第20話『運命のイタズラじゃないわこんなの』
木原は息を呑み、もう一度舐めるように楠からの返信を見返したが全くもって理解不能だ。
咲野が不安げにこちらを見ているがそんなことを他所に木原の頭の中はクエスチョンマークだらけ。
私たちの部活を救って欲しい?
これは何かのドラマだろうか。
突然話しかけてきたと思ったらまさかの救助要請。
何が起きたのだろうとか思うより前に送られてきた一文が気になって仕方がない。
「ノコ? お腹空いた。何かあった?」
「いや、質問してんの? 腹減ってんの? 一気に喋んないで分かりづらい」
咲野は不気味なダンスを突然踊りだし、木原のツッコミをいつもの様に無視するとそのままこちらに向かってくる。
「楠の部活といえば⋯⋯。えーと⋯⋯」
一緒のクラスになってからほとんど口を聞いてないのもあるが、まず木原自体が陰キャということもあり、女子と話さないので部活を把握出来ていないのである。
ただ、新学期のはじめの方にあった部活動集会で集まった際に楠を見かけたような気がした。
「料理研究部」
木原が思い出す前に咲野が突然言った。
電子レンジから取り出している餃子の湯気で咲野の顔が覆われている。
咲野は一つため息をついて口を開いた。
「ノコは考えてることすぐに声に出すから」
「まじ? 出てた?」
咲野はこくこくと頷きながら餃子にポン酢を大量にかけた。
これも悪い癖。
思ったことをすぐに独り言のように声に出してしまう。しかも無意識に。
ただやっと楠の部活が分かった。
料理研究部というなんともどこかの部活とよく似た名前である。(か、から始まる部活だよな?)
「にしてもよく分かったな。不登校のお前が」
「授業ある日は行かないだけでそういう日は行ってるの」
咲野は大量のポン酢でひたひたになった餃子の上にさらにエグい量のからしを絞り出している。もはや食べ物ではなくなっている。
しかし、料理研究部が何故自分なんかに助けを求めているのか。
もっと他に宛があるはずなのだが。
厄介事ならそこは勘弁して欲しいところではある。
「とりあえずこれ、どう返信すれば⋯⋯」
スマホの上で指をクルクル回しながら返信の内容を考えていると箸をくわえた咲野が突然スマホを取り上げ、何かをし始めた。
「なっ、何すんだよ咲野!!」
「んごぉ、んぐんぐ、んごぉあ!」
「全くわからん!!」
箸をくわえているので、箸だけ動いて何言ってるのか分からないが、自分のスマホで何かされているのは一目瞭然である。
しかし、咲野はすんなりとスマホを返してきた。
「⋯⋯何したの?」
「ノコの代わりしてあげたの」
何やら意地悪してやったみたいな顔で咲野は餃子を持っソファーへと戻っていく。
あの顔は何かした顔だとすぐに察することが可能だ。
恐る恐るスマホを見てみると、予想通りである。
木原『OK♡ あとは任せろ☆』
「うわぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!」
木原の奇声がリビング中に響いた。
予想を遥かに超える程のイタズラ。
これをイタズラと言ってもいいのか!?
ハートも星もついてるし、ほぼ初対面の返信内容ではないだろう。
しかも救助要請にあっさりと承諾しているという最悪の事態。
まだ内容すら聞き出せていないし、ここは慎重に会話を進めていってそれから承諾すべきなのに、終わった。
木原は送信を取り消そうとするも、機種が古すぎてできない。
「さ、咲野ぉぉぉぉお!!!!」
「んぐ、もごぉ? んぎんぐぽへぉぁ!!」
「飲み込んでから喋れよ!! ⋯⋯ってツッコんでる場合じゃねぇーー!!」
木原はキッチンとテレビの前を楠とのトーク画面を見ながら行ったり来たりする。
やらかした張本人は呑気にテレビみながら餃子食ってるし、コノノは毛繕いしてるし、楠からの返信もないし、とにかくやばい。
「ノコはそれくらいやらないと駄目」
「これはやりすぎだよ!? なんせ相手はほぼ初対面だぞ!!」
咲野は顔色一つ変えずにポン酢とからしが入り交じった汁を飲み干してからまた息を一つ吐きながら言った。
「どんまい、ノコ」
「誰のせいだぼけぇぇぇぇ」
木原の返信を最後に、その日に楠からの返信が返ってくることはなかった。
────次の日の朝、楠のからの返信が。
「⋯⋯ない」
昨日すぐに返信が来ていた楠があのメッセージを送った瞬間から一切何も言ってこないのはおかしいと思ったのだ。
明日になれば何かしら送ってきているだろうという浅はかな考えは寝起きの木原の精神状態を更に悪化させた。
どうする!? 何か送ってみるか!?
髪の毛をわしゃわしゃしながらベッドの上で転がりながら考えるが、答えが出ない。
さらに不運なことに起きた時間が学校が始まる十分前という考える暇さえくれない神様のイタズラ的なことになっている。
「⋯⋯も、もういいや! 学校でどうにかする」
そう一人で言いながら木原は飛び起きて制服に着替え始めた。
学校でどうにかするという考えは本人でさえ到底不可能な事であることは理解していた。
鷺ノ宮と前嶋とどう接すればいいのか、という課題がまず残っていたからだ。




