さよならだよ
君へ。
「どうしよう。初めてだよ。わたしから告白したの」
と君に言われたとき、わたしの目の前は、真っ赤だった。君たちの薔薇色の未来が見えた。
「良かった。幸せになってね」
と思っていたのは覚えている。でも、君にこう言ったかは覚えていない。夢も希望も、愛以外何もないわたしが君に言う資格など、ないと思った。
「そうだ。見る?」
君に渡された君のスマホ。画面に映るのは、君の隣を歩いて行く人からの、熱い想い。
「君が、好き」
君が先に行った道で、零した。ずるい。卑怯、わたしだって、大人になりたい。
馬鹿。
いつも隣で、笑っていた君の手のひらの温もりを、わたしはまだ知らないのに。あの人は、わたしより先に知ってしまうから。
わたしの方が先に
君に恋をした。
君の首にかけたマフラー。君の落としたプリント。君に貸した手袋。柔らかい抱擁も、何気ない会話も、阿保みたいな笑い声も。
君のが一番だよ。
君とわたしのが、一番だよ。
正直、ショックだった。家に帰ったら、胸の奥から突然感情が沸き上がってしまった。駄目だと知りながら、泣いた。
君の好きな、あの夏の歌を歌いながら。
夜、勉強を終えてから、あの子のあの歌を聞いた。一人で号泣した。目も腫れて鼻水もグズグズ、顔なんてぐちゃぐちゃで。
感情もぐちゃぐちゃで。
失恋ソングを聞きながら、君を想ったよ。
君と目が合うたびに、今日は苦しかった。朝なんて、わざと君を視界から切り離してしまった。話しかけてきてくれて、惨めだと思った。
今だって、泣いてるよ。
君は優しい人で、強い人で、面白くて、根っからの天然でドジ。でしょう?
君は馬鹿で阿保で、笑いながら、君を愛する人の心を削る。今もそうやって。
「早くしないと、置いて行くからね」
でも、全部それが君って知ってる。仮面じゃないんだろうなって、思った。君は、素直だ。
君への愛以外、わたしには何もないかな。
早いけど、まだ一年も一緒にいないけど、思い出でもう壊れちゃいそう。思い返せば、わたしの中に根付いている人は君しかいなかった。
夜しか眠れないから。
君は、自分が嫌いだと言ったね。大嫌いだって。
君は、わたしを優しいと言ってくれた。違うよ。
わたしもわたしが嫌いだよ。大嫌い。
こんな風に大好きな子の幸せを妬いてしまう。
わたしなんて、いなくなっちゃえ。
綺麗な空だね。
絵に描いて、見せてよ。
君の絵が、見たい。
目を閉じれば、制服姿で振り返る半袖の夏の君が、笑って、こっちを見ている。
今までなかった道の先が出来て、奥で君の彼氏がいるね。
一回くらい、手を繋ぎたかった。
君のおかげでわたしが広がった。わたしが生まれた。
初めて、「わたし」が出せた。
好き。
君の隣を歩く時が、好きすぎて。
誰にもとられたくなかったんだよ。
君の隣。
君を愛するのはわたしが一番って。
そう思っていたかったんだよ。
来年の夏は君がわたしの隣にいないね。
君のクリスマスは、ダブルデートの予定で埋まってるかな?
君の誰かとのカラオケの最初は、彼氏かな?
せめてもう一個の約束はわたしを一番にしてね。
わがままでごめんね。
今日の空にも、明日の空にも、ずっと、君はいない。
君がいなくちゃ、居場所なんてないんだよ。
「とられた」
涙で画面が見えないよ。誤字があったら明日、直接教えてね。
君の笑顔も声も、何もかも、君がいるなら、何でも愛せる気がしたよ。
君は、尊くて綺麗で輝く夏の夕方だよ。
バス停の裏で、いつまでも待っててよ。
また、君の隣をわたしだけにしたい。
こういうところが、嫌い。
独占欲が無駄に大きいわたしが嫌い。
こんなに友達を想ったことがないから。
あの子とは違う好きかもしれないけど、わたしも君を好きだってこと。
忘れないで。
君との思い出も、君に関する記憶も、何もかも消してしまえって。
忘れてしまえって。
何度思ったと思う?
今だって思ってる。
今だって想ってる。
鬱陶しくても。
心が優しい君なら。
心が優しい君。
……わたしは?
この暗くなってきた空に君がいなくても。
次の夏に君がいなくても。
思い出の淵に君しかいなくても。
生きる意味が君でも。
「好き」
好き。
バカ。
* * * *
「……わたしと彼氏だったら、どっちがいい?」
「……わかんない」
「……うん」
* * * *
「わたしと彼氏だったら、どっちがいい?」
「……彼氏……かな」
「……うん」
それで、いいんだよ。
そのときはわたし、笑うから。
* * * *
やきもちだね。君の彼氏を焼いてるみたいだ。
君の彼氏に妬いてるみたいだ。
ただのクズの戯言だよ。
君たちはちゃんと恋してね。
おめでとう。
ありがとう。
ごめんね。
さよなら。
わたしより。