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俺と黒猫とガーディアンの異世界捜索隊  作者: s_stein
第二章 ダンジョン編
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36.お手軽な魔石集め

 休憩も済んだので、オルテンシアとカメリアは再び剣に変身した。


 ハルトは二刀流にしたかったので、食料を調達しに行ったついでに武器店から剣を買えば良かったのにとシュヴァルツを非難する。確かに、気の利かないシュヴァルツである。


 ハルトはまたカメリアの剣を握った。


『ひゃん!』


「その悲鳴、周りに誤解を与えるからやめてくれよな」


『でも、握られると感じる』


「だから、その表現、誤解を受けるから御法度」


『なんかこう、ビビッと来る』


「それもブッブー」


『ハルト、もしかして魔力を持っていたりする?』


「そんなもん、ねーよ」


『ハルトと回路がつながると、普通とは違う感覚になる』


 すると、オルテンシアも語り出した。


『そうね。シュヴァルツだと何も感じないわ』


「猫だからじゃね?」


「坊主。それは偏見だ。俺はルクス族」


「感じねーとよ。修行が足んないんじゃね?」


「何の修行だ?」


 それには答えないハルトは、剣の刀身を肩に乗せて口笛を吹きながら歩き始めた。


「そうだ、シュヴァルツ。お前、俺の前を歩け」


「なぜだ」


「また偽者と入れ替わるかも知れん」


「それは坊主も同じだぞ」


「うっせ! 一緒にすんな!」


 オルテンシアとカメリアはクスクスと笑った。



 第1階層のダンジョンは、迷路のような洞窟だった。


 トンネルのような道がクネクネと続き、どれも似たような形をしているので、来た道を覚えていないと戻ることが出来ない。


 それで、冒険者たちが壁に記号や文字を彫っているのだが、それが案外役に立った。


 ここで見かけるのは、狼、犬、イノシシのいずれかに似た魔獣のみ。


 もしかして壁や地面が口を開けて襲うかと思われたが、今のところそれはなかった。


 魔獣は鋭い牙と爪で攻撃してくる。しかも、集団で現れることは二、三の例外のみで、後は単独で出現する。


 これがまた弱い。


 唸ったり吠えたりするから一応は警戒するが、いざ戦ってみると弾丸のように一直線に突っ込んでくるワンパターン。


 避けてすれ違いざまに斬りつければ、たいてい深手を負う。後は――ちょっと残酷ではあるが――首を刎ねたり心臓へ剣を突き刺せば、光の粒をまき散らして魔石を残してから消える。


 当然のことだが、第2階層以下に生息する魔獣が持っている特別の魔石にはお目にかからない。間違って第1階層にまで上がってきてくれていないかなぁ、なんて思っても、そんな都合のいい話はないみたいだ。


 でも、面白いように狩りが成功する。魔石が集まる。


 実は、散々集めたところで、あの痩身の男と大男が現れて「ご苦労」なんて横取りするのではないかと心配になってきた。


「なあ、シュヴァルツ」


「なんだ、坊主」


「もう30個だよな」


「いや、29個だ」


「ああん? 1個ちょろまかしてねえか?」


「なぜ俺がちょろまかす?」


「おかしいなぁ……。数え間違いかな?

 袋に穴が開いてないか?」


「開いてないぞ」


 シュヴァルツは、たすき掛けに担いでいる袋を降ろして、中を開けて数える。


「おい、ちょっと並べろ」


 ハルトに言われて袋をひっくり返し、転がった魔石を縦方向に5個ずつ並べていったが、6列目で4個しかない。


「だろ?」


「おい、お前の股間にある、もっこりしたのはなんだ?」


「坊主。ここに落とすってのは、よっぽどだぞ」


「お前ならやりかねないと思ったが、違ったか……。

 ん? おいおい! 6列目の魔石が3個になったぞ!」


「何!? ……ホントだ」


「お前、手品使ったろ?」


「そんな特技はない」


「待てよ」


 ハルトは地面を凝視する。シュヴァルツもそれを真似る。


 だが、何も起きない。ピンと張り詰めた空気は微動だにしない。


 そこで、ハルトは後ろを振り返る。シュヴァルツも見習う。


 次の瞬間、彼らは向き直り、さきほど凝視していた地面の一点を見る。


 そこには獣の小さな足跡が二つ付いて、埃が舞い上がった。ただし、姿は見えない。


「野郎!」


 ハルトは、カメリアの剣を振り上げ、足跡付近に振り下ろした。


 と、突然、「ギャッ!」と猫のような悲鳴が上がり、魔石が空中から現れてゴロリと転がった。それから、足跡だけがパタパタとついて遠ざかる。


 どうやら透明の魔物が潜んでいて、魔石を失敬したらしい。


「油断も隙もないな。袋は背中じゃなく、腹に背負え」


「それは背負うとは言わぬ」


「じゃあ、腹巻きにでもしろ」


 ハルトの一言で、シュヴァルツの袋はポシェット風になった。



 後1個の魔石のゲットは、簡単に終了した。


 だが、透明の魔物にくすねられたハルトは、なんとか仕返しをしようと、歩きながら土をばらまいた。


「小僧、何をしている?」


「こうすりゃ、姿が見えるのさ」


 すると、さっそく、体の一部が出現した。大型の猫みたいな灰色の魔獣だ。


 ハルトが素速く仕留めると、光の粒となって消え、赤くて小粒の石が転がった。輝いているので、魔石なのだろう。


「よし、ギルドで鑑定だ。これが特別の魔石なら、大発見だぞ」


「そうだな。じゃあ、坊主。戻ろう」



 ギルドに戻ったシュヴァルツたちは、マスターの前に袋ごと魔石を放り投げた。


 確かに30個あるので、マスターは目を丸くする。


 それよりも彼が驚いたのは、赤くて小粒の魔石だ。


「この魔石はどこで見つけた? 第2階層まで潜ったのか?」


「当然よ」


 シュヴァルツはニヤリと笑う。


「よくたどり着いたな。初めてあそこに入った冒険者で第2階層まで潜った奴は誰もいないぞ」


「苦労したぜ。なあ、シュヴァルツ」


 ハルトはニヤニヤ笑いが止まらず、シュヴァルツの肩をポンポンと叩いた。


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