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PANDEGO!  作者: 白川 蓮
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冷凍ミカンは貴重です

「なぁ、お前マイナンバーってそもそも理解してる?」


せっかくの昼休み。

食堂でありがたくランチをいただいてるというのに、数森が何だかムカつく事を言い出した。


この男、やたら上から目線なんだよなぁ。

同い年のくせに。


「元の日本で一人一人についてた番号でしょ、それが何?」


「じゃあどうやってつけられてたか知ってる?」


「どうやってって…」


考えたことねーよ。

こっちはランチ中なんだぞ。


不愉快をあらわに、軽く睨んでやったというのに、数森は構わず続けてくる。


鈍いのか?

ケンカ売ってるのか?


「それにマイナンバー前、日本でどうやって個人の存在を国が把握してたかとかさ、俺らの仕事の根幹だろ。わかってやってる?」


ああどうしよう、手にした冷凍ミカンをぶつけてしまいそうだ。

貴重品なのに。


「世帯を単位に管理していた戸籍、住民票。そして住民票のある人全員に個別につけられたマイナンバー、ちゃんと理解するにはランチ時間じゃ足りなそうね。」


颯爽と現れた美沙さんが、軽やかに語る。


「確かに大事な事だけど、リラックスして栄養をしっかり取ることも大事だよ、数森くん」


ランチプレートを手に、美沙さんが私の隣の席に着いた。


おお、さすが美沙さん。見かねて助けに来てくれたんだ。


「あ、お疲れ様です。新垣さん」


無言で食べてた吉岡くんがどことなく安心したふうに顔を上げた。


何、今まで気配消してたの?

絡まれてる同僚助けろや。


「お疲れっす」


数森もそれ以上話を続ける気もないようだ。


なんなんだろう、この扱いの差は。


「お疲れ様。」


美沙さんはそう言った後、数森の方にそっと小さな皿を差し出し小声で言った。


「数森くん、悪いけどこれ食べてくれない?私苦手でさ…」


マジですか、美沙さん。それキウイ入りのフルーツポンチですけど。

今や高級食材である果実入りのスイーツをなぜこんな奴に。


「あ、いただきます」


数森もこともなげに受け取っている。


そんな素っ気ない態度で貰ってんじゃねーよ、私が欲しいわ。


とも思ったが、数森の瞳が輝いた様な気もする。

なんだろう、意外と甘いもの好きとか?


仕事しか出来ない嫌な奴だが、なんか笑えたので許す。


刺々しい雰囲気も消え去り、残りの昼休みは楽しい食事で時間が過ぎていった。




そして、残念ながらも午後の仕事が始まる。


私の仕事は班の名称通り、マイナンバーシステムの再構築作業だ。


数森に言われるまでもなく、国が個人の存在を把握することの重要性、そしてその為には、従前のマイナンバーの様に、個別に振られた記号若しくは番号で管理することが理に適っている事は理解している。


まだまだ世界の終わりの痛手が色濃く残る昨今、社会情勢の立て直しは正しく待った無し。


より一層、復興を進める。


その為に、今私達がしている仕事は緊急かつ重要だ。

と、理解してる。


いや、本当、理解はしてるんだ。理解はね。


しかし、だ。


所詮実際やるのはパソコン作業な訳で、元々パソコンなんて、学校の授業くらいでしかやってなくて…


贅沢なんだろうけど、疲れる。


黙々と、黙々と、地味〜なデスクワークを繰り返す時間…。


だんだんと、集中力も途切れようというもの。


それはもう、定期的な気分転換は必要不可欠ですよ。


というわけで。


時計の針が午後3時を指す頃合いを図り席を立つ。


「コーヒー、淹れて来ます」


皆さんもどうですか?的に、元気よく宣言。


と、あれ?


いい提案だと思ったんだけど、何故だろう。

班のみんなが、なんだか複雑な顔をして私を見上げた。


いつも、「コーヒーにしようか」って、声掛けてくれる美沙さんが忙しそうだから、たまには私がって思ったんだけど…


何故だろう?

この漂ってくる、微妙な空気は…

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