37.晴れてギルドに登録したものの
マスターは、約束の金貨300枚から登録料を差し引いて200枚を袋に入れ、シュヴァルツの前に差し出す。
特別の魔石は確かに本物であるとマスターが鑑定結果を出したが、一番小さい大きさか否かでシュヴァルツと揉めた。
一度ここで妥協してしまうと、これが中程度の大きさだった場合、全部最安値で買い取られるから、シュヴァルツは食い下がる。だが、マスターも負けてはいない。
「こちらの青い魔石と比べて、だんぜん小さいだろうが!? だから、一番小さい部類だ! 金貨10枚しか出せん!」
「俺たちが知らないからって、嘘を言ったら承知せんぞ!」
「だったら、周りの連中に聞いて見ろ!」
「お前が怖くて本当のことを言えない奴らにか? 聞くだけ無駄だ!
納得がいかないから、この魔石だけは他のギルドへ売りに行く!」
「ぐぬぬ……。ええい! 中の下ということで、12でどうだ!?」
「16!」
「おいおい、通常の買い取りが10から20の間だというのに、16はないだろう」
「上限20は、ここのギルドの縛りだろう? 他は40かも知れない」
「なら、13!」
「16!」
「14までしか出せん!」
「16! イヤなら、他を当たる!」
「……ちっ! 特別だぞ! 16だ!」
「特別なもんか。この魔石を出したときに目を丸くしたのを、この目で見ているぞ。しかも、周りの奴らは度肝を抜かれていたしな。
珍しいかどうか、顔に書いてあるから見ればわかる」
「参ったな……。貴様には敵わん。
おい、そっちの坊主。このルクス族の相棒は、商売の才覚があるぞ。良いパートーナーを持ったな」
不機嫌そうなマスターがそう言いながらハルトの方を見て、最後は苦笑した。
ギルドの建物を出た四人――オルテンシアとカメリアはすでに変身を解いていた――は、互いに顔を見合わせて大いに笑った。
彼女たちが変身した剣を持っていないハルトは、いつものペースでお調子者になっていたので、シュヴァルツが前面に立って交渉したのだが、かえってこれが功を奏した。ハルトなら、簡単に丸め込まれていただろう。
上機嫌のハルトがシュヴァルツの背中をポンポンと叩く。
「さすが、ルクス族!」
「坊主。よく見ておけ。特に表情や目の動きをな。言葉は騙される」
「へいへい」
「奴らは、かなりピンハネしているはず。10って言っておきながら最後は16まで簡単に引き上げたからな。
俺たちは相場がわからぬ。
だから、他のギルドの情報も仕入れないといけない。
カルドに紹介されたからって、そのギルドが世間の標準とは限らないからな。完全に信用してはいけないってことよ」
「俺の親父は、売るときは複数の買い取り業者に当たっていたな。逆に、買うときも複数の業者からあいみつ取っていたし」
「なんだその蜜は?」
「食いもんじゃねぇよ。相見積もりの略。……って言ってもわからんか。まあいい。
ところで、信用してはいけねえってことは、普通の魔石が1個あたり金貨1から3枚というのも怪しいな」
「そうだな。調べてみる価値はある」
それから、オルテンシアとカメリアは休息のために宿屋に戻り、ハルトとシュヴァルツが他のギルドでの魔石価格を調べに回った。
すると、普通の魔石は1個あたり金貨1から3枚は変わらなかった。特別な魔石は、少し幅があって、10から20、15から25、10から30だった。
ハルトは後頭部の後ろで手を組みながら「うーん、ほぼ同じってとこかな」と言って、地面の石を蹴る。だが、シュヴァルツは納得がいかない様子だった。
「ペスカの領地のギルドは、誰かの指示で相場を決めているのかも知れないぞ」
「そうかなぁ?」
「坊主。隣の領地で相場を聞いてくる。暗くなるから帰っていいぞ」
すると、ハルトはシュヴァルツの背中を小突いた。
「水くさいぜ。付き合うからよ」
「悪いな」
だが、二人は隣の領地に行かなくても相場を聞くことが出来た。
通りかかった酒場の前で冒険者の二人が喧嘩をしていて、シュヴァルツが仲裁したところ、二人とも隣の領地からやって来たことがわかった。
彼らの話によると、隣の領地では普通の魔石が1個当たり金貨2から5枚、特別の魔石は幅があって10から40枚か、20から50枚なのだそうだ。
「坊主」
「フッ。言いたいことはわかるぜ」
「なら話が早い。明日――」
「ペスカの城に乗り込むぜ」
二人は顔を見合わせてニヤリと笑った。
「ギルド登録料100枚は――」
「勉強代だと思って諦めだな。畜生め!」
ハルトは、地面を思いっきり蹴った。




