38.手がかりはダンジョンの奥深くにある
翌日、四人はペスカの城の門を叩いた。ハルトとシュヴァルツは肩を並べ、先頭に立って鼻息荒く大股で歩く。
途中で見た美しい花壇が、全部金満家の道楽に見えてくる。これから入る部屋の調度品も、金貨に見えてくるだろう。
とにかく、この領地のギルドは、結託して低価格で魔石を買い取っている。ということは、どこかで高く売っているはずだ。
手っ取り早いのは、隣の領地のギルドに持ち込むことだ。誰かが冒険者になりすまして登録しておけば、そいつが持ち込めばいい。
確実に儲かる。何せ、普通の魔石からして、金貨1から3枚が2から5枚に跳ね上がるのだから。
運賃がかかるとしても、その利ざやに比べたらゴミみたいな物だ。
その差額でギルドは潤うはずだが、昨日のギルドの建物は慎ましいものだった。
では、部屋の奥で金貨が唸っている?
いや、誰かに献上しているはずだ。
そいつは誰だ?
聞くまでもない。領主のペスカだ。
城の中にある最上級の品々が、何よりの証拠である。
そう思うと、ハルトもシュヴァルツも腸が煮えくりかえりそうになる。
城に入って老執事に通された場所は、例の豪華な広間だった。大理石の壁と床と天井の見事さを一瞬味わった四人だが、あっという間に冷めて、以前にここで感動したことが馬鹿馬鹿しく思えてきた。
イライラするほど待たされた挙げ句、老執事から「ペスカ様はご不在でございます」と告げられる。
「だったら、カルドを呼べよ!」
ハルトが口を尖らせると、老執事はあからさまにハアッとため息をついてから、カルドを連れてきた。
彼は、甲冑を着けていた。いつでも斬りかかれるようにかと、ハルトは警戒する。
「おや? 一人増えたようだが?」
「知ってて、とぼけるのかよ!」
「腹の虫が治まらない様子だが、何かあったのか?」
ハルトは、自分たちの考えていることを洗いざらいぶちまけた。
だが、彼の畳みかける言葉に、カルドは蛙の面に水である。ここに紅茶でも置かれていたら、おいしそうにすすっていたかも知れない。
「で、結局、隣の領地に引っ越すのか? 紹介したギルドに登録したままで」
カルドの口角がつり上がる。この憎たらしい男に腕を振り上げて抗議して疲れたハルトは、肩で息をしながら「そうだよ」と言い放つ。
「フーン。それは残念」
「何が残念だ! 搾取できなくなるからか!?」
「手がかりが見つかったのに」
数秒間の沈黙が生まれた。
「何の手がかりがだよ?」
「おや、人にものを頼んでおいて、それはないだろう?
クリザンテーモ・セレーナ姫とカエデの手がかりに決まっている」
四人が身を乗り出した。
「手がかりはどこだ!?」
「引っ越すのなら、教えない」
「そんな条件はなかったぞ!」
「この領地から引っ越すのなら、宿もギルドも紹介していない。ここにいるということが大前提だったから」
ハルトもシュヴァルツも歯ぎしりをする。
「なら、この領地に踏みとどまってもいいが、ガセネタだったら承知しないぞ!」
「なんだその『ガセネタ』とは?」
「あー、めんどくせー! 偽情報ってことだ!」
「それはない。紹介しただろう? あのダンジョンだ」
「それのどこにある!?」
カルドは、さも恐ろしいという顔をして、人差し指を下に向けた。
「第50階層」




