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大学生・由良美香のアルバイト事情 ~そのアルバイト、恋愛禁止につき!~  作者: 鶯埜 餡
死が二人を分かつまで

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死が二人を分かつまで

遥彼方様主催「夏祭りと君」企画出品作品です。


浴衣イケメン要素はある……はず←

 さて、学生諸君。

 夏と言えば何を思い浮かべるかね。


 長期のアルバイトに自動車免許の取得合宿、普段行けない同じ中学(おなちゅー)友人(ダチ)との旅行。


 なるほどねぇ。

 だが、忘れてはいけないものがあるよ。





 それは、『夏祭り』だ――――――





「おーい、美香」


 いけないいけない、今は診療中だ。

 政幸さんの声に私は現実世界に引き戻された。


「申し訳ありません」


 患者さんにぺこりと頭を下げ、会計を始める。今日の患者さんはこの方で最後だ。


 しっかし、ここに戻ってきて早一年、バイト時代から数えると累計五年なのかぁと、感慨深くなった。


 もうこんなにも時がたつんだ。


「今日のお前、元気がないな」

 片付けを終えたようで政幸さんが、受付のそばまでやってきた。もうすでに夫婦の私たちだから、人目を気にすることもなく、気軽に話せる。


「そうですか?」

 私はちょこんと首を傾げた。元気がない、か。間違っちゃいないのかもねぇ。



「そうかもしれませんねぇ。だって、相原さんも相馬さんも立て続けに亡くなっちゃったんですし、佐々木先輩も優華さんを置いて、東京まで行っちゃうことになったんですし」



 そう。


 つい先日、鹿野歯科に来ていた患者さんが二人立て続けに亡くなったことや、親しくしていた会社の先輩も大恋愛の果てに結婚した奥さんと離れ離れで暮らすということを知ってしまったからだ。



 最初に知ったのは、近くに住む女子高校生の相原さんのこと。

 三か月ほど前、小さい子をかばって亡くなったと報道されていた。

 どこかの社長令嬢だったことや、弓道大会直後だったということもあり、交通事故としては結構、大きな報道だったのではないかと記憶している。


 そして、次知ったのは、遠くから通ってくださっていたOLの相馬さんのこと。

 彼女も付近の交通量の多い場所でトラックにはねられたらしい。ただ、相原さんと違って、ただのOLだったせいか、大々的なニュースにはなっていなかった。




 立て続けに二人が亡くなったことに加え、会社でお世話になった佐々木康太先輩が異動で東京に行くことになり、先輩の元同級生であり、奥さんである優華さんを置いていくという話を優華さん本人から聞いたのだった。

 働いていた時からの付き合いで、優華さんの連絡先は知っていたので、佐々木先輩の異動話が持ち上がった時にテレビ電話をしたら、口では寂しくはないと言っていたけど、その目は少し寂しそうだったのを覚えている。



 そうやって、様々な人が様々な方法でいなくなってしまう中、いつ私たちにそういったことが起こるか分からない。

「そうだな」

 政幸さんも私が言いたかったことに気付いたようだった。

「今週は予定は何もなかったよな?」


 どういうこと?


 私は訳分からず、もう一度、首を傾げると、政幸さんは自分の手帳で予定を確認していた。

「――――大丈夫そうだ。予定を入れるな。連れていきたい場所がある」

 とだけ言って、それ以上は何も言わずに診療室から去っていった。


 もう。相変わらず何も言わないんだから――――!


 私はため息をつきたくなったが、今更だと思い返し、諦めて政幸さんの後について行った。






 そして、週末、土曜日の診療が終わった直後。


「えっと、これは――――?」


 ここは江美子様の部屋。

 私はナース服から私服に変えた瞬間、江美子様に拉致され、この部屋まで連れてこられて、見せられたものに驚きを隠せなかった。


「浴衣よ。見て分かるでしょ?」

 江美子様はそうあっけらかんと、仰る。


 そりゃぁ見れば、浴衣だっていう事は分かる。

 だが、なぜ、それが数十着もあるんだ?


「あなたに着てほしいって、政幸が言ったから時間もなかったし、私のお古で申し訳ないんだけれど」

 そう申し訳なさそうに言うのは江美子お義母(かあ)様。この人は嫌がらせでそんなことを言ったりしたりする人ではないのを私は知っているから、その言葉も文字通り捉えていいだろう。


「いえ――――十分、私にはもったいないものです」


 私はその中のある一着を手に取った。

 他のものは、赤や黄色などの少し派手な色だったけど、その浴衣の色は私にとって一番思い入れのある色でもあった。


「やっぱりあなたならそれを選ぶんじゃないかって、政幸も言っていたのよ?」

 江美子様が微笑みながらそう言う。


 どうやら、母息子に謀られたらしいが、嫌な気分にならなかった。


 よく見てみると、その浴衣は有松・鳴海絞りの生地で作られていた。

 有松・鳴海絞りとは絞り染めと呼ばれる方法で染色する方法であり、その絞り一つで文様が変わってくるのだから、実に奥深いものだ。


 まぁ、あの青いベネツィアンガラスのペンダントを選んだ人ですから、政幸さんもそれを覚えていてほしかったのだろう。

 私はそっとため息をついた。もちろん、このため息は呆れや諦めという意味ではない。


 純粋に嬉しかったのだ。


「じゃあ、全部脱ぎなさい」

 江美子様の声に私はぎょっとした。


 ここで脱がされるっていう事ですか?


