55.互いに違う目的
「もちろん、魔石だ。それも、特大のを」
モスカの言葉に、ハルトは「やっぱ、なんだかんだ言って、金の亡者じゃねーかよ」と笑う。
これに対してモスカは「何とでも言え」とつぶやき、右手を伸ばす。すると、深紅の剣が出現した。
「や、やんのか、てめー!」
ハルトは二刀流の構えを見せる。だが、モスカは笑いながら「第5階層の敵に備えるだけだ」とつぶやき、その剣を携えてミストと歩み始めた。
カエデが震えながらハルトの背中で囁く。
「あれは、血に飢えた剣。斬ると相手の血を吸う。だから、気をつけて」
「お前、連中のことが詳しいな。それに、気をつけてって、奴らがいかにも俺たちを斬るような言い方だ。
やっぱ、敵なのか?」
「用心して」
「わかった」
二人がヒソヒソと囁き合っていると、モスカが振り向いて「何をブツブツ言っている? さっさと来い」とぶっきらぼうに言った。
「おい、まだ質問が終わっていないぞ」
彼の言葉にモスカはため息をついて、あからさまにイヤな顔をしながら振り向いた。
「これ以上、何を?」
「まず、お前は俺たちの名前を尋ねていない。ということは、すでに知っているな?」
「そのことか……。左様。ハルトにシュヴァルツに……カエデ、だったか」
「なぜ知っている?」
「話をしていただろう? それを聞いたから」
モスカは、当たり前のことを聞くなとでも言いたげな顔をする。
「ちょっと話が脱線するが、このダンジョンって、本当は第50階層まであるんだってな?」
「それは……第5階層でラスボスから幻影を見せられたのであろう。第5階層がこのダンジョンの最終だ」
「そこで魔石を持っているのは誰だ?」
「ラスボスだ」
「フーン。倒すのは誰の予定?」
「君たちだ。でも、君たちが倒されたら、我々が倒す」
「いいや。俺たちは、魔石を獲得しても倒される」
「誰に?」
「その剣を持つてめーに。後ろからバッサリと」
二人の間に長い沈黙が訪れた。それを破ったのは、モスカの笑いだった。
「ハハハッ! 誰がそんなことを? その後ろにいるカエデがそう囁いたか?
女は疑い深い。いちいち耳を貸すな。
そんなことはせんよ。魔石は山分けといこう。この剣は魔石を真っ二つに出来るから」
「いや、魔石なんかどーでもいい。なんなら、俺たちはここにいるから、てめーらでラスボスを倒して魔石を取れ。そして、ここから去れ。
俺たちは別の用がある」
「何の用だ?」
「…………」
「だから、何の用だと聞いている」
「ある人の手がかりを探している。第5階層でそれが見つかるはずだ」
「フーン。ある人とは、実はラスボスじゃないのか?」
ハルトはハッとして後ろを振り返った。そこには青ざめたカエデの顔があった。
「カエデ。お前、何か知っているのか?」
彼女は、かぶりを振る。
ハルトはモスカの方へ向き直って「違うみたいだ」と答えた。
「第5階層はラスボスしかいないはずだが……。まあ、行ってみようではないか」
ハルトたち三人は、モスカとミストの後を追った。




