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時に彼女は嘘と嗤う  作者: ネコバコ
序章~彼女らは嗤い続ける~
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第5話『真実と闘い』

 





「あら、私が何の嘘をついてるというのかしら。言ってみなさい」


 前嶋の豹変の影響か、綾宮は少しだけ彼女に恐怖を感じた。

 声を震わせながら冷静さを保つ。

 二人は立ち上がり、少し距離をとりながら服を整える。

 前嶋の背中は地面に倒れた時のせいで汚れている。


「⋯⋯あのさ、まずあの時のこと、なんて言っても会ったことなくない?」


 前嶋 未来がこの高校に入学したのは四月十日。そしてこの部活に入部したのはその日から一週間程後で、まだ入部して二日しか経っていない。


「せんぱーい、頭沸いちゃってません? 嘘つきにも程というものがありますよ」


 違う。そうじゃない。私が全て正しい。この女の言っていることは全てデタラメで、間違っている。

 綾宮は確かに、この女に人生を壊された。

 しかし、綾宮は黙り込んでしまった。



「⋯⋯ねぇ先輩。私がこの部活に入った目的、当ててみてくださいよ」


「⋯⋯目的?」


 この高校にはたくさんの部活があるのにも関わらず、唯一、目立ちもしないこの部活を選ぶには確かに理由があるはずだ。

 綾宮自身は、前嶋と接触するためにこの部活に入部したが、まだこの女が入っている理由を知らない。

 男作りか? 友達作りか? 違う。そんなものでは無いはず。


「⋯⋯ぶっぶー。時間切れぇ」


 前嶋の不正解の合図と同時に、ファミレスで流れている曲が終わり、静かな時間ができた。

 すると前嶋は先程叩かれて落ちて割れたスマホを拾い、それを綾宮に向けた。



「けどここで正解言っちゃうと面白みがないんで、私とゲームしません?」


「なんでこんな時にゲームなんか⋯⋯」


 前嶋はそう言うとトイレのドアの鍵を閉めた。先程まで少し騒がしかった客の声が一切聞こえなくなった。



「ルールは簡単です。ここで二人で向き合って目を瞑り、最初に開けてしまった方が負けです」


 このゲームの内容に綾宮は一つだけ疑問を持った。

 二人とも目を瞑ったら、勝者が分からないのでは?

 そして、何故ここでゲームを仕掛けてきたのか。

 ただ、ここまで来てしまったからには引くことは出来ない。


「先輩が勝ったら私がこの部活に入った理由を言いましょう。ただ先輩が負けたら⋯⋯」



 前嶋はそれ以上は言わなかった。嗤いながら両手をポケットに入れる。

 勝利しなければ一体何があるのか? このゲームに勝機はあるのか?

 綾宮は考えに考えるも前嶋の頭の中を探ることは出来ない。



 すると、前嶋はスタートの合図もせずに目を瞑った。

 その表情はまるで、もう勝利を確信しているかのようである。

 綾宮は仕方なく前嶋の前で目を瞑った。

 暗くて、静かで、何が起きているかもわからない恐ろしさ。

 先程の前島の様子では、一体何をしてくるのか分からない。豹変しきった前嶋は今何をしているのか。

 目を瞑っているので前嶋が本当に目を瞑って大人しく立っているのか分からない。



「⋯⋯先輩。目、瞑りました?」



 何も見えない真っ暗な空間の奥で、前嶋の囁く声がした。

 目を瞑ってはいるが、その恐怖心からか膝が笑っているのが直ぐに分かった。



「⋯⋯あんたはどーなのよ。何してるの?」



「んーうふふふふ。ご心配なーく。ばっちり瞑ってますよーん」



 この女のことである。きっと何かをしてくるに決まっている。

 そして、綾宮はなにかに気づいた。先程よりも声が近くなっているような気がしたのだ。




「あれぇ? 先輩。目、開いてますよぉ?」




 近い。明らかに声が近い。若干伝わってくる前嶋の吐息。

 この女は私で遊んでいる。

 この女に徹してはいけない。

 綾宮は絶対に目を開けないように、目を強く瞑っていた。



 しかし────




「⋯⋯!!!!」





 恐怖に押しつぶされそうになった綾宮は耐えきれず、目を開けてしまったのだ。

 闇から解放される感覚は朝起きた感覚そのものであった。筈だったのだ。







「⋯⋯何よ」






 綾宮の眼球とほぼ何ミリ程度と言ってもいいだろう。


 向けられていたのは長さが定規位のカッターナイフだった。

 綾宮の左眼にはカッターナイフ。右眼には前嶋の変わりきった顔が写った。




「先輩。だから言ったのに。目、開いてますよって」



 綾宮は逃げようと試みるも、少しでも動けばカッターナイフの先端部分に当たる寸前だったので、一切動くことも出来ない。


 初めからこの女はゲームといいながら、私を脅すことを目的としていた。そして、ドアの鍵を閉めたのも誰にもこの状況を見られないようにするため。

 綾宮は大きな深呼吸を一つして、笑顔をみせた。



「⋯⋯⋯⋯じゃあ選んでください。ここで死ぬか、ユウスケ先輩に告白するか」



「⋯⋯!? なんで彼の名前がここで出てくるのよ。それに告白なんて⋯⋯」



 突然の宣告の内容があまりにもおかしすぎる。死ぬ? ユウスケと付き合う? どうしてそうなるのか。第一、死ぬなんてごめんなのでユウスケに告白するなんて、それもプライドが許さない。ただ、もし死ぬことなんて選んでしまったらカッターナイフが真っ直ぐ飛んでくるかもしれない。この女なら殺りかねないだろう。

 綾宮の心臓の鼓動が速くなる。自分でも速くなるのが、分かる。



「はやくして」



「⋯⋯どっちも選べない」



 綾宮が選んだ答えは、選べない。死ぬのもおかしいし、ユウスケに告白するのもおかしい。しかも後輩という身分で先輩を弄んでこんな選択を迫るのもおかしい。

 そう思った綾宮は覚悟を持ってどちらも選ばないことを選んだ。しかし────




「⋯⋯先輩」



 その一言と共に、カッターナイフを持っている手がだらんと下りた。ようやく自分がおかしいことに気づいたのかと、思っていたのだが。




「ぶち殺すぞ? おい」




 どこから出たのかもわからない、本当に前嶋本人から出たのかも分からないような言葉が響き渡る。

 前嶋はカッターナイフをカチカチと、刃を出し入れする。






















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