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俺と黒猫とガーディアンの異世界捜索隊  作者: s_stein
第三章 ダンジョン編(2)
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46.魔石を食らう少女

 飛翔するハルトとシュヴァルツが迷路庭園の端へ近づくにつれ、穴が庭園から徐々に離れていくように見えた。どうやら、穴と庭園の間に隙間があるらしい。


 さらに近づいていくと、確かに空き地が見えた。ハルトは、庭園の端――もちろん壁の上――に着地するようカメリアの剣に指示した。オルテンシアの剣もそれに従う。


 二人は膝の屈伸を活かして壁の上にうまく着地する。振り返ると、カエデは遙か後ろだ。


 周囲を見渡すと、空き地の奥行きは30メートルほどあり、幅は庭園の横幅と同じ。


 手前の穴は蒲鉾のような半円の形をしていて、高さは庭園の壁より少し低く見える。


「坊主。なんか、下の方から喉を鳴らしている奴がいるぞ」


「ああ、聞こえている。魔獣だろう」


 二人が同時に下を向いた。すると、大型の猫に似ている灰色の魔獣が五匹、彼らの真下にいて見上げている。


 第1階層で姿を隠していたあの魔獣だ。この階層では、大胆にも姿を現しているらしい。


「いっちょ、暴れるか」


「相わかった」


「ちょっと待ったああああああああああああああああああああっ!」


 カエデがダンジョン内にこだまする大声を上げた。その声に、魔獣までがビクッとしたほどだ。


「何だよ、これから気合い入れて戦おうとしたのにぃ」


 やっと追いついたカエデは肩で息をし、膝に手を当てて呼吸を整える。


「そいつら、姿が見えていると思うけど、いざ戦うとなると姿を消すの」


「何だと!?」


「鋭い爪や牙でかなりダメージを受けるから、姿を消されたらまず駄目」


「でもよ。第1階層で俺たちの魔石をちょろまかしたとき、攻撃してこなかったぞ」


「ああ。そいつら、大人しい部類。ここのは獰猛よ」


「めんどくせー!

 で、どうする?」


「任せて。こういうときに、塗料を使うの」


 彼女はポケットから小瓶を取り出した。中には黄緑色の蛍光塗料みたいな液体が入っている。その蓋をポンと音を立てて開けた彼女は、壁の上から液体を魔獣に振りかけた。


 突然の塗料の雨に驚いた魔獣は、四散しながら姿を消す。しかし、塗料が付着した体の一部が地面の上を動き回るので、頭の中で補完してイメージすれば、そこに魔獣がいるかのように見えてくる。


「行くわよ!」


 カエデは(つた)の枝につかまりながら地面に降り立った。ハルトとシュヴァルツは、剣の力を借りてフワリと着地する。



 その後の戦いは、1分で終了した。カエデとハルトがそれぞれ二匹、シュヴァルツは一匹を倒して赤色の魔石を得た。もちろん、特別の魔石である。


「なんでぃ、第1階層とおんなじでちっさい魔石だな」


 周囲の壁に点在する魔石の光に戦利品をかざしたハルトは、ため息をつきながら後ろにいるカエデに振り返る。


 と、その時、カエデは大慌てで口から何かを手の中に吐き出した。


「ん? どうした?」


「ううん、何でもない」


「口の中に泥でも入ったか?」


「ま、そんなもの」


「フーン」


 ハルトは、彼女から視線を切って正面を向き、光に魔石をかざす。でも、彼女のことが気になって、後ろから髪が引っ張られるような気分になり、再度振り返った。


 すると、彼女はまた大慌てで口から何かを取り出した。


「お前、さっきから何している?」


「だから、何でもないって。泥よ、泥」


「ちょっと手の中のもん、見せろ」


 ハルトはカエデに近づき、握っている右手を開かせた。そこには、ハルトと同じ大きさの赤い魔石があった。


「まさか、これ食ってたんじゃないよな?」


「こんなもの食べるわけないじゃない」


「じゃあ、何してたんだよ」


「だから泥だって」


「泥って俺が言っただけで、お前は言ってないぞ。虫って俺が言ったら、虫になってないか?」


「お兄ちゃん、私を信用しないの?」


 彼女はみるみる涙ぐむ。こうなると、彼も弱い。


「わかったわかった。

 ところで、お前は2個魔石を取ったよな? もう1個はどうした」


 彼女はハッと目を見開く。


「落としたかも……」


「マジかよ!? あれは金貨10枚とかになるんだぞ!」


 それから三人で地面をくまなく捜したが、カエデが落としたという魔石は見つからなかった。


「お兄ちゃん。透明の魔獣が食らったのかも。そうしたら、見つからないよね」


「その辺にいるってか?」


 ハルトは二本の剣を構えて「やい、泥棒猫! 出てきやがれ!」と凄む。しかし、地面の足跡が増えることはなく、透明の魔獣は近くにいなさそうとなった。


「お前さぁ。魔石を手に入れたら、しっかり袋に入れろよ」


「わかった」


 そう言って、彼女は金貨100枚の入った袋に魔石を握った手を突っ込み、ちょっと戻して、また突っ込んだ。それから、握った拳を袋から出した。


「そうそう。そうやってちゃんと入れておくこと」


「うん。じゃあ、第2.5階層へ行こうよ」


「えっ? もう? ちょっと休憩しないか?

 そうだ。昼飯持ってきたんだ。あのダンジョンの門の近くまで戻って、みんなで食わないか」


 しかし、カエデは無言で穴の方へ歩いて行く。


「しょうがねえなぁ……」


 シュヴァルツと顔を見合わせたハルトは苦笑し、彼女の後を追った。


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