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俺と黒猫とガーディアンの異世界捜索隊  作者: s_stein
第三章 ダンジョン編(2)
51/60

51.不利な戦い

 ハルトは、てっきり黒煙の塊が森で出会ったあのライオンと同じ姿になると思っていた。


 ところが、黒煙はそのような魔獣の姿にはならず、塊のまま突進してきた。


 彼は無我夢中で剣を振り上げる。


 ガシッ!


 オルテンシアの剣が天井を削り、勢いがそがれる。咄嗟にカメリアの剣を横に振って黒煙を斬りつける。


 ガツン!


 今度は、左側の壁に剣をぶつけてしまった。


 黒煙は剣で二つに割れたように見えたが、単に風圧で上下に分かれたようにも見える。


 分離した黒煙は、いったん後ろに引くも、たちまち一つの塊に復活する。致命傷どころか傷さえも相手に与えていないようだ。


 これで剣を大きく振れないことがわかったので、脇を締めてコンパクトに剣を動かさないといけない。


 これは不利な戦いだ。


 再び、黒煙の塊が突進してくる。そして、ハルトのコンパクトな剣捌きをかいくぐり、彼の後ろに回る。


 背後を取られた彼は剣を構える暇がなく、突進してくる塊をしゃがみ込むことで()けた。


「オルテンシア! カメリア! アシストを頼む!」


『ちょっと弱点が見えませんわ!』


『解析中』


 彼女たちも、この塊に翻弄されているようだ。


 為す術がないハルトを嘲笑うように黒煙が行き来する。


 これを見ていたシュヴァルツは、あることを思いつく。そして、試しに、ハルトの背後へ回った塊を剣で突いてみた。


「ギャッ!」


 突然、塊が悲鳴を上げて、ヨロヨロと空中を浮遊した。


 どうやら、塊にも彼らと同じく正面と背中があるらしい。正面から斬りつけると剣の動きを見て()けるように分離するが、背後には目がないらしくそれが出来ないようだ。


 そう推測した彼は、ハルトに伝達する。


「坊主! 奴の背後から斬りつけろ! 正面から斬りつけると分離する!」


「背後!? そんなもん、わからんぞ!」


「突進してきた方向が正面! その反対側が背後だ!」


 体勢を立て直したらしい塊は、再びハルトへ向かって突進してきた。その時、塊の中央に(くぼ)みが出来て、ちょうど口がカッと開いたように見えた。


 ハルトはしゃがみ込んでこれを回避する。そして彼は素速く立ち上がって振り返り、まだ回り込んでいない塊に二本の剣を振り下ろした。


「ギャアアアアアッ!」


 叫び声とともに塊が空気に溶け込むように消えていく。そして、消えかかる塊の中央から大きめの赤い魔石が現れて落下した。今まで獲得した特別の魔石の5倍くらいはある。


 すると、カエデが突進して右手を伸ばす。右手の剣を左手で持った彼も急いで右手を伸ばす。


 だが、剣を持ち替えた分、彼女の方が早かった。


「おい、カエデ。それ、俺のだぞ」


「先に取った方でしょう」


 彼女は死んでも渡すものかとでも言いたげに握りしめて、その拳を胸に当てる。


「俺の。返せ」


 彼は、悪いとは思ったが、彼女の握りこぶしを強引に開いて魔石を奪い取った。


「これはフェアに行こうな。兄妹で喧嘩したくないから」


「私が拾ったものを奪った! お兄ちゃんこそ、フェアじゃない!」


「魔石は、魔獣を倒した者に権利がある」


「ドロップした魔石を拾った者に権利があるの! 常識でしょう!?」


 異世界の常識を知らないハルトは、シュヴァルツに助けを求める。


「おい、シュヴァルツ。この世界の常識を教えてやれ」


「うーむ」


「おい、何、悩んでんだよ?」


「あくまでもの話だが」


「何だよ?」


「今までの流れから言うと……拾った者だな」


「裏切り者!」


 ハルトはシュヴァルツを睨み付け、笑うカエデに向かって魔石を放り投げた。


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