48.カエデへの疑惑の目
ハルトがカメリアの剣に二人乗りが出来るか尋ねたところ、重量オーバーとのことで拒否された。彼はカメリアが妹に焼き餅を焼いているのではないかとも思ったが、そこは深く追求しないことにした。
結局、カメリアの剣が一人ずつ天井まで飛んで運ぶことになり、先にカエデが運ばれた。ほぼ同時にオルテンシアの剣がシュヴァルツを運んだので、ハルトは一人残って待っていた。
彼はもう一度周囲を見渡す。
誰が何の目的でこのような穴と建造物を作ったのか。
第2階層の入り口の見つけ方は簡単だし、迷路庭園を突破する方法もよく考えれば簡単だ。本当に人々を近寄らせないのなら、もっと手の込んだことをするはず。
ということは、ここを創造した主は知恵比べをしているのか。壮大な道楽なのか。
だとしたら、第3階層も知恵比べの続きかも知れない。もしかしたら、道楽が高じたびっくり箱かも知れない。
冒険者は、それらを楽しみながら魔石を集める。それを遠いところから見て、創造主は満足している。
それもあり得るかなと思っていると、カメリアの剣が戻ってきた。
彼は、宙に浮く剣の柄を両手でつかむ。すると、カメリアが『ちょっと話がある』と言う。
「どうした?」
『さっきカエデさんを運んだとき、ビリビリッときた』
「俺の時みたいに変な声を上げなかったか? ああん、とか」
『そうじゃない。柄を握られた瞬間の話。あれはクリザンテーモ・セレーナ姫の感触』
「おいおい。髪の色と目の色が一致すれば瓜二つみたいなことを言ってたけど、それが先入観として頭にあるからじゃないのか?」
『違う。触覚は視覚と異なるから、間違えないと思う』
「だとすると……、もしかしてそれが正しいとすると……」
『すると?』
「万々歳じゃん。お姫様、よくぞ生きていてくれましたって」
『本当にそう思う?』
「思う……けど、なんかしっくりこないなぁ」
『でしょう?』
「俺がカエデだと思う人物が、実はお姫様。ということは変装している?」
『たぶん』
「じゃあ、カエデはいずこ?」
『うーん、わかんない』
「どうする? 聞いてみるか?」
『なんて?』
「カエデさん、もしかしてお姫様じゃなくて? って具合に」
『聞きたいけど、変装している理由が気になる。それによっては、答えないような気がする』
「まあ、そうだよなぁ。なんで、お姫様がカエデの格好をしているのか?
うーん……。とりあえず、気のせいということにしておかないか? まだ確たる証拠がカメリアの感触しかないんだし。
もしカツラがすっとんで金髪が現れ、カラーコンタクトが落ちて青い目が現れたら、ほらやっぱりって言えばいい」
『うーん……』
二人がそんな会話をしていると、突然、「キャー!」という悲鳴が上がった。シュヴァルツの「坊主! 早く来い!」という声も聞こえる。
ハルトが声の方を向くと、いつの間にか骸骨たちが天井をすり抜けてムクムクと湧いてきているところだった。
その数、十体。いや、二十体。いや、まだまだ増える。
「よし! 助太刀に行くぞ!」
『承知!』
カメリアの剣の柄をしっかり握ったハルトは、天井に向かって一直線に飛んだ。




