59.大脱出
カメリアの剣にグングンと引っ張られるハルトは、第4階層の床が波のように揺れるのを見た。頭や背中に石の破片がゴツンゴツンと当たるのも感じた。天井も揺れているのだろう。
崩落が始まっているのだ。
剣が第3階層への上り階段に突入した直後、後方からガラガラとおびただしい石の崩れる音が追ってきた。
第3階層のつづら折りになった廊下に出た。
コの字のカーブを旋回する度に彼の体は振り回され、足が壁にぶつかる。
痛いなどという痛覚は風とともに吹き飛び、恐怖が全身を包む。すぐ後ろから、崩落の音が波のように押し寄せてくるのだ。
つづら折りから抜けても、まだ狭い廊下だ。ガラガラという音がまだ追いかけてくる。
おそらく、第5階層が潰れて第4階層の崩落につながり、それが第3階層にも伝搬しているのだ。
飛んでいることにより体が揺れるので、落ちないようにしっかりと柄を握る。だが、その握力もだんだん弱まってきた。
そろそろ限界に近づいている。
と、その時――、
『上昇する!』
彼女の声に急上昇を想定し、ハルトは最後の力を振り絞って柄を握りしめた。
突然、剣が直角に曲がって上昇した。
体が振り回され、上昇で穴の縁にこすられた。めちゃくちゃ痛い。だが、歯を食いしばって耐える。ひたすら耐える。
バクン!
天井の扉が押し開かれる音だ。開いた穴をすり抜ける。
ここで、カメリアの剣は急停止した。
見上げると、すぐ上が岩盤だった。まだ城郭はここを突き破っていなかったのだ。
これを突き抜けて地上に出ようとしていたのかと思うと、ゾッとする。
彼はトンネルを探すが、見当たらない。城郭が上昇していたので、塞がれていたのだ。
しかし、天井にピシッピシッと亀裂が入って、城郭全体が下に向かって崩れ始めると、トンネルが現れた。
ハルトはトンネルの縁に着地し、カメリアの剣から手を離す。そして、直ぐさま、下を覗き込んだ。
大量の瓦礫が、スローモーションのように沈んでいく。大地震のような揺れが続き、トンネルの縁から転げそうになる。
「オルテンシアアアアア!!! シュヴァルツウウウウウ!!!」
声の限りに叫んだ。
何度も叫んだ。
だが、瓦礫のぶつかり合う音がその叫び声を無情にもかき消していく。
彼は膝を折る。
両方のこぶしを力一杯地面に叩きつける。
今すぐ飛び降りて、瓦礫の中を掻き分けて二人を探したい衝動に駆られる。
何度も前のめりになる。
だが、深い穴に沈んでいく瓦礫が、彼の勇気を粉々に打ち砕いた。
ハルトは、後ろを振り返った。カメリアは、いつの間にか変身を解いてうつむいていた。
両手で目を押さえる。声を立てずに泣いている。
立ち上がった彼は、彼女の肩に優しく手を置いた。
「カメリア。ありがとう」
『お姉様……。シュヴァルツ……』
「辛いだろう……。
俺、不器用だから、こういうとき、なんて声かけていいかわかんねえ……」
すると、突然、カメリアがハルトを抱きしめた。
戸惑うハルトだったが、ソッとカメリアの背中に手を回し、優しく抱きしめた。
「ゴメン。ありがとうしか――」
「ううん。ハルトが無事でよかった」
彼女は、彼をグッと抱きしめる。
「俺もだ」
彼は、彼女の気持ちに応えて抱きしめた。




