたしより先に知ってしまうから。


 わたしの方が先に


 君に恋をした。








 君の首にかけたマフラー。君の落としたプリント。君に貸した手袋。柔らかい抱擁も、何気ない会話も、阿保みたいな笑い声も。


 君のが一番だよ。


 君とわたしのが、一番だよ。


 正直、ショックだった。家に帰ったら、胸の奥から突然感情が沸き上がってしまった。駄目だと知りながら、泣いた。


 君の好きな、あの夏の歌を歌いながら。


 夜、勉強を終えてから、あの子のあの歌を聞いた。一人で号泣した。目も腫れて鼻水もグズグズ、顔なんてぐちゃぐちゃで。


 感情もぐちゃぐちゃで。


 失恋ソングを聞きながら、君を想ったよ。


 君と目が合うたびに、今日は苦しかった。朝なんて、わざと君を視界から切り離してしまった。話しかけてきてくれて、惨めだと思った。





今だって、泣いてるよ。





 君は優しい人で、強い人で、面白くて、根っからの天然でドジ。でしょう?


 君は馬鹿で阿保で、笑いながら、君を愛する人の心を削る。今もそうやって。





「早くしないと、置いて行くからね」





 でも、全部それが君って知ってる。仮面じゃないんだろうなって、思った。君は、素直だ。


 君への愛以外、わたしには何もないかな。





 早いけど、まだ一年も一緒にいないけど、思い出でもう壊れちゃいそう。思い返せば、わたしの中に根付いている人は君しかいなかった。





夜しか眠れないから。





 君は、自分が嫌いだと言ったね。大嫌いだって。


 君は、わたしを優しいと言ってくれた。違うよ。


 わたしもわたしが嫌いだよ。大嫌い。


 こんな風に大好きな子の幸せを妬いてしまう。


 わたしなんて、いなくなっちゃえ。





 綺麗な空だね。


 絵に描いて、見せてよ。


 君の絵が、見たい。





 目を閉じれば、制服姿で振り返る半袖の夏の君が、笑って、こっちを見ている。


 今までなかった道の先が出来て、奥で君の彼氏がいるね。


 一回くらい、手を繋ぎたかった。


 君のおかげでわたしが広がった。わたしが生まれた。


 初めて、「わたし」が出せた。


 好き。





 君の隣を歩く時が、好きすぎて。


 誰にもとられたくなかったんだよ。


 君の隣。


 君を愛するのはわたしが一番って。


 そう思っていたかったんだよ。





 来年の夏は君がわたしの隣にいないね。


 君のクリスマスは、ダブルデートの予定で埋まってるかな?


 君の誰かとのカラオケの最初は、彼氏かな?


 せめてもう一個の約束はわたしを一番にしてね。


 わがままでごめんね。


 今日の空にも、明日の空にも、ずっと、君はいない。


 君がいなくちゃ、居場所なんてないんだよ。





「とられた」





 涙で画面が見えないよ。誤字があったら明日、直接教えてね。


 君の笑顔も声も、何もかも、君がいるなら、何でも愛せる気がしたよ。


 君は、尊くて綺麗で輝く夏の夕方だよ。


 バス停の裏で、いつまでも待っててよ。


 また、君の隣をわたしだけにしたい。





 こういうところが、嫌い。


 独占欲が無駄に大きいわたしが嫌い。


 こんなに友達を想ったことがないから。


 あの子とは違う好きかもしれないけど、わたしも君を好きだってこと。


 忘れないで。





 君との思い出も、君に関する記憶も、何もかも消してしまえって。


 忘れてしまえって。


 何度思ったと思う?


 今だって思ってる。


 今だって想ってる。


 鬱陶しくても。


 心が優しい君なら。


 心が優しい君。


 ……わたしは?





 この暗くなってきた空に君がいなくても。


 次の夏に君がいなくても。


 思い出の淵に君しかいなくても。


 生きる意味が君でも。





「好き」





好き。











 バカ。











* * * *





「……わたしと彼氏だったら、どっちがいい?」


「……わかんない」


「……うん」





* * * *





「わたしと彼氏だったら、どっちがいい?」





「……彼氏……かな」





「……うん」





 それで、いいんだよ。





 そのときはわたし、笑うから。





* * * *


 やきもちだね。君の彼氏を焼いてるみたいだ。


          君の彼氏に妬いてるみたいだ。


 ただのクズの戯言だよ。


 君たちはちゃんと恋してね。





 おめでとう。


 ありがとう。


 ごめんね。 





 さよなら。


わたしより。

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