「だって、あなたあまり着物を着たことないでしょ?」

 そういう江美子様の目は捕食者のそれだ。



「ハイ」



 私は観念して、されるがままになった。





 三十分後。


「さ、行ってらっしゃいな」

 江美子様のキラキラとした笑顔がまぶしかった。



 お義母様の着付けにより、立派な浴衣女子になったのです!


 高校生の時まで浴衣を着たこともなかったし、空白の六年間だって浴衣はきたことがない。

 そして、大学生になってからも、夏祭りに行く余裕も雰囲気もなく、四年間を過ごしてきた。


 だから、私にとって、浴衣デビューでもあるのだ!


 だけど、これからどこへ行くのかも説明されていない私は訳分からなかったが、玄関に行くと、政幸さんがすでに待っていた。


「――――――!」



「驚いたみたいだな」

 そういう政幸さんはいたずらっ子のようだった。



 そりゃぁ、驚かない方が無理でしょう。


 だって、私と同じ有松・鳴海絞のり浴衣着ていらっしゃるんですよ――――。


 私は私服の政幸さんやタキシード姿の政幸さんも見たことはあるが、浴衣はない。私なんかよりも、政幸さんの方が数段、似合う。



 めっちゃ良い――――!



 私の脳内パニック何ぞお構いなしに、私の手を取る政幸さん。その顔は、嬉しそうだった。



「似合っているよ。さあ、行こうか、奥さん」


 そう屈んで耳元で囁くのやめてください。

 多分、私はその言葉に真っ赤になっていることだろう。


 恥ずかしさを消すために、政幸さんの手を軽くつねる。おいおい、と政幸さんはぼやくが、知ったことではない。





 私たちはしばらく無言で道を歩いた。

 昔、大学生だった時に一人でよく散歩で来た道だとは思うが、暗いので、判断がつかなかった。



「もうそこだ」


 そう言われたのは、草むらの近くだった。サラサラという音が聞こえることから、多分、大学近くの川、弘安川の土手だろう。


「――――間に合った」

 ぼそりと聞こえた言葉に私はどういう事? と見上げるが、返事が返ってこない。それどころか、行くぞと言って、手を引いていく。この斜面を、階段がないところを登っていくようだった。

「え――――待ってください」

 そう言って、私も政幸さんの後をついて行くと、暗くて見えないが、一応は階段があるようで、上りやすかった。



 私が土手の上に辿りつくと同時に、大きな音が聞こえた。


 ヒュウゥ――――ドォーン


「――――――え?」


 紛れもなく花火の音だった。

 そして、続けて何発も花火が打ち上げられた。


「――――――――――綺麗」


 思い切り見惚れていた。だから気付かなった。


 危うく土手から滑り落ちそうになったのだ。


 が、それを政幸さんが抱き留めてくれた。

「危ないっ――――ったく。君は相変わらずだな」

 すみません、と謝った私は政幸さんに身を任せた。


 そういう政幸さんの口調は嬉しそうだった。私もそれにつられて無性に嬉しくなった。






「弘安川の夏祭り――――いつか、君ときてみたかった」

 しばらくしてから、政幸さんがしゃべり出した。


「だけども、美香がバイト(・・・)である以上、私用で君と接触できなかった」

 そうだ。バイトの時――――それも大学一、二年の時は政幸さんに恋愛感情を持っていなかったし、そもそも『政幸さんに恋愛感情を持つ』ことがタブーだったから、たとえそういう機会があったとしても気付かなかっただろう。


「だから、美香がこないだ、ああいってくれた時は嬉しかった」


 その言葉に、私も嬉しくなった。

「――――私も嬉しいです、よ?」

 そう言って、私は背伸びをして、政幸さんの唇に自分のそれをそっと触れさせた。


「――――――おい」

 政幸さんは私を抱く力を強めた。

「そんなことをしたら、どうなるか分かっているのか?」

 その言葉に私は微笑んだ。


「当たり前でしょう? だって――――あなたの妻だもの」


 政幸さんの妻という立場には責任もあるが、私はすでにそれを受け入れている。


「ああ、そうだな」

「死が二人を分かつまで――――ね」

「ああ」


 静寂があたりを包むが、私たちはそれを気にしなかった。

 むしろ、今までの分、二人で寄り添っている時間を取り戻したかのようだった。



 遠くに見える打ち上げ花火だけがその存在を、見つめていた。

 なんだか、すみませんm(__)m


 この話に出てきた三人(三組)とも見覚えのある方にはにやっとしてしまう人たちです。


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