7.異世界の民族衣装
オルテンシアがハルト用に購入した物は、男性用の民族衣装一揃いだった。
鳥の羽の付いた黒い帽子、襟付きの白い半袖シャツ、白い靴下、チャッカブーツに似た茶色のブーツ。
中でも特徴的な肩紐付き半ズボンは、ハルトの世界に伝わるレーダーホーゼンによく似ている。
「こんなもん、着るんか? ガキっぽいが」
「今の格好で街を歩くと、騒ぎが起きますわ。
いやでも、着ていただきます」
「へいへい。
……で、俺はどこで着替えればいい?」
「町中では着替えられませんから、ここですわ」
「お天道様の真下で着替えるなんて、体育の時間でもやらなかったぜ。
ま、いっか。
そんじゃ、そこの木を背にして着替えるから、前の方から人が見ないように二人で俺を守ってくれ」
「よろしいですわ」
ハルトが、服を着替え始める。
「あのー、もしもしー」
「何ですの?」
「人が見ないように、って言ったよな」
「ええ」
「お前ら、人だろ?」
「もちろんですわ」
「じゃ、なんでお前ら二人が、俺の方を向いてるんだ?」
「それは、その今の服がどういう構造になっているのか、興味がありますの」
「あのなぁ……、このままだと、お前らの目の前でパンツ1枚になるんだが。
もしかして、男の下着姿を見たいとか?」
「「ひゃっ!」」
「そうやって両手で顔を隠しても、指の隙間から目が見えてんぞ。
後ろ向いててくれ。その方が、安心できるから」
オルテンシアとカメリアは、素速くハルトに背中を向けた。
少し着替えに手間取ったハルトだが、何とか終わったので、「もうこっち向いていいぜ」と二人に声をかける。
すると、オルテンシアからは「よく似合う」、カメリアからは「不細工」と評価を下された。
ところが、不細工と言いつつも、カメリアはハルトの服に手を伸ばし、ボタンの掛け違いを直したり、ズボンからはみ出したシャツも直したり、襟を正したりと、世話を焼いた。
彼女は、真剣な表情で服の乱れをチェックする。
息づかいも聞こえてくるほど、間近に顔を近づけてくる。
全世界の男子の視線を釘付けにする双丘まで間近に迫るので、ハルトは否が応でも鼓動が高まった。
もしここで苦笑でもされたら、まるで『こんなことも出来ないの? 仕方ないわね』と苦笑する母親のように思えてくる。
「はい。終わり」
そう言ってポンポンと胸を叩かれたハルトは、カメリアが一瞬だが苦笑したように見えた。
ハルトは、森の中で毒舌をふるうカメリアが、「わかった。ハルト、よろしく」と言った辺りから、なぜか憎めないでいた。
顔がめちゃくちゃ可愛いから?
カエデみたいに妹属性だから?
姉のオルテンシア並にくびれたウエストながら、姉にはない豊穣な胸があるから?
だが、そのような外見以外の所に、ハルトはカメリアに対して気になることが多いのだ。
きついことを言っているけれど、敵意を持った目をしていない。
強がりを言って照れ隠しをしているのに似ているのだ。
ツンデレ?
もしかして、そっちかもしれない。
彼は、その推論を確かめるため、彼女の素振りをよく観察した。
(やっぱりね。こっちを、時々というか、しょっちゅう見ている)
カメリアの素振りを観察していた彼は、オルテンシアよりもカメリアの視線が気になり始めた。
気のせいか、彼女の白い肌の頬や耳たぶが、ほんのり桜色に上気しているようにも見えた。
「さあ、わたくしたちの宿へ行きましょう」
急にオルテンシアから声をかけられたハルトは、心臓が跳ね上がった。
カメリアを観察する姿をオルテンシアに見られたのではと心配する彼は、返す言葉に詰まり、咄嗟に軽く頷いた。
「どうしましたの?」
「い、いや、何でもない!
じゃ、町へ行くぞ!」
ハルトは、バトンガールのように右腕を上下に振って行進を始めた。オルテンシアもカメリアも、吹き出しながら彼の後に従った。




