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俺と黒猫とガーディアンの異世界捜索隊  作者: s_stein
第三章 ダンジョン編(2)
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44.第2階層への道

 カエデがお姫様捜索に協力する謝礼としてハルトに要求したのは、金貨100枚だった。断るだろうと思ってふっかけてきた金額なのは目に見えているが、ハルトはシュヴァルツを拝み倒してその場で支払った。


 これで昨日のダンジョンで儲けた金貨――300枚からギルド登録料100枚差し引いたもの――が、シュヴァルツの剣に100枚使って、カエデへの謝礼に100枚使ってゼロになった。


 どうせ第2階層から下で特別の魔石をウハウハ集めるから、この程度の出費は投資だと言い切る彼に、シュヴァルツは冷たい視線を送る。


 代わりにカエデはホクホク顔だ。捜査に協力することは見つけ出すことを保証しているわけではなく、見つからなかったら返金という条件がない限り、丸儲けだからだ。


「ところでお前、行き方はわかるのか? まさか、総当たりで入り口を見つけるんじゃないよな?」


 金貨の入った袋を渡しながら尋ねるハルトに、カエデは「コツがあるの」と言って笑みを浮かべて袋を受け取る。


「コツ?」


 彼女は分かれ道の真ん中まで歩いていき、壁に向かって立った。


「いい? 耳を澄ませて。そして、風を感じて」


「へ?」


「いいから」


 彼女は両耳の後ろに手を当てて、「真似して」と言う。


 彼は、耳ダンボだなぁと思いつつ、言われるままに真似をして目を閉じる。


 すると、左側の穴からほんの微かに風の音が聞こえてくる感じがした。


「こっちよ」


 カエデが左の穴へ向かう。ハルトは、やっぱり俺の勘は正しいと得意になった。


 次の分かれ道でも彼女は同じポーズで風の音を聞く。


「今度は右よ」


 それは彼も音が聞こえてきた方角だった。


「なるほど! 第2階層から吹いてくる風を頼りに進めばいいのか!」


「そう。気がつけばなんてことないんだけど、冒険者は闇雲に歩くから、自分の足音で聞こえない」


「でも、なんでそこから風が来るんだ? 風が来るってことは、地上とどこかでつながっているんじゃないか?」


「さあ。原理は知らないけど、第2階層は風が吹いているの。お兄ちゃん、探検したら?」


「いやいや。お姫様を見つけたら、さっさと帰るぜ」


「どこに? 元の世界に? どうやって?」


「そうなんだよなぁ……」


 ハルトの足取りが重くなる。


「カエデが見つかって、お姫様も見つかって、万々歳なのはいいんだが、その後どうしようかと。

 この異世界に骨を埋めるのかなぁ」


 彼のつぶやきに彼女は答えなかった。



 こうして、第2階層への入り口が見つかった。


 まず、目に飛び込んだのは、(つた)の葉っぱにびっしりと覆われた壁。高さは人の背丈の2倍以上あるから、4メートルほどか。


 それが両サイドと正面奥にあり、影の具合から推測するに、正面を向かって歩くと右方向に曲がれそうだ。


 これが迷路庭園の入り口だ。


 時折吹く湿った風が、蔦の葉をザワザワと揺らす。


 ハルトは及び腰になり、「ここに何がいる?」と震えながら問いかける。それに対して、カエデは何を今更という顔をして「魔石を宿した魔獣よ」とぶっきらぼうに答える。


「どうやって第1階層に戻るんだ?」


「ん? もう逃げるの?」


「いや、一応聞いただけ。風の音は向こうから聞こえんだろ?」


「絵を描けばわかるわよ」


 そう言って彼女はしゃがみ込み、剣で地面を削り始めた。


「いい? ランダムに道が変わるって、途中の分岐がゴゴゴゴッって動くとでも思った?」


「まあ、可能性の一つとしては」


「ないない。こういう風に、さっきのところからここまでは分岐図のようになっているの」


「ふむふむ。家系図みたいだな」


「全然違うけど。

 この分岐図のようになった洞窟は絶対に動かない。

 みんな道がランダムに変わるように見えたのは、この8通りの出口のうち1つしか開かず、それが時間によって開いているのが閉じて、閉じていた1つが開くからなの」


「ってことは、この迷路庭園には入り口が――」


「8つあるの。そのどれか1つに入れるというわけ」


「じゃあ、この分岐図を頭に入れていれば、右から何番目の穴かがわかれば帰り道がわかる!?」


「そうよ。さすがにそれはわかるのね、お兄ちゃん」


「たりめーよ」


 ハルトは鼻を高くする。


「でもよ。今来た道が何番目かって、どうやってわかるんだ?」


「わかるのよ。私が目印をつけたから」


 彼女は洞窟の壁を指さす。そこには「3」という文字が刻まれていた。


「あの3って、この図の右から3番目ってこと?」


「そう。帰りにこの3が塞がっていても、開いている穴を探して、刻まれた数字を探せば、この分岐図を逆に辿って出られる」


「お前……もしかしてと思うが……全部目印をつけたとか」


「そうよ。1から8まで」


「お前、何回潜ってんだよ!?」


 彼女は「数えてない」と答えて舌を出す。


 ハルトもシュヴァルツも呆れかえって、口をあんぐりと開けた。


「なんでそんなに――」


「だって、ここの特別の魔石、お金になるんだもん」


「だったら、さっきの金貨返せ。金持ちには渡さん」


「やだ」


 カエデは立ち上がって逃げ出し、あかんべえをしながら通路の右を曲がった。


「こら、待て!」


 ハルトとシュヴァルツは、彼女の後を追った。


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