結婚記念写真
「結婚式挙げなくていいよ」
私はそう言った。
友人たちとは私の統合失調症のせいで音信不通だったし、親戚を集めて会場を決めて…?もう嫌だ。
夫も統合失調症だったが、私と結婚するために精神病院内の支援センターでピアカウンセラーの仕事に就いた。夫が若いときに働いてためた500万があって、切り詰めれば生活していける!そうなってから籍だけを入れた。それまでは同棲していた。
夫はペーパードライバーで、車の運転は私がしていた。
「ねえ、あそこ!」
車窓から指差す。
かつて結婚式場だったけれど、記念写真の撮影所に変わった場所があった。
「結婚式挙げないけど、記念写真撮りたいよ」
「そっか?そうだな」
夫はまんざらでもない風で、二人で車を駐めて申し込みに行った。
「今からですとお日にちが6月1日以降になりますが」
わ!ジューンブライドだ!
「6月1日でお願いします」
ハナミズキの並木道通り。
いい季節だった。
当日は多少雨が降ってもいいかな?
すごいルンルン気分だった。
しかし、5月31日の夜。
焼き方が足りなかったサンマがあたってひどい下痢になり、頬はやつれてげっそり。
フラフラしながらも翌日撮影所へ。
太り過ぎでサイズがない!
一着だけ係の年輩の女性が選んでくれたウエディングドレスが入ったので、それに決定。
夫はサイズが合わないが前面から写したらバッチリの凝ったタキシード姿だった。
「ドレスに負けちゃいけませんから念入りにお化粧しましょう」
普段ナチュラルメイクの私は白塗りお化けに変身!
パール風のイヤリングとネックレスを借りて、肩までの髪に白い造花付きのヘアピンで決める。
建物の敷地内に大きな鐘がぶら下がってるスポットがあってそこで一枚。スタジオ内で二枚。
「今日はお天気が良くて良かったですね」
カメラマンのおじさんが再び外で写そうと私に腰掛け椅子を用意して、夫は隣に立って白い手袋を持って真面目くさって写った。
「オプションで一枚レターサイズで現像出来ます」
「ねえ、欲しい」
「わかった」
支払いを済ますと、後日現像が出来上がったのを取りに行くことになった。
「すみません、受け取りに来ました」
「はい。こちらで間違いないですか?」
受付の女の子二人まだ若くて、うっとりしてる。いつか自分もこうなりたいって思ってたのかな?
記念写真。それから十年後に離婚するとは思っていなかった幸せな時間を切り取って、大事に胸に抱いて持って帰った。
統合失調症は結婚も車も仕事も諦めなくちゃいけないなんて言われていたけれど、私達は全部手に入れていた時期が確かにあった。もしなにかの障害で諦めようとしている人がいるならば、やるだけやってみることを勧めます